メデタシ・クロニクル
荒々 繁
第1話 御伽噺の住人
世界中で同時刻に図書館並びに本屋が爆破される事件が起きた。
瓦礫の中から現れたのは数人の男女。
彼等は異様な力を持ちその場にいた者達を無差別に殺戮していった。
各国の戦闘部隊が到着する頃にはその一角には死体の山が積まれ不思議な力をもつ男女は姿形を消した。
その数日後。
荊に包まれた巨大図書館が現れたのが確認された。
その中から出てきたのは冒頭の事件に関与した不思議な男女。彼等は自ら『御伽噺の住人』と名乗った。
荊に包まれた巨大図書館の出現に、世界中が恐怖と混乱に包まれた。
各国は緊急事態宣言を発令し、軍を派遣して図書館を封鎖したが、内部に侵入する試みは全て失敗に終わった。荊は刃も弾丸も通さず、近づく者を無差別に突き刺す生きた壁のようだった。
一方で、図書館の周囲では不審な現象が相次いで報告された。
突然現れる幻影、耳元で囁かれる不気味な声、地面から湧き出る黒い液体。これらは「御伽噺の住人」が図書館の支配領域を拡大している兆候だと考えられた。
“彼らは何者なのか。なぜ我々の世界に現れたのか。”
この謎に挑むべく、各国政府は共同で調査チームを結成。最新鋭の技術と歴史学者、さらには特殊能力者が集められた。
だが、ある日、彼らの正体が明らかになった瞬間、世界は再び震撼することとなった。
出現から一週間後。
荊に包まれた巨大図書館の上空に一冊の巨大な本が浮かび上がった。
本は金色の輝きを放ち、あたかも空全体を支配しているかのようにゆっくりとページを捲った。そして、耳をつんざくような声が世界中に響いた。
「我々は“アリスト”。御伽噺の住人たちだ。」
声は続けてこう告げた。
「物語を紡いだのはお前たち、人間だ。しかし、お前たちはその物語を歪め、破壊し、忘却した。我々の存在理由を奪い去り、自分たちの欲望のために物語を利用した。」
声の主が語り終えた瞬間、巨大図書館の扉が開かれた。
そこから現れたのはシンデレラ、人魚姫、いばら姫――物語の中で誰もが知る「主人公」たちだった。
だが、彼らの姿はどこか異様だった。
シンデレラのドレスは血に染まり、人魚姫の尾ひれは黒く変色し、まるで腐敗した海藻のように滴り落ちる液体を纏っていた。いばら姫の髪は荊そのものとなり、不気味に蠢いていた。
「お前たちに問う。『めでたし、めでたし』の結末を迎えた世界は、なぜまた同じ過ちを繰り返すのか?」
シンデレラが鋭い声で叫ぶと、彼女の背後から数十人の断章者――物語の登場人物たちが現れた。
断章者たちは無表情のまま、その場でただ静かに立ち尽くしている。
人魚姫が一歩前に進み出て、冷たく笑った。
「お前たちは物語の結末ばかりを追い求めた。『めでたし、めでたし』さえあれば、そこに至る道筋も、私たちが背負った痛みも、何一つ見ようとしなかった。お前たちのために流された涙や犠牲は、ただの飾りだったのか?」
彼女たちの目が怒りに燃え上がる。
「物語の裏に隠された真実や教訓を無視し、都合のいい結末だけを望んだ結果がこれだ。お前たちが求めた『幸せ』のために、私たちは何度も犠牲を強いられ、報われることもなく忘れ去られた。」
いばら姫の声が低く響き渡り、その場の空気を凍りつかせた。
「今こそ、お前たちにその報いを与える時だ――『めでたし』の影に隠された真実を思い知れ。」
その場に立ち尽くしていた人々は、彼らが語る言葉の意味を理解しきれないまま、恐怖と混乱に包まれていた。
軍の力ではアリストには遠く及ばず壊滅されられた。人々は逃げ惑う日々に希望を見出すことが出来ずに世界には絶望が拡がっていった。
その混乱と恐怖の最中、一人の青年が立ち上がった。
彼は特別な存在ではなかった。だが、彼の目には決して揺るがない強い意志が宿っていた。
青年はかつて「御伽噺の住人」と対峙した唯一の人物だった。
荊に包まれた図書館が現れる数日前、初めて「御伽噺の住人」の存在が確認されたとき、彼はその異変の中心で生き延び特殊能力が開花した者だった。
その記憶は、彼にとっても断片的だった。だが、彼は確信していた。アリストに立ち向かうためには、この力を持つ者たちが必要だと。
青年は動き始めた。世界中を巡り、同じようにアリストの脅威に触れた者たちを探し、彼らを説得して集めた。
集まった者たちは科学者、兵士、そして超能力者など、出自も能力も異なる多種多様な人々だった。
彼らには共通して「戦う理由」があった。
家族を守りたい者、自分の過去を清算したい者、そして、ただ純粋にアリストの存在を許せない者。
青年の存在とその行動は、各国政府にも注目されるようになった。
政府は初めは彼の活動を危険視していたが、やがて彼の「戦いを終わらせたい」という純粋な思いに動かされ、支援を開始した。
そして、青年を中心に結成された組織は「リバレイト」と名付けられた。
リバレイトは、アリストの力を徹底的に研究し、対抗手段を模索した。
彼自身も戦闘に参加し、アリストや断章者に直接立ち向かう中で、次第にその存在は象徴的なものとなっていった。
ある日、リバレイトの本部に集まった者たちの前で、青年は静かに語りかけた。
「これは、俺一人の戦いじゃない。アリストは『物語の忘れられた真実』を語る。確かに、それは人間の責任かもしれない。だけど、俺たちにはそれを正す力がある。物語を紡ぎ直す力が。」
彼の言葉に応じるように、周囲にいたメンバーたちは拳を握りしめ、深く頷いた。
こうして、リバレイトは徐々に勢力を拡大し、荊に包まれた図書館を目指して進撃を開始した。
青年の名前は初代英雄として人々の胸に刻まれた。その存在は間違いなく、リバレイトを象徴する礎となっていた。
「俺たちが戦うのは、誰かを救うためだ。そして、物語をただの恐怖から取り戻すために。」
その言葉を胸に刻み、リバレイトはアリストとの戦いに挑む。青年が成し遂げたその最初の一歩は、やがて世界の希望となっていくのだった。
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