White berry (仮)

@morisawa423

第1話 Happy christmas



12月





~♪~




『寒いねぇ』


『ふふ』


『あっためてあげる』


季節を表す鈴の音まじりの音楽に、キラキラと光る装飾で飾り付けられた街はあまりにも眩しい。


そのせいで周りの人も浮き足立って見えた。


私はというと、ひとり、職場から帰路に着くところだった。




「今日クリスマス、か」




そう呟くと、私の寂しさを誇張するように柔らかい雪がちらちらと降ってくる。


カップルだらけの中、混雑する繁華街の改札を通り抜けて数分で電車をおりた。


電車を降りると、先ほどとは少し違うピンクのネオンの明るさ。


私は家賃が安かったから、という理由で治安の悪いラブホ街に住んでいる。


ご近所さんは風俗嬢や駆け出しのキャバが多く、私の活動時間とは真逆だった。


ただ、理由はもうひとつあった。


「行くか…」




もう一つの理由はこれ。


帰宅して2、3時間ほど休憩した私は、長いストレートの黒髪を適当に後ろでお団子にして、自身の車に乗る。




「なっちゃんおつ〜」




向かった先はほんの数分で着くアパートで、そこからでてきた数人の派手な女を車に乗せる。




「お疲れ様です、今日も皆さん綺麗ですね。」




なんて目を細める私は全員がドアを閉めたことを確認して車を発進させた。


またもや数分で着くそこは、まさにキャバクラ。


派手な女を車から降ろした私は、また違うアパートへ車を走らせた。




「いってきま〜す」




ひらひらと手を振る最後の女に車の中から一礼すると、女性のキツい香水の匂いに耐えられず一旦車の外に出た。


私はこうして、近くに住むキャバ嬢やクラブの女の子を送迎するアルバイトをしている。


いくつかある系列店の子を乗せているので何度か往復が必要だけど、みんな優しい人だ。


多分私を敵視していないからだと思う。


私は女だけの職場なんか絶対嫌だわ。




私は1度大きく背伸びをすると、車に乗ろうとドアノブに手をかける。


ちら、と横を見ると私とメーカーも車種も同じ黒塗りの高級車が止まっていた。


ああ、もちろん私のは自分で買ったんじゃなくてお父さんの形見なんだけど、全く同じ車だったから少し戸惑ったの。


私は車の前から動いてはいないので、これが私の車で合ってる、はず。




「うん、私の」




車に乗り込んで確認するとやはり自分の車だった。


安心した私はエンジンをかけ直し、ギアをドライブに入れる。






その瞬間だった。






「柳!だせ!」





突然誰かがものすごい勢いで車に乗り込んできたの。


私は、驚き過ぎて思いっきりハンドルをきった。




「っぶね」




「おい柳、危ねぇだろ」




「聞いてんのか!」




声的には男であろうその人は私の肩を後部座席から掴む。




「いっ」




その力が強くて私は顔を顰めた。




「痛いんだけど、勝手に乗ってきて何よあんた」




驚いたのは束の間で、私はしっかり冷静を取り戻して安全運転を始めた。


一旦車を止めてこの謎の男を降ろしたいのだが、この辺は元々路駐が多くて止められそうにない。




「お前だれだ」



突然唸るように低く発せられた声は私の背筋を凍らせる。


申し訳ないけど



「こっちのセリフよ」



女は度胸って決め込んで生きてる私には通用しない。


私も負けじと低い声を出した。




「部外者がなんで俺の車に乗ってる?」




「勘違いも甚だしいわね?この車は私の車よ。


自分の車があるのに、そんなことも分からないの?」




私はふん、と鼻を鳴らして嘲笑うように言った。


前を見ているだけの私はこの男がどんな容姿をしているか判別がつかなかった。


ていうか、間違えたのはそっちなんだから、謝りなさいよね。


この人、酔っ払ってるのかしら




「…そこに止めろ」




命令口調に腹が立つ。


言われなくたってそこに止めようとしてたわよ。


早く止めて降りてもらいたいわ。


ガチャん


近くの公園のそばに停車しギアをパーキングにした私は、どんなやつなのか見てやろうとすぐに後ろを振り向いた。




「っ」



「!」




文句のひとつでも言ってやろうと思っていたのに、それはこの人の容姿を一目見て適わなくなった。


サラリと清潔感のある長さの黒髪に、透き通った鼻筋、目は車内が暗いせいなのか外の明かりに照らされて金色に光っていて、さらに輪郭も綺麗に映し出す。


絵に書いたような美しい顔だった。


男はと言うと同じように、透き通るような白い肌に厚いピンクの唇、はっきりとした二重にまっすぐこちらを見る黒い瞳、


まるでdollのようなその女の姿に息を飲んでいた。


数秒間止まった男と女は我に返ったように口を開いた。




「で、どういうつもりなわけ?間違えたなら間違えたってはっきり言いなさいよ」



「悪かった、これと同じ車が近くに止めてあったんだ」



なによ、謝れるんじゃない。


てことは、あの隣に止まってた高級車はこの人のものだったのね。


私は運転席にしっかり座り直すと、ほっと一息ついた。



「早く降りたら?


…まさかさっきの場所まで送り返せ、なんて言わないわよね?」



また馬鹿にしたように鼻を鳴らす私に、何故かククッと彼は笑う。




「お前、名前は?」




笑ったまま自然にそう聞く彼から八重歯が光る。




「…ナツキ」



「そろそろ迎えだ、ナツキ。


今夜はいい夜になりそうだ」



彼が金色の瞳で私を捉えた瞬間、運転席の窓を誰かがノックした。


コンコン


そこには、茶髪のパーマを片耳にかけ微笑む、色気の溢れるスーツの男性がたっていた。


私は金色の瞳から目をそらすとすぐに車内のロックを解除する。


直感で、この人の仲間だとわかった。


私がロックを解除したと同時に車からおりるその所作にも目が釘付けになるほどの容姿だった。


彼が降りて、外の男と2人並んだ姿はまるで本物の美術作品。


私が車を発信させようとした時、彼は振り向いて、妖艶な笑みでこういった。




「今年でいちばん楽しいドライブだったぜナツキ。



𝑴𝒆𝒓𝒓𝒚 𝑪𝒉𝒓𝒊𝒔𝒕𝒎𝒂𝒔 𝑎𝑛𝑑 𝑮𝒐𝒐𝒅 𝒏𝒊𝒈𝒉𝒕」

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