ものぐさエルフのゴーレム工房~作ったゴーレム達にお仕事任せてぐうたらスローライフを送りたい~

ジャジャ丸

第1話 家を追い出されました

「エリア、お前には里を出て行ってもらう」


「えっ」


 エルフの隠れ里、森林都市シルファリア。

 その里長の娘たる私は、ある日突然お父様から勘当を言い渡された。


「なんで!? 私何か悪いことした!?」


「なんで、だと……? エリア、お前は本当に分からんのか?」


「分からないよ!!」


 あれかな、この前お父様が楽しみに残してたゼリーを食べちゃったこと怒ってるのかな?

 それとも、部屋の中で錬金術の実験を失敗して、家を半分吹っ飛ばしちゃったこと?


 ……いやいや、ゼリーはともかく、家はちゃんとその後直したし。お父様が帰ってくる前に。

 だからセーフ、セーフだよ!!


「お前が一日中家に篭ってゴロゴロ遊んでいるからだろうがぁぁぁ!! 少しは働けぇぇぇ!!」


「!!?!?」


 思わぬ理由に、私は愕然とした。

 そんな……だって……。


「働く必要ある? 私達、神樹様のご加護があるから何もしなくても食べるには困らないじゃん」


 私達エルフは、巨大な森林地帯のど真ん中に聳える世界樹……“神樹様”を奉じ、その恩恵を受けて暮らす一族だ。


 神樹様にはとんでもない豊穣の力があって、その周囲にある植物は全て、とんでもなく栄養満点の果実を年がら年中実らせる。


 これさえ食べておけば千年生きられるという、エルフの主食だ。いや、別にその果実に寿命を伸ばす効果があるわけじゃないんだけど。


 この植物……“世界樹の実”は、特に手入れとか水やりとかしなくても勝手に生えてくるので、エルフに生まれたからには農作業は不要。

 建物を作るのも魔法でちょちょいとやれば簡単なので、大工仕事だって不要だ。


 “エリア”として生まれる前……人間として生きていた前世の記憶を持つ私にとって、これほどの理想郷は他にないという最高の環境だった。


 働かなくても生きていけるって最高!! ここなら眠気を堪えて満員電車に乗る必要も、嫌味なクソ上司のセクハラに耐えて笑顔を振りまく必要も、定時間際に狙い済ましたように追加された仕事で終電を逃すことも、まして働きすぎで過労死することもない!!


 ああ、素晴らしきかなエルフ族!! 神樹様バンザイ!!


「働く必要はある!! 働かなければ外貨が稼げんだろうが!!」


 ……というのも今は昔。ここ数年の間で、シルファリアはすっかり近代化の波に呑まれてしまった。


 魔法で雑にドームを作るだけだった家は、木材を組み立て匠の技で理想的な空間を構築した立派なお屋敷に。


 上下水道も完備され、料理も……ただ世界樹の実を齧ったり少し加工するだけだったのが、立派な料理を食べられるようになった。


 代わりに、お仕事して外貨……もとい、人間の国のお金を稼がなきゃいけなくなった。オーマイガー。


「私まだ二十歳!! お子ちゃまなの!! もうしばらく養って!!」


「人間ならとっくに働いている歳だ!!」


「エルフの寿命を考えたら、人間換算で二歳くらいじゃん!! ほぼ赤ちゃんだよ!!」


「錬金術の実験で家を吹き飛ばす赤ちゃんがいてたまるか!!」


「げえっ、バレてた!?」


「当たり前だ!!」


 舌戦は完全にお父様に軍配が上がってしまった。


 でも実際、私は寿命千年とすら言われるエルフの二十歳。体格としては、人間基準で十歳にも届くか怪しいか弱い幼女なのだ。


 長い耳は立派にエルフだし、長い銀色の髪と緑の瞳は我ながら綺麗だと思うけど……幼女なのだ。


 こんなんでお仕事とか、貰えなくない?


「心配するな。お前の錬金術の腕を見込んで、伯爵様からトリンドル領での出店許可を取り付けてきた。既に建物が建っている街中でなければ、どこでも店を構えてもいいらしい。これで、錬金術で何でも好きな物を作って売れるぞ」


「無駄にしっかりした手回し!!」


 トリンドル伯爵領は、シルファリアと接する一番大きな人間の領地だ。

 近頃一気に近代化が進んだのは、大体このトリンドル領とそこの伯爵家との付き合いが原因と言っても過言じゃない。


 まさかそんな大物と既に話を付けてたなんて……まずい、どんどん外堀が埋められていってる気がする。


 何とか逃げ出す隙はないのかと、お父様をじっと見つめるも……慈悲はなかった。


「というわけで……行ってこい」


 こうして私は、お父様に半ば追い出されるような格好で……エルフになって初めて、人間の町に向かうことになってしまったのだ。





「はあ……既に帰りたい」


 シルファリアを出た私は、早速トリンドル領にやって来たんだけど……もう歩くのがダルすぎる。


 もうこの辺で適当に家を建てて住もうかな。町中じゃなければどこでもいいんだよね?


「あーでも、ここでは神樹様の加護が受けれないし、全く人が来ないとそれはそれで困るかー……少しは錬金術で稼げないと、ご飯も食べれない」


 錬金術とは、魔法の効果を物に付与したり、魔法の力で物質同士を結びつけ、新たな物質を生み出したりする技術のこと。

 代表的なのが、傷や病を癒すポーション、魔法を使えない人でもその力を使うことが出来る各種魔道具や巻物スクロールだ。魔剣なんかの武器も有名かな?


 非常に便利で汎用性があって、とっても研究しがいがある楽しい技術なんだけど、当然この技術で作った“アイテム”を人に売らないことにはお金にならない。


「適度に人が来て、適度に物が売れて、好き放題錬金術の実験をしても誰も気にしないところ……」


 ……そんなのあるかなぁ。


 溜息を吐きながら、私は町に向かってトボトボと歩き続ける。


 歩いてる間にいいアイデアが浮かばないかなー、なんて思っていると……まだまだ町から距離がある街道で、人の一団を目にした。


 その背格好からして、冒険者だろう。

 魔物が出現する魔境ダンジョンに足を運んで、貴重な資源を持ち帰ることを生業とする人達。

 人間社会では、錬金術師のお得意様だ。


「……そうだ、閃いた」


 いっそ、ダンジョンの目の前にお店を構えたらどうだろう?


 冒険者達が必ず通る場所だから、人が来ないということもないし、彼らも町で準備を整えた上でやって来るはずだから、そこまで大忙しにはならないはず。


 ダンジョンの近くなら、錬金術に使う素材も手に入りやすいし……うん、完璧だ。


「よし、そうと決まれば、彼らに話を聞いて良い場所を確保しよーっと」


 そんな風に楽観的に考えながら、私はお店の場所を決定するのだった。

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