出会って3秒で最強! 未来視スキル持ちで無自覚な最弱トランスポーターは、今日も仲間を駆使して無双する。

ひなうさ

第一部

第一章 未来視を持つ少年と銀鎧の騎士

第1話 未来視を使う少年

『今のトワじゃ冒険者なんて無理だ。悪いことは言わない、諦めるんだ』


 リッシュの辛辣な答えが僕の心に突き刺さる。

 そのせいで僕はまた押し黙ることしかできなかった。


 彼に否定されたのはもう何度目だろうか。

 勇者パーティの荷物持ちとして働いて三年、未だ僕は彼に認められていない。


 そのことが悔しくてつい視線を逸らす。

 すると間もなく、今見ていたリッシュの姿が煙のように掻き消えていく。


 そうして現れたのは僕が問いかける前の、呑気そうに机へ足をかけて座る彼だった。


「どうした急に口籠って? 相談ってなんだぁ?」


「え!? あ、いや、そのぉ……」


 今の光景を〝未来視〟で見た、だなんて言えない。

 そんなにおいそれと使っていい力じゃないから。


「……お前今、未来を見ただろう? しかもまた冒険者になりたいって相談でもしたんじゃないか?」


「いいっ!?」


 直後彼が見せたのは言葉が違うだけの、さっきと同じ光景。 

 おまけに言い当てられてしまってうっかり動揺を見せてしまった。


 さすが勇者リッシュ、鋭い洞察力だ。計算高いだけのことはある。


「ったく、お前も懲りない奴だな。もう何度も言っているだろう? まだ16歳で、そんな小柄なお前にはまだ冒険者は早いって」


「う、うん……」


「トワは今の役目を『たかが荷物持ちトランスポーター』と思っているかもしれない。

 だがな、それでも俺たちにはお前の力が必要なんだ。お前がいなければ俺たちの活動に支障が出てしまうからな」


 でも動揺を見せた僕に、リッシュは怒りもしなかった。

 それどころかいつものように笑顔でこう語り、僕の必要性を訴えてくれる。


「それにトワのお母さんの言う通り未来視の能力をひけらかすのは確かに良くないかもしれない。でも俺たちはお前の力をもう知っているだろう?

 だからそう遠慮するなって。俺たちは5人で一つのパーティじゃないかっ!」


「リッシュ……!」


 リッシュが傍まで歩み寄ってきて、肩をポンポンと叩いて励ましてくれた。

 ふと振り向けば、他の3人の仲間も笑顔や仕草で僕に応えてくれていて。


「皆も同じ意見みたいだな。だからトワは今のままでいい」


「だ、だけど、やっぱり僕も同じ冒険者として皆と肩を並べたい!」


「ああ、お前の気持ちも痛いほどわかる。けどな、なにも冒険者になることだけが全てじゃあない。いや、むしろならない方がいいことだってあるんだ」


「えっ!?」


 途端、僕の肩を掴むリッシュの手に力が帯びる。

 まるで彼の長い経験から来る憤りや悲しみが伝わってくるかのようだ。


「もし何も知らないお前が冒険者となり、欲望と裏切りにまみれた世界に身を投じれば、いつかその黒い思想に飲まれてしまうかもしれないっ!

 ……そうなって欲しくはないんだ。俺たちは今のお前を信頼しているのだから」


「信頼……」


「そう、何より大事なのは信頼。

 そして俺たちの最も信頼できる相手がトワなんだ。

 どこぞの得体も知れない冒険者や荷運び屋を雇うのとでは訳が違う」


 この話だけは今日が初めてだった。

 リッシュの熱い視線が僕の心を突く。

 思わず感極まって泣きそうになった。


 でも肩を掴んで熱くなった肩が、僕に悲しみに抗う勇気をもくれた。


「だからお前も信頼して俺たちに力を貸してくれ!

 そして互いの夢を叶え、いつか世界のトップへ躍り出よう!

 最強の冒険者パーティ〝リバイバリーズ〟の伝説を共に作るんだっ!」

 

「うんっ!」


「ハッハッハー! そう、俺たちの英雄伝はここから始まるのだぁーーーっ!」


 最強! 伝説!! 英雄!!!

 こんなすごい目標を堂々と掲げられるリッシュたちはやっぱりすごい!


「そうよぉ~! トワはぁ、今のままでも十分なんだからぁ~~~!」


 未来の話に華を咲かせる僕ら二人。

 その最中に突然、僕の背後に「ぽよんっ」と柔らかな感触が乗ってきた。

 それと共に僕を包むくらいに長い紫髪がふわりと顔に触れる。


 仲間のナナミィによる背後からの抱きつきだ。

 僕の頭ほどもある双丘が挟み込んできて、とっても心地良い。


「はぁ~~~このフッワフワな若草色の髪っ! プニプニの肌っ! いつもながらたまらなぁい!」


 彼女は僕が好き過ぎて、こんなスキンシップはいつものことだ。

 もう慣れちゃってされるがままだけど、別に悪い気はしない。


 でもそんな彼女のお腹から「ぐぅ~~~」って音が聞こえてきた。

 そういえばもう夕暮れ時だったのを忘れていた。


「どうやら夕食の時間のようだな。トワ、今日の料理も期待しているぞ!」


「まっかせてよ! 今日も腕によりをかけて作るからねっ!」


「フゥ~~~! トワの料理はほんと最高なんだからぁ~~~!」


 仲間たちにこんなに期待されたら応えない訳にはいかない。

 そう思い、まずは食材を買い込むために跳ねる勢いで家を飛び出した。


(そう、これでいいんだ。

 僕は弱くても、勇者パーティの皆の力になれるなら、今はそれで!)


 冒険者になろうという夢を諦めた訳じゃない。

 それでもまだ機会が無いというなら、その時まで力を溜め続ければいいのだ。


 そしていつか、僕は夢を叶える。

 故郷の空を支配する龍――〝天空巨龍オルファーゼタ〟を倒す夢を。


 それを僕自身が果たすか、それともリッシュたちが代わりに果たしてくれるかはわからない。

 でも僕にとっては目的が果たせればそれでいいんだ。

 巨龍を倒す手段までは絶対じゃないのだから。


 街の道を走り抜けつつ、子どもの頃からの夢を思い返す。

 皆の明るい笑顔を思い浮かべ、理想の未来を頭に思い描いた。


 荷運びでしかない僕を導いてくれるリッシュたち。

 彼らがオルファーゼタを踏み台にして、勇ましく武器を掲げている。

 まるでおとぎ話に出てきそうな光景が頭に浮かんだ。


 今はこんな理想しか抱けない。

 だけどいつかきっと本当に見せてくれると信じられるから。


 こんな素敵な勇者パーティに出会えた僕は、きっと最高の幸せ者だ!




 そう一人で思いを張り巡らせながら街を行く。

 でもそんな僕を待っていたのは思いもしない機会の到来だった。

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