限界魔法少女は癒されたい

余暇

第1話 魔法少女 星ノ守きらりの日常

『きらりも大きくなったら魔法少女になりたい!』


私のその言葉を聞いた魔法少女は綺麗な黒髪を揺らしながらクスクスと笑っていた。

その笑顔は眩しく、頬をつたう汗さえもキラキラと輝いて見えて私はより一層、魔法少女という存在に魅了される。


『きらりちゃんが大きくなって魔法少女になる日を楽しみにしてるからね!』


黒髪の魔法少女は満面の笑みで私の夢を応援してくれた。


『あ!私もう行かなきゃ。きらりちゃん、またね!』


彼女の何気ない「またね」という言葉に私はとてもワクワクしたのを覚えている。


"絶対に魔法少女になるんだ...! "

この日から幼い私の将来の夢が魔法少女に決まったのだった。



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「魔法少女辞めてぇよぉぉぉぉぉぉ!!!」


そんな誰に聞かせるでもない願望を叫びながら私、星ノ守ほしのもりきらり(23)は魔法少女として現場に向かっていた。


私が活動している百合ヶ谷町ゆりがやちょうは温泉と漁業が有名な観光地として栄えている。駅から歩いて5分圏内に有名な温泉街がある事や、一年を通して新鮮な魚介類が食べられることもあり、季節を問わず観光客や地元の人間で賑わっている。


自分の住んでいる町が栄えているのは大変良い事だがその反面、人が多い場所を狙った怪人の出現や、観光客を狙った犯罪者なども多く、そのような輩達から街の平和を守っているのが私の仕事だ。


まぁ長々と説明をしたが結局私が何を言いたいかと言うと...




はちゃめちゃに忙しいのである!!!




魔法少女という存在が一般的な職業として普及して30年。昔に比べて魔法少女の数も増えてはきているが、それでも怪人退治や人命救助など活動量が多く、常に忙しい。


さらに、本来なら1つの町に対して魔法少女が、3人程でローテーションを組むが、昨今の人手不足が影響し、今は私一人で町を守っている。


令和が産んだ負の魔法 マジカルワンオペだ。



18歳で魔法少女としてデビューして5年、このような過重労働を経て、夢と希望に溢れていたはずの私は...



「出たなッ!魔法少女まじかる☆きらりん!

