幼馴染は行き遅れ
金平糖二式
面会
ああ、はい。
どうもお久しぶりですね。
えーと、最後に会ったの何時でしたっけ。
確か中学卒業……違う?あれ、高校の時だったっけ?
まあ二、三年くらいだし誤差でしょ誤差。
……で、今日は一体何の御用でしょうか。
貴女のご両親から土下座されて、どーしてもって言うから会いましたけど。
お互い、今更話す事なんて何もないじゃないですか。
うん、「まずは謝りたい」……何の話です?
俺の態度が他人行儀――できれば昔みたいに、いや勘弁してくださいよ。
何でって……いや、そりゃねえ?
まあ……何ですかね。
一応、子供の頃からずーっと一緒に居て……大体、十年くらい?
それくらいの期間の積み重ねがあった上で、……えーと、確か、高校……入ったあたりで付き合ったわけでしょ、俺等。
その上で、恋人どころかまともな人間関係すら築いたことがどうかさえ怪しい、そっち方面のアレが書いたような、くっそしょーもない
……あー。そういう
嫌いですよ。事あるごとに空気も読まずに、脳破壊がどうとか騒いでる馬鹿とかひっくるめて、大嫌いになりましたよ、おかげさまでね。
まさかそういう目に会って、性癖に目覚めた~みたいなフカシこいてるアホがいるからって、真に受けてるんですか?
それこそ現実と
ってか、よりによってアンタがそれを――っと、失礼。
話が逸れましたね。
で、例の『運命の相手()』は結局どうなったんです?
貴女のご両親からは、もう貴女とは縁が切れた、くらいしか聞いてないんですが。
えーと。
大学出て立ち上げた会社が、大口の取引先……の、重役の息子さんの婚約者に手で出したのがバレて、業界に回状まわされて、にっちもさっちもいかなくなって倒産の上、借金地獄。
で、おまけに……社会人になってからも、中高生くらいの娘にも手を出してたのまで調べられてバラされて、通報。
最後には未成年淫行で前科者と。
あんな人だと思わなかったって……見えてた地雷でしょあれ。
分かってなかったのアンタとそのお友達くらいじゃないですかね。
三つ子の魂百まで、っていうし……まあ、妥当な末路では?
あー、アンタらあの手のクズが大好きですからねー。
違う、騙されただけ?
いやあのねえ……まあいいや。
で、まだ籍は入れてなかったから、慌てて縁切って逃げてきた――何回か連絡か来たけど無視してる。ああ、はい。
……大した『運命の相手()』ですね、本当に。
で、繰り返す様ですが――今更何の用ですかね。
俺もそんなに暇じゃないんですけど。
……あん?今何て言った。
もう一度、やり直したい……だぁ?
ああ――またやっちまったか、失礼。
いやいやいや。無理ですよ無理。
いろんな意味で貴女の事、そういう対象としてはもう見れませんわ。
大体あれから何年たったと思ってるんですか。
……あー。
今は実家住まいで、仕事も派遣で食いつないでるけど、収入も少なくて将来が不安だと。
あと最近、貴女のご両親からの視線が、違うというか、自分たちが死んだ後の事を、やたら真剣に心配されるようになってきて、地味にきつい?
いや……そんなこと俺に言われてもねえ。
そっち系の団体に駆け込んで、福祉に繋がればいいんじゃないですか?
それに、そういう相手を探すなら、マッチングアプリ……は、止めといたほうがいいな。
あそこ、アンタが前に引っかかった奴の同類の餌場だから。
結婚相談所にでも行って探して――え、もうやって駄目だった。
現在進行形でボロクソ言われて心が折れそうだと。
……えーと?
『貴女が希望してるような男性は、早ければ学生時代くらいからちゃんとした相手が居る。というか貴女が学生時代に切り捨てたような、真面目な相手がそうなってる』
『妥協したつもりのラインも、十分高望み。
そんな相手が、万が一
『貴女の年齢で、同年代の相手を希望するなら、年収は中央値を希望する事すら高望み』
……はー。うーん?
誤魔化さずにはっきり言ってくれるあたり……結構いい
いや正直、当たり前の事しか言ってないですよ、それ。
それに、男の方だってバカじゃないからね。
変なのと結婚したら人生詰みますし、男の婚活ってアホみたいに金がかかるじゃないですか。
時間が経てば経つほど、条件はどんどん悪くなっていきますよ。
まあ、一回りくらい年上で、中央値くらいの年収の相手でも狙ってみたらどうです?
……酷い?いや、あのねえ。
客観的に見て婚活市場での市場価値だと、厭味抜きでアンタと釣り合うとこって、その辺りですよ。
どうしても嫌なら、まあ可能性は低いけど、今からでも恋愛結婚で相手を探すしかないですね――って、はあ……俺?
しつこいねアンタも。だから勘弁してくださいって。本当に。
……あのさ、はっきり言わせてもらいますよ。
心の何処かで十代、二十代前半くらいにちやほやされてた感覚が抜けきってないみたいだけどね。
もう若くないんだよ、貴女は。とっくにおばさん、って言われるような齢なんです。
貴女が人生で一番魅力的だった時期は、もう
年食ってからすり寄って来られても、気色悪いだけなんですよ。
ああ……だから、いい大人が泣かないでくださいよ。
見苦しくてみっともないだけだから。
今の状況は、若い頃好きに遊んだツケ、ってやつですね。
赤の他人の俺が言うような事でもないけどねえ……この機会に、もうちょっと大人になってくださいよ。
じゃあ、お帰りはあちら。
ってはいはい、ぐずらないずらない。
もう話す事とか無いんで、俺のとこには来ないで下さいね。
……んじゃ。
(ばたん、と扉が閉じる音。その後、鍵がかちゃりとかけられる音が続く)
…………………………
……………………
………………
…………
……
「私……」
一人きりで放りだされ、自然と、言葉が漏れる。
あれだけ罵倒されても、怒りさえ湧いてこない。
――だってそれは、今まで私が目を逸らしてきた事だから。
胸の内からじわじわとこみ上げてくるのは……惨めさと、情けなさだろうか。
「いま……まで」
みっともないことがわかっていても、涙が止まらない。
ああ、本当に――その通り。
なのに、なんで。止まって、くれないの。
「なに、やってたんだろ」
ようやく、十年以上経って、自分が取り返しがつかない選択肢を、選んだのだと。
本当の意味で、自覚させられて。
ただ、立ち尽くしたまま、呆然と呟いた私の声に、答えてくれる者はいなかった。
……いるわけも、なかった。
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