サバイゲーマーズアクト~サバゲーマーが異世界の森でサバイバル~
天坂 クリオ
第1話 サバゲーしていたはずなのに
俺は森の中を慎重に歩いていた。
空は茂った木々に遮られて全く見えず、薄暗い。腕時計が正しければ昼間のはずだけど。
足下は雨の後でもないのに湿っていて、足を踏み出すたびにわずかに沈む。道は無い。
石や木の根がごろごろあって、走ったらすぐに転びそうだ。
俺の名前は
今日は友人とサバゲーに来ていたはずだが、気付くと見知らぬ森の中にいた。
サバゲー用の迷彩服を着て
いつものクセで無意識にポケットから
電源を落とした覚えはないが、起動画面になったので少し待つ。起動したと思ったら、ビーコンのようなピコンピコンという音が鳴った後に見慣れない画面が出てきた。
【救え】
その一言だけが表示され、いつもの画面に切り替わる。
見間違えたか、あるいはバグか。
結論がでないままに画面を操作していると、おかしなことに気がついた。
普段使っていたアプリのほとんどが消えている。
ソシャゲはもちろん、連絡用のアプリもWebマネーアプリもなくなっている。
その代わりとでも言うように、【Wマーケット】という見慣れないアイコンが大きく表示されていた。
【Wマーケット】なるアプリをタップすると『now connecting……』の表示の後に起動した。電波状況を表す表示がないのに、どこかと通信できているのか?
マーケットという名の通り買い物ができるらしく、数多くの品物がラインナップされている。購入には【EN】なるポイントが必要らしく、いつの間にか登録されていた俺のアカウントには【25,032】ポイント入っていた。
半端な数字に首をかしげたが、すぐにその意味に気がつく。
これ、俺が持ってた現金と同じだ。
あらためて自分の装備をさぐるが、財布どころかパスケースも無くなっている。
鉄道カードとかコンビニカードとか、そっちにチャージされていた分は反映されていないのが少しくやしい。
いやそもそも俺の持ち物全部返してほしいんだが。
放心気味にマーケットを見ていると、【初回利用者への無料特典】として【サバイバル初心者セット】なるものが表示されていた。
タイトル通り【0EN】で購入できるらしいので、試しにカートへ入れて購入してみる。
『サバイバル初心者セットの購入ありがとうございます。商品は【マイ倉庫】から取り出してください』
と表示された。
【マイ倉庫】を開くと、正方形の枠が6×6個あり、そこに飲料水(2L)×3、携帯食料(一日分)×3、布×2、防水シート×2、寝袋×1、サバイバルガイド×1、小型発電機×1、小型バッテリー×1、SSR×1、生成分解0.25g弾(100g)×3が入っていた。
同じ物は1枠にスタックできるようで、10枠が埋まっている。
最後のふたつ、SSRとエアガンの弾は俺が使っているもののはずだ。AKとは同時には使わないので休憩所に置いてあったはずだが、なぜ倉庫に入っているのだろうか。
SSRはエアガンメーカーのオリジナル商品で、空気圧で弾を飛ばすエアコッキングタイプのスナイパーライフル型エアガンだ。
弾はAKと同じだし、満タンの弾倉二つがベルトについている。かさばる予備が倉庫にあるのは安心できる。……いや、サバゲーやってる場合じゃないから、あっても無意味かもしれない。
倉庫にあるものがどうやって手元に届けられるのか不思議に思い。携帯食料を1つ選択して【取り出す】を押す。するとカメラが起動し目の前の地面が映し出された。そこに携帯食料のパッケージが半透明に表示される。
足下に来るようにして【決定】すると、半透明だったパッケージが実体を持って、そのまま地面に転がった。
ケータイをどけてみると、画面の中にあったパッケージがそこにある。
パッケージをつかんで開封し、一食ごとに小分けされた1つを開封して口に入れる。よく知っている携帯食料の味がした。
夢みたいだが、夢では無い。
とりあえず理解を放棄して、歩いてみることにした。
それから一時間くらい経っただろうか。森の中の広場のような所に出たので一時休憩することにする。
上を見ればそこだけぽっかりと穴が空いたように空を見ることができた。雲1つ無い青空で、今は昼ということくらいしか分からない。
そう思ったらはるか上空を、一羽の鳥が横切ろうとしていた。そのゆったりと見えるスピードと大きさが、ジャンボジェットを連想させる。
まさか、そんな大きな鳥がいるわけない。寝ぼけているのか、あるいは目の錯覚だろう。きっとたぶん。
とりあえず【マイ倉庫】の中から飲料水(2L)を取り出し、一口飲む。水が喉を落ちていく感覚が、気分が落ち着けてくれる。
もうこの異常事態を受け入れるしかない。
俺がいるここは、俺の常識を越えた世界だ。
ため息をひとつついて気持ちを切り替え、これからすべきことについて考える。
