名誉と死の魔法剣士

@LostAngel

第1話

「カロナ・エストゲンは、騎士候補生として団に迎え入れることになったから」

 騎士団長の何気ない一言。

 ふらっとやってきた彼に見初められ、村を捨てる決意を固めたカロナ。

 強くなかったから、幼馴染を奪われた。

「痛い、痛いよ……」

 魔法で生み出された炎を全身に浴び、担架で運ばれていったヴィエゴ。

 賢くなかったから、親友が死んだ。

「なんでだよ……」

 俺は目に涙を浮かべ、一人自室にこもる。

 なんで、二人とも……。

 決まっている。俺が弱くて、馬鹿だったからだ。


 ※※※


 十年後。

 今日で十六になった俺、トーキは薄汚れた一室で目を覚ました。

「よっしゃ、いくか」

 ぼろぼろのベッドから素早く起き上がり、旅支度を始める。

 十六になったら世界を旅すると、以前から決めていたのだ。

「っし」

 準備が整ったので、部屋から出る。

「……起きたか」

 リビングルーム(にしている部屋)では、グラガが本を読んでいた。

「……実、食べるか?」

「いいや」

 食べると寿命が一日延びる『充足の実』。グラガは永遠の活力と命を得るため、その実が生る木を自らの左腕に接ぎ木している。

「……客観的に見ても、立派になった」

「そう言ってもらえると嬉しいね」

 俺は足を止め、グラガ、魔法の師に別れの挨拶をする。

「……世話になりました」

「……好きに生きるといい」

 彼はそれっきり、黙りこくって読書に熱中した。

 魔法の師としての彼はともかく、人間(一部木だが)としての彼は全く尊敬できない。本の虫。魔法馬鹿。自分の興味のあるものにしか手を出そうとしない偏屈爺。

 それが俺のグラガへの評価だったが、俺を思って一言くれたのは嬉しい。

 そんなことを思いながら、俺は隠れ家を後にする。

 下水の格子戸をキイキイ音を立てて開け外に出ると、一人の女性が待ち構えていた。

「よう、待ったぞ」

 俺の剣の師、クウィンだ。

「クウィンが勝手に待っていただけだろ」

「言ったな?まだ私から一本も取れていないくせに」

 はあ、またこれか。

 俺は安い挑発に乗った。

 剣を抜き、構える。クウィンも腰の剣をすらりと抜いた。

「来い」

「言われなくてもっ!」

 言い終わると同時に、俺は大股で斬りかかる。

 クウィンとの距離を意識し、ちょうど三歩で詰められるように歩幅を調整する。

 対して、クウィンはくるりとターンしながらこちらに寄ってくると、いきなり動作を速めて自分の体で隠していた刀身を突き出す。

「あっぶな!死ぬところだったぞ」

「これで死んでいたら、私はお前を旅には出さん」

 そうかい。初めから手合わせをするために待っていたくせに。

「乗ってやる」

 俺はクウィンの剣を自らの剣で弾くと、左手をかざす。

「『ファイア・ボール』」

 手に湧いた小さな炎が球状を成し、クウィンに向かって飛んでいく。

「ちい、猪口才な」

 魔法が使えないクウィンは、後ろに下がりながらそれを悠々と剣で弾く。

 隙ができた。

 今度は足を小刻みに踏み込み、初速を速めてから突きを……。

「動くな」

 いつ?

 いつ、移動していた?

