ディズニーシーで迷子になった大学生おじさん

 ディズニーシーで迷子になった。


 その日は私と同じ大学の友人2人と来ていたのだが、私がお手洗いに行っている間に2人が私の分の食べ物も買ってきてくれることになったため、一時的に分散した。LINEで食べたい物を聞かれたので、私はポテトを所望した。


 夢の国の聖なるお手洗いに、不潔な私の液状の現実を排出し終えたとき、ちょうど2人から食べ物を買い終えたとの連絡が来た。

私のいるトイレから2人が食べ物を買った場所まで割と距離があったため、2つの場所の中間あたりで合流しようということになった。


 その結果、迷子になった。人がたくさんいるのだから当たり前である。


 自分が迷子であると実感したとき、急に背筋がゾワっとした。


 ディズニーシーにいる人の内、私の目に映る範囲の9割が友達と来ている者、それも高校生以下の女性がほとんどであった。

そのような空間に1人でいる、大学生、男。明らかに異質であった。


 しかもそのとき、私の頭には友人と3人でお揃いにしようということで購入した、白い猫の形をした女性用の帽子が乗っていた。

明らかに異質、というより変態である。


 このように、年齢、性別、姿の全てが今いる空間に相応しくない私は、その世界から拒絶されているような気がした。


 そしてもう1つ、私の中でモヤモヤしていることがあった。ポテトである。

購入したと連絡があってからある程度時間が経っていたため、私のポテトがまだ熱を保っているかどうか不安だったのだ。

もしかしたら、私が背中に寒気を感じたのは、遠くにいるポテトの悲痛な叫びを受信したからかもしれない。


 とりあえず帽子を脱いだ方がいい。


 そう思い、私は帽子に手をかけたが、ハっとして動きを止めた。


 いま帽子を取ってしまったら、私と夢の国を繋ぎ止めているものがなくなり、私はたちまち泡となって消えてしまうのではないか。


 そのような不安が頭をよぎり、私は帽子を脱ぐことができないまま立ち尽くした。


 ディズニーシーで迷子になった大学生おじさんにできることは何もなかった。


 このまま私は、「クリスタルスカルの魔宮」「ハイタワー三世失踪の謎」に並ぶ怪異の1つ「フリーズする白猫帽子成人男性」として生涯を終えることになってしまうのではないか。


 そのような被害妄想の渦に呑まれかけていたとき、


 「やっと見つけた!」


 目の前に友人が現れた。


 後から聞いたところによると、白い猫帽子を被りながら棒立ちしている私は、遠目からも認識しやすかったらしい。


 やはりこの帽子が、私と夢の国を繋いでくれていたのだ。


 そして、ディズニーに来た友達3人組の中の1人となった私は、再びこの世界に受け入れられたのだった。


 これでもう安心だ。私は楽しい楽しい夢の国で軽やかに足を動かした。


  ただ、  


ポテトは既に冷めていた。


 やはりあのとき感じたのは、ポテトの断末魔だったようだ。 


 レンチンという現実世界の魔法は、夢の国では使えなかった。

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