大目標として俺は、最初にケータイの画面に表示されたように何かを【救え】ばいいのだろう。
それによって元の世界に帰れるのか、あるいはゲームクリアとなるのかは分からない。だが大まかな方針は必要だ。なので救うことを念頭に行動することにする。
中目標としては、どこかの街へたどり着くことだろうか。
こんな森の中に街があるとは考えにくいが、現代日本なら山の中の集落とか普通にあるはずだ。
最後に小目標として、現地人を見つける。
これくらいがちょうど良いだろう。
木によりかかりながら【Wマーケット】を開くと、【サバイバル初心者へオススメの商品はこちら】というタブがあった。
内容はマップ・言語翻訳(一般)などのアプリや、サバイバルナイフ・簡易浄水器などの便利アイテムが並んでいる。
アプリは必要だと思うので、マップと言語翻訳の両方を購入しておく。こちらはすぐに携帯端末にダウンロードされた。
ここは明らかに日本じゃない。いきなり外国の兵隊とかに出くわすかもしれない。
俺がこんな場所にいるのは何らかの超常現象が起きたに違いないし、それを特殊部隊が調べにくるかもしれない。……これは単なる妄想だな。落ち着こう。
山の中だし、サバイバルナイフも使う場面はあるだろう。靴や服も売られていたが、まだ購入しない。
マップアプリを開くと【10×10Km】と隅に書かれた地図が表示された。
俺が歩いた周囲が色づいていて、その外側は曇り空のように灰色になっている。
これ、最初はかなり不便では?と思ったが、離れた場所に【?】マークがいくつかポイントされていた。
正体が何かわからないが、目印になる場所がわかったのはいいことだ。
2kmくらいの場所に【?】が一つあるので、まずはそこを目指すことにしよう。
まさかサバゲーに来て、サバイバル活動することになることは思わなかった。
サバゲーはサバイバルゲームの略だが、このサバイバルとは敵に撃たれないよう生き残るという意味だ。
こんなサンドボックス型ゲームのように何の説明もなしに放り出されて放浪するような意味ではない。
ゲームだったらもっと親切であるはずだ。
木を殴っても手が痛いだけで壊れる様子はないし、枝を拾っていじっても何か作れる気配はない。せいぜい杖の代わりにできるくらいだ。
携帯端末は便利アイテムと言えるが、お金代わりである【EN】の補充方法に関してはまだ何もわからない。
有限である以上、気軽に使うことはできない。
使い切ったなら水も食料も買えず、生存のための難易度が急上昇することになる。
ケガも命取りになりかねないだろう。
今はサバゲー用の装備をしているが、プロテクターなどを買い足してもいいかもしれない。
丈夫な靴と手袋を選んでいた過去の自分には感謝しかない。
そんなことを考えながら歩いていたら、遠くから音が聞こえてきた。
木の葉擦れの音ではない、例えるなら、獣同士が争うような声に聞だ。
サルか何かの奇声、あるいは囃し立てるように騒ぐ声。それに対抗するように、犬か狼が威嚇して吠えている。
犬でも猿でも、今の俺には危険なことには変わりない。
音を立てないよう慎重に近づくことにする。
森の奥に光が見える。あれは川が光を反射する光だ。その川の近くで、誰かが戦っているのが見えた。
片方はサルのように小柄だが、3、いや4匹の集団でしかも武器を持っている。木を削った槍や棍棒、あるいは弓など粗末だが、確かに相手を殺すための武器だ。そして顔には木の板のような仮面のらしきものを付けている。
体の模様や悪趣味な装飾品からして、蛮族な雰囲気がプンプンしている。
それに相対しているのは明るい茶髪1人の女性だった。
動きやすそうな服の上に胸当てなどのプロテクターを付け、弓矢を背負っている。
いまは剣を両手で構えて、蛮族を牽制していた。
最初は普通の人間だと思ったが、頭に獣耳らしきものが見える。
状況は、女性の方が分が悪そうだ。
蛮族の方は近接武器持ちが責め立てつつ、その後ろから矢を射かけている。
驚くことに女性は飛んでくる矢を剣で斬り飛ばしているが、蛮族達の連携によって小さな傷をいくつも受けている。
反撃でダメージを与えているが、蛮族は逃げようとしない。それどころか怒りで高ぶっているようだ。
俺はどちらに味方すればいいだろうか?それは当然女性の方だろう。蛮族より話が通じやすそうだし。
そうと決まれば、ずっと背負っていたAK47を両手で握る。
マガジンを取り付けて、動作を確認。
ゆっくりしゃがみながら進む道を検討する。
音を立てないよう気をつけながら、木々に隠れながら慎重に進む。
狙いは後方の弓持ち。全員が仮面で頭を覆っているので、サバゲーマーとしても安心して狙える。
狙撃位置につき、安全装置を外して木の後ろから少しだけ顔を出す。
相手はこちらに気付いていない。腕を狙って、引き金を引いた。
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