 いつの間にか、クウィンが目の前にいた。

 目の前で、俺の鼻先に剣を突きつけていた。

「なに、見えない速度で足を動かせばよかろう」

 なるほど。俺がやろうとしたことをさらに速く、先んじてやられたということか。

 勝てるわけないだろ。……少なくとも今は。

「剣術、体術ともにまだまだだが、魔法を絡めた戦法はなかなかだった。通そう」

 通そうって、もとから通るつもりだったんだが。

 このように、クウィンも少しおかしいところがある。鬼教官、鍛錬の権化。剣を磨くことに快感を見出している性癖異常者。

 だが……。

「生きろよ」

「……はい」

 俺のために涙を流してくれる、素晴らしい師だ。

 俺は彼女の顔を見ないようにして、街の方へ向かった。


 ※※※


 冒険者ランクはE。どんな人間でも、初めて冒険者証を発行する際はEランクで登録されるらしい。

 近くの街の冒険者ギルドで諸々の登録を済ませた俺は、早速依頼を受けてみることにした。

 ハングリーウルフ10頭の討伐。これがいいな。

 歩いて街の外に出た俺は、餓狼を探すべく野原を走った。

「っと」

 早速、ハングリーウルフ発見。涎を垂らしながら、細い足を動かして歩いていた。

「バアアウッ!!」

「『ウインド・エッジ』」

 とびかかって噛みついてきたので、左手をかざしてカウンター気味に風の魔法をお見舞いする。

「ゥギャンッ」

 風の刃により口の延長線から頭を真っ二つにされたハングリーウルフは、断末魔を鳴いてこと切れた。

「まったく……」

 この程度の魔物は一撃で倒せるんだから、初めからBランクくらいにしてほしいものだ。

 俺はウルフの遺体を素早く回収し、次なる獲物を求めて野を駆けた。

「今度は三体か」

 しばらく探すと、ウルフの群れを見つけた。

「ハッハッハッ」「バウッ!」「グルルルル……」

 まあ、何体いても変わらない。魔法か剣で返り討ちだ。

「『ウインド・エッジ』」

 まずは、真ん中の個体に向かって風の刃を飛ばす。

 真ん中のウルフは本能で避けようとするが、無理だ。鋭利な空気の刃により、胴体を中途半端な形で切られる。

「ギャウッ!」「バアウッ!」

 それを見て、興奮した左右のウルフが同時に噛みついてくる。

 ハングリーウルフに噛まれると厄介なので、

「ギャアアウ……!」

 右を剣で受け止め、

「『アース・ニードル』」

 左を魔法でカウンターする。

「バアッ!!」

 左のウルフが地面から生えてきた石の棘に刺し貫かれたことを確認し、俺は左手を添えて右のウルフを一刀両断する。

「ギャウン……」

 よし、これで三体撃破完了。残りは六体だ。

「どこかに群れがいるといいんだけどなあ……」

 そう言いつつ周りを見渡すと、いた。十数頭くらいのウルフの群れが、商人のであろう馬車を取り囲んでいる。護衛の冒険者らしき風体の男女が戦闘しているが、劣勢のようだ。

 ここは、加勢した方がよさそうだな。

 俺は剣を抜き身のまま持ち、次に撃つ魔法を考えながら現場へ走った。

「馬車を守りながらは無理だ!隙を見て逃げろおっさん!」

「じゃが、商品が……」

「そんなもん、命よりは大事じゃねえだろ!」

「ごちゃごちゃ話してないで集中して!おじさんは逃げるか隠れるかして!」

「わ、分かったのじゃ……」

 おじさんは馬車の中に入り、扉を大急ぎで閉めた。商品とともに心中する決心がついたようだった。

 まあ、俺が加勢するから大丈夫なんだが。

「『ファイア・ボール』」

 早速、馬車を取り囲むウルフたちの外側から魔法で奇襲する。

 火の剛速球は一頭に命中し、全身を火だるまにした。

「魔法?……おいあんた、助けてくれんのか!」

「もちろん」

 そう言いながら、もう一度『ファイア・ボール』を放つ。

 別の一頭に命中。炎上して大やけどだ。

 他のウルフは火を嫌がり、馬車から少し後ずさった。

「今です。怯えてる最中にしかけましょう!」

