サンタクロースにプレゼント!
崔 梨遙(再)
1話完結:1500字
僕藻(ぼくも)三太は、工事現場の日雇い労働者。毎日、工事現場で黙々と働く。三太は、家賃4万円の6畳一間の古いアパートに住み、食費を切りつめてひたすら貯金をしていた。三太は学校に行っていなかった。小学校さえ行っていない。読み書きは両親から習った。というか、三太は戸籍さえない。先祖代々の家業のためだ。そして、今は三太が家業を継いでいる。
或る日、工事現場に某建設会社の社長令嬢が見学に来た。見学というよりも見物だ。作業員は、“金持ちの娘が見物に来るなんて、なんか感じが悪いなぁ”と、お嬢様が来ることを良く思っていなかった。
ところが、お嬢様が現れたら、みんなの手が止まった。お嬢様は、この世のものとは思えないくらいに美しかったのだ。みんな、ただただ見とれた。
「おい、お前等、作業の手が止まっているぞ! 働け-!」
現場監督の声で、みんな作業に集中し始めた。
その時! お嬢様の上に鉄骨が落ちてきた。
「キャー!」
鉄骨を受け止めた男がいた。三太だった。三太は中肉中背だが、上から落ちてきた鉄骨を受け止めたのだった。
「大丈夫か!」
「大丈夫みたいだぞ!」
「ああ、良かった-!」
現場監督が駆けつけた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫、この人のおかげ」
三太は受け止めた鉄骨を地面に置くと、また自分の仕事に戻ろうとした。そこで、お嬢様が三太に声をかけた。
「ちょっと待って!」
「はい?」
「私は麗香、あなたは?」
「三太です」
「苗字は?」
「僕藻です。僕藻三太です」
「何かお礼をさせてよ」
「いえ、お礼を言われるようなことはしてませんから」
「監督、この人と2人でお話しさせて!」
「わかりました。プレハブですが、私の待機所をお使いください」
「三太さん、こっちへ来て」
「……」
「三太さん、何かほしいものは無い?」
「……戸籍がほしいです」
「戸籍? あなた戸籍が無いの?」
「はい、両親が不法入国者だったので」
「大変なのね。わかった、父に頼んでなんとかしてあげる」
「ありがとうございます。じゃあ、僕は現場に戻ります」
「待って! あなた、どこに住んでいるの? 住所を教えて」
「はあ……」
「今夜はクリスマス・イブよ。プレゼントを持って、あなたの家に行くから」
「今夜は出かけますよ。帰ってくるのは朝方です」
「もしかして、デート?」
「あ、そういうのじゃありません」
仕事が終わると、三太は1年間の貯金を使い果たして“おもちゃ”を買い集めた。子供達へのプレゼントだ。三太はサンタの衣装に着替えて、トナカイのソリに乗る。そう、三太はサンタだったのだ。
朝方、プレゼントを配り終えた三太がソリで帰って来ると、部屋の前に麗香が立っていた。
「お帰りなさい」
「いつから待っててくれたんですか?」
「うーん、結構待ったかも」
「すみません」
「あなたがサンタだったのね?」
「はい。代々受け継がれたウチの家業なんです」
「1年間お金を貯めて、子供達のおもちゃを買っていたのね?」
「はい。それが仕事ですから。麗香さん、今日の僕の最後の仕事です。どうぞ」
「あ! ネックレスだ! かわいい! プレゼントをもらってもいいの? 私、子供じゃないのに」
「美しい女性には、何かプレゼントしたくなるものです」
「でも、あなたがサンタだったら、プレゼントをあげるばかりで、プレゼントをもらうことは無いんじゃないの?」
「そうですね、僕はプレゼントを配る方だから、プレゼントをもらうことは無いです。今まで、そんなことを考えたことは無かったですが。家業ですので」
「ねえ、サンタさんもプレゼントをもらわないといけないと思うの。だから、私があなたにプレゼントをあげたいんだけど」
「プレゼント? 何をくれるんですか?」
「“私”じゃダメかな?」
サンタクロースにプレゼント! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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