第7話 証拠



「これに見覚えはありませんか」

 佐久間は黙って、目線を下に向けた。野近は佐久間の表情を確認し、話を続けた。

「そうなんです。掃除のおばちゃんが、男性の更衣室で雨ざらしだった黒いロングコートを発見し、中に干してあげていたんです。このコートが外に干されていることに気づいたのは、更衣室の前のバケツが倒れる音に気づいて、念のために更衣室の中を調べた時のようです。時刻にして、17:00過ぎ。先ほど、掃除のおばちゃんから聞きました。おそらく、犯人がこの黒いコートを更衣室の窓から外に干し、更衣室を出る時にバケツを蹴飛ばしてしまった直後です。ということは、犯人がこの黒いコートを雨の中に干してすぐということになります。つまり、この黒いコートはほとんど雨に濡れることはなかったということです」

 佐久間は、何かに気づいた様子で、口をつぐんだ。

「その黒いコートを鑑識に出すと、全てが分かるんです。おそらく、そのコートの前面に、南さんの血がついているはずです。ついでに、このコートの持ち主についても調べて確認してもらいましょうか。髪の毛の1本ぐらいは出てくるでしょうから」

 野近がそう佐久間に話した。佐久間はしばらくの間、黙っていた。そして、静かに応えた。

「その必要は無いですよ」

「それは、なぜですか」

「それは・・・・・・。そのコートは、私のものだからです」




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