第11話
その日、僕は会社で、どうにか入手できた物資の振り分け先をまとめるのに夜中まで掛かっていた。
必要な量には程遠くて、生活はますます苦しくなってきていた。
スーパーマーケットの食料は日に日に値上がりしていて、来週からはトイレットペーパーなど日用品の一部は配給制になることになっていた。
深夜一時をまわった頃、ふいに揺れを感じた。
僕はいつものように小隕石がガード・ドームに衝突したのだろうと思った。
そのときの時刻は、正確には午前一時三分だった。
オフィスには僕と、もう一人の社員しかいなかった。
広いフロアの半分以上は明かりが消されていた。
僕は休憩がてらテレビをつけた。隕石の衝突の場合は落下地点と隕石の大きさ、被害の有無が速報で流れるので、それを念のため確認しようと思ったのだ。
テレビでは音楽番組をやっていた。セレーヌで活動している流りのバンドがせわしなく歌っているとその頭上に字幕でニュース速報が表示された。
隕石の推定落下地点の地名。それは僕のアパートから、かなり近かった。
被害の詳細は調査中とあったが、いままでまずまちがいなく大丈夫だったので、僕は特には気に留めずに、コーヒーメーカーに作り置きしていて数時間経ってしまっていたコーヒーをカップに注いだ。
テレビではバンドの曲が終わって、今週の新曲ダウンロードのランキングが流れていた。八位の曲のときに、突然画面が切り替わり、報道センターの男性アナウンサーの深刻な表情が映し出された。
オフィスにもう一人残っていた中年の社員が、アナウンサーの深刻そうな声に気づいて振り返った。何かあったようだ。
隕石のニュースと関連があるのは間違いがなかったから、ニュースの内容を聞いたら、僕はすぐにユミに連絡を取って、安否の確認をするつもりで、アナウンサーの言葉を待った。
もう一人の社員の顔にも緊張の色が見える。ただでさえここのところは国際情勢が不穏になっていたため、誰もがニュースには敏感になっていた。
ススキガハラ区のガード・ドームに破損発生。空気の流出が起こっている模様。
僕のアパートのある区だ。
僕はすぐに携帯電話を手にして、自宅の番号をかけた。出ない。次にユミの携帯電話の番号。電波の届かないところにいるとの自動メッセージ。
「俺、家の様子を見てきます!」
そういうやいなや僕はその場を駆け出した。後には、中年社員と、味の落ちたコーヒーが残された。テレビではアナウンサーが、事故が人為的なものである可能性があり、市民は冷静な対応をするよう繰り返し呼びかけていた。本当に人々を落ち着かせたいのであれば、この時点でそんなことを言うべきではなかったのに。
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