 俺は一気に走り寄り、一頭の首を刎ねながらアドバイスする。

「お、おう!」

「坊主一人に活躍させるわけにもいかない!私たちも行くよ!」

 男女にもやる気の火が付いたようだ。

「はああああっ!」

 男の方は大きな斧でウルフをまとめて断ち切り……。

「はああっ!」

 女の方はメイスと盾を駆使し、ウルフを一頭ずつ撲殺していっている。

「『ファイア・ボール』」

 俺は俺で、遠くの、今にも馬車に侵入しようとしていた一頭を丸焦げにする。

「ギャウウッ!」「バウッ!」「ハッハッハッ……」

 そして近づいてくるウルフたちは、剣で応戦する。

「ギャウッ!」

 飛び込んできたら、カウンターで喉笛を掻き切り、

「バウバウ……」

 慎重に来るなら、大胆に突き刺し攻撃を見舞い、

「ハッハッハッ!」

 猛進してくるなら、足を切断し機動力を奪う。

 そんな感じで剣を振るい、三体を倒した。

「おらああっ!!……ふう、こんなもんか?」

「見える範囲のはあらかた片付いたわね」

「馬車が襲われるなんて、災難だったな」

 俺と冒険者風の男女は、戦闘が終わったものとして雑談を始めた。

 だが、「うわああっ!」という男の叫び声が馬車の中から聞こえてくる。

「おっさん!」

「撃ち漏らしが中に……」

 気づいた二人が駆け出すが、装備の重さもあってか足が遅い。

 俺は二人を走り抜き、馬車の扉を開け放つ。

 するとそこには、男の腕に噛みつくハングリーウルフの姿が。

「とりあえず」

 剣を素早く突き刺してウルフを排除し、外に投げ出しておく。

「いたたた……」

「大丈夫か、おっさん!」

「もしかして、噛まれた?」

 遅れて男女が馬車に入ってきた。

「噛まれてしまったのう。面倒なことになった」

「十中八九、餓狼病に感染したな」

 商人の痛そうな声に、俺はグラガから借りて読んだ本の一節を思い出して呟いた。

 餓狼病。ハングリーウルフの嚙み傷から感染する病気。発症すると極度の飢餓感に襲われ、食べても食べても飢えが満たされないという。そして悪化すると、人間や魔物を襲って食べようとし始める。

「わしもここまでか……」

「満月草の花を使う特効薬がバカ高いからなあ」

「でも、満月草ならこの辺りにも生えているでしょう?素材持ち込みで安く買えないかしら?」

「100本だ」

「え?」

「満月草の花100本の蜜で特効薬1個が作れる。満月の夜にしか咲かない満月草の花を100本、一晩で用意できるとは思えねえ」

「じゃあ、100本じゃなくてもいい。可能な限り集められれば安くなるんじゃ……」

「いや、それだとダメだ。医者に聞いたんだが、今街の満月草の花のストックはゼロに近いらしい。新しく100本用意しないと薬が完成しねえ」

「そんな……」

 男女が痛そうにしているおじさんと俺を差し置いて、重要な話を展開していた。

「なあ、ちょっといいか……」

「それじゃあ、どうすればいいの!幸い今日の夜は満月だけど、珍しい満月草を100本なんて!」

「依頼、出すしかねえだろうな。皆に協力してもらわねえと」

「でも、それだともっとお金が……」

「おっさんのためだ。借金してでも薬を用意してやる」

「ありがとう、ドガンや」

 おーい?

 俺を置いてけぼりにするなよ。

「ちょっといいか!」

「な、なんだ?」

「今重要な話をしているんだけど?」

「その重要な話に関わることだ」

 俺は胸を張り、威厳を最大限に醸し出して次の一言を放つ。

「俺に任せろ。満月草100本。今夜中に集めてくる」

「は?」

 俺が宣言すると、ドガンと呼ばれていた男が素っ頓狂な声を上げる。

「できるわけねえだろ!お前……」

「トーキだ」

「トーキよお、見たところ俺より若いじゃねえか!」

「年齢と能力は関係ないだろう」

「ま、まあそうだが」

「俺はこの辺の地理をよく知っている。満月草が群生する場所の目星もついている。だから、俺に任せろ」

 俺はなるべく頼れる冒険者風に言ってみたが、どうだろうか?

「断る」「嫌よ」

「な、なぜだ?」

「俺も探す」「私も探す」

 ドガンと女はほぼ同時に言った。

「ふっ、なら決まりだな」

 俺とドガンと女で、今夜中に満月草100本を探す!

 決意した俺たちは、まず馬車を街の中に避難させた。

 そして治療院に商人のおじさんを預け、安静にしててもらう。

 念のため治療師に話を聞いてみたが、やはり満月草は枯渇しているらしい。

「おっさんを助けるぞ、メイ」

「もちろんよ」

 ドガンと、新たに名前が判明したメイが沈みゆく夕日を睨みながら言った。


 ※※※


 夜になった。

 黒い闇の中を進んでいくのは危険だが、ことは一刻を争う。四の五の言っていられない。

 俺はドガンとメイとは別れ、街の北側の平原を探すことになった。

 宙に浮かぶ満月に呼応するかのように咲く満月草が最も多く群生しているのが、北部だ。俺ならば臨機応変に対応できるということで、俺に任せてもらえた。

「……」

 数分間走り続け、北部に到着した俺は周りを見渡す。

 周囲は漆黒に包まれている。薄明りで周囲を照らす満月草の花が、全く見当たらない。

「おかしいな」

 誰かが摘んだという可能性はあるが、全くのゼロというのはおかしい。

 それこそ数十人単位で採取しつくさない限り……。

 そのとき、前方の闇からなにかが飛んできた。

 ナイフだ。俺は素早く剣を抜いて弾く。

「お見事」

 闇からぬうっと人が現れ、唐突に俺を褒めた。

 一人、二人、三人、四人。他にも気配が感じるが、様子見か。

「満月草は、あんたらが?」

「ええ。蜜は高く売れますからね。これもビジネスです」

 ナイフを投げてきた、一番手前にいる男がすらすらと話す。

 なるほど、そういうことか。

「さながら、卸業者ってことか。安く仕入れて高く売る」

「そうです!あなたは物分かりがいいですね」

 男はあくまで丁寧語を崩さないつもりのようだ。

「物分かりがいいあなたなら、早い者勝ちってことも理解できますよね?」

「ああ、理解はできるな」

 俺の一言を耳に入れたとたん、男はにったあと笑った。

「では、ここは穏便に……」

「今すぐその薄汚ねえ商売をやめるか、死ぬかだ」

 いつもの調子を崩さぬ、俺は通告した。

 その瞬間、男の顔が歪んだ。

 笑顔が消え去り、嘲笑と憤怒のないまぜになった新しい表情が形作られる。

「殺してください」

 男は小さくそう呟くと、後ろに下がって闇の中に消えた。

 ちっ、お前がやるんじゃねえのかよ。

「……」「……」「……」

 首領が退いた途端、後ろにいた三人が殺気を膨らませる。

 左から筋肉、長身、女でいいか。

 黒いローブを着た三人が、足音を立てずににじり寄ってくる。

 そして、一気に詰めてきた。

「『アース・ニードル』」

 多分、魔法を使う相手との戦闘をしてこなかったのだろう。

 愚直にも同時に突っ込んできた三人の暗殺者の足元に、土の棘が突き刺さった。

「満月草はどこだ?」

「……」

 身動きが取れない三人に向かって問いかけたが、無言。

 俺は筋肉の首を刎ねた。生憎だが、人を殺す訓練は受けてきている。

「満月草は、どこだ?」

「……」

 今度は長身に問うが、覚悟が決まっているらしい。

 長身の首も刎ねた。

「最後。満月草はどこだ?」

「……アジトに運んである。北の廃村」

「そうか」

「ねえ、言ったから私は……」

 俺は女の首を刎ねた。

 女だからと言って、容赦はしない。

「廃村か」

 有益な情報を得たな。

 俺は身を翻した。


 ※※※


 急いでドガンとメイと合流した俺は、北の廃村に満月草があることを伝えた。

 二人も一本すら採取できなかったそうだ。

「汚い商売だぜ!人の命がかかってるっつうのに!」

「治療院に法外な値段で売りつける気よ。人間の屑ね」

 二人も俺と同意見のようだ。

「じゃあ改めて聞くが、行くか?」

「「もちろん!」」


 ※※※


 廃村の一番奥に構える、大きなぼろ屋敷に男がいた。

「これだけ稼げれば、来るクーデターのときにも……」

 屋根の隙間から照らす月の光が、玉座に座る男の気持ち悪い笑みを一際強調する。

「やはり、持つべきものは金ですねえ……」

 にたあと最悪な笑みがこぼれたところで、配下の伝令役が近づいてきた。

「大変ですクルラ様!先ほどの男が、仲間を連れてやってきています!」

「なんです?」

 体術に自信のある配下三人を倒し、さらにはアジトにまで乗り込んでくるとは。

「身の程知らずが。部を弁えて頂きましょう」

 男は笑みを引っ込めると、すっくと立ちあがった。

「侵入者は私が殺します。各員持てるだけの花をもって散りなさい。3日後に例の場所で落ち合う手筈でいいでしょう」

「はっ」

 伝令役は短く了解の意を示したが、それが最期の言葉となった。

「は……」

 トーキが彼の胸に刃を生やしたからだ。

「観念しろ、男」

「クルラです」

「そうか。『アース・ニードル』」

「ッ!?」

 唐突に撃たれた魔法を、クルラは驚きつつも躱してみせた。

「流石に、魔法の心得はあるか」

 不意打ちが失敗し、トーキが残念がる。

「調子に乗るんじゃないですよ。私だって魔法くらい使えます」

「ほう」

 適当に相槌を打ち、トーキが走り出す。

 狙いはもちろんクルラだ。

「『アイス・エッジ』!」

 クルラが唱えたのは『アイス・エッジ』。刃状の氷を発生させ、前方に射出することで相手を切り裂く魔法だ。

「切り刻まれなさい!」

「弱い」

 対するトーキは、剣で挑んだ。

 剣を真正面から刃に叩きつけ、氷を割り砕いたのだ。なんという力業。

「ご自慢の魔法はそんなものか?」

「だ、黙れええっ!習得に何年費やしたと思っている!この私の貴重な時間を!」

「お前こそ黙れ。『ウインド・エッジ』」

 おしゃべりで短気なのがクルラの敗因だった。

 二撃目の魔法を撃つ暇なく、鋭利な風の刃によって首領の首が飛んだ。


 ※※※


 その後は、控えめに言うと虐殺が行われた。

 首領を失い、各自の判断で逃げ出そうとした配下の花泥棒たちを追い詰め、殺し、満月草の花を取り返す。

 という事後処理を、トーキ、ドガン、メイの三人は粛々と行った。

「これで全部だな。足が速いのには逃げられたが」

「100は余裕で越えてるし、万々歳だな!」

「余った分は寄付できそうね。よかった」

 大勢の人を死に追いやったというのに、ほくほく顔の三人。

 この世界では、命が軽い。特に悪事を働いた者の命は。


 ※※※


 太陽が地平線から顔を出し、闇に覆われた夜が明ける。

 治療院の一室、商人のベッドを取り囲むようにしてトーキ、ドガン、メイは立っていた。

「すまんのう、お三方。わしのために」

「なーに、どうってことねえよこれくらい!」

「さ、ぐびっといっちゃって」

 メイにせかされ、商人は満月草の蜜の入った薬のコップを手に取り、一息に飲み干した。

「どう?」

「甘いのう。なんだかとても満たされた気分じゃ……」

 商人はふにゃふにゃになり、ベッドに突っ伏してしまった。

 これは、大丈夫なのだろうか?

「飢えを感じさせないくらい満たしてやることが、餓狼病への治療ってわけか」

 薬学に詳しくないトーキはそう納得し、病室を後にした。

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