今日こそ、この町は我らゴクアーク団が..」


「うるせぇ!! 〇ねッッ!!!」


「ゴフッ!?」



ここまで荒んでしまったのである。



「え..? グーパン? 魔法少女が魔法使わずにグーパン??」


「しかもまだ敵の吾輩が名乗ってる途中に攻撃とか..えぇ...?」


「だからうるせぇな。お前らのせいでこっちは昼休憩取れてねぇんだよ。」


「定食屋のランチタイム終わる前に消し飛ばすおわらせるから、ほらお前ら、1箇所に固まれ。」



そう言い終わると同時に、私は怪人たちにステッキを向けて魔法を放つ。



爆殺魔法きらりんビーム


「とても魔法少女とは思えないルビ振りいぃぃ!?」



そんな断末魔の叫びをあげながら、魔法を受けた怪人達は、キラキラとした輝きを放ち爆ぜていった。

これが今の私の日常だ。粗暴だし、魔法少女らしくも無いが、こうでもしないと正直やってられない。



「はぁ...お昼食べよ..」



ひと仕事を終え、空腹感に襲われた私は、とりあえず行きつけの定食屋へ向かうのだった。







「きらりさん、もう少し魔法少女らしい戦い方出来ませんかねぇ!?」


「...何が?」



私は、大好物のエビフライを頬張りながら目の前にいる相手へ気怠げに返事をした。



「何がって、敵の倒し方ですよ!!どこの世界に出会い頭、いきなりグーパンかます魔法少女がいるんですか!!!」



私の目の前で、キャンキャンと説教まがいの内容を吠えている彼女は、私の担当員をしている『逢月 椎名あづき しいな』だ。


整えられた前髪、シワひとつ無いスーツから仕事人間の様な見た目だが、元の身長の低さと幼さが残る顔立ちもあり、まるで小動物の様な印象を受ける人だ。



「まぁまぁ、しぃちゃん。あれも相手の意表を突くっていう1つの作戦だから。」


「作戦がダーティー過ぎますよ!応援してた子供もドン引きだったじゃないですか!!」


「あの後、親御さんからも『あまり子供の前でああいうのは..』ってクレームありましたし!!」


「しぃちゃんの仕事増やしたのは悪いと思ってるよー。 あ、すいません。ライスおかわり。」


「絶対に思ってないでしょ!がっつりライス2杯目いくな!!」



しいちゃんはさっきのクレーム対応もあって、だいぶご立腹の様だ。

ちなみに、担当員とは魔法少女が活動する際に必要な申請や報告、更に魔法少女の健康チェック等を行い活動をサポートする、言わばマネージャーのような存在である。


まぁ、しぃちゃんの場合は主に私の素行不良に対するクレーム対応の仕事が殆どなのだが。



「そうは言っても、うちの町は他の所よりも数倍忙しいから、体裁を気にする余裕が無いんだよね」


「た、確かに..人員の確保が出来ずに、きらりさん1人に全てをお任せしている現状は、大変申し訳なく思っていますが...」



さっきまで怒っていたしぃちゃんは、今度はしょんぼりと落ち込んでいる。

コロコロと表情が変わっていき、見ていて本当に飽きない。



「で、でも!だからこそ!この町のために頑張っているきらりさんが否定されている今が嫌なんですよ!!」



そう言いながら彼女は私を真っ直ぐと見据える。

普段は口煩いが、それも私の為を思っての事だと言うのは十分に理解出来る。現に、私のために何度断られても、人員の追加を上層部に打診

してくれている。

本当に私には勿体ない担当員だ。



「..分かったよ。しぃちゃんがそう言うのなら出来る限り私も頑張るから。」



私がそう言うと、しぃちゃんの顔は一瞬にして満面の笑みへと変わっていった。



「...! ありがとうございます!きらりさん!! 私も今まで以上に全力できらりさんの活動をサポートしていきますね!!」



まるで自分の事の様に喜ぶ彼女を見ていると

『あぁ...本当にうちの担当員は可愛いな。』と庇護欲に似た何かが湧き上がる。

それに、ここまで期待されたら魔法少女として応えない訳にも行かない。


ピーッ! ピーッ!


そんなことを思っているとしぃちゃんのスマホから、なんとも耳障りなアラームがなった。



「! お昼中にすみません。早速、怪人が出現しました!きらりさん、お願いします!!」


「おっけー。すぐ現場向かうね。」



また怪人か。もう少し休めるかと思ったが、結局お昼ご飯を食べ切るまでしか出来なかった。

私はステッキを使い、早々に変身を終えて現場へと向かう。


しぃちゃんの為にも、魔法少女らしく仕事を頑張ってみるか。

私はそう意気込みながら、午後の業務へと向かうのだった。





「ごめん、しぃちゃん..やっぱ私、魔法少女辞めてぇわ...」



時刻は午後10時。私は今日何度目か分からない独り言を呟きながら、鉛のように重い足を動かして帰路についていた。


まさか午前中に吹き飛ばしたゴクアーク団がリベンジと称して、町中の温泉に活魚かつぎょを放流し、温泉を作ろうとするとは思いもしなかった。


すんでのところでゴクアーク団を再起ボッコ不能ボコにする事は出来たが、規模が町中なのでその被害確認のため、今まで働き詰めだったのだ。




「後の処理はしぃちゃんと警察に任せたけど大丈夫だっかなぁ...」



『今日も本当にお疲れ様でした!必殺技を出す前の決めポーズ、最高に可愛かったです!!』


引き継ぎを終えた時のハイテンションなしぃちゃんの言葉を思い出す。


なんとか魔法少女らしさを意識した結果、必殺技の前に手でハートマークを作るという、はちゃめちゃに小っ恥ずかしい事をしてしまった。

消し飛ぶ直前の怪人達がした、悲しい生き物を見る目が頭から離れない...



「あ、ヤバい。なんか思い出したら死にたくなってきたぞ。」



ファンサービスのハートマークが、ここまで成人女性の身体に負担をかけるとは思いもせず、私はその場に立ち止まる。


瞬間、視界が歪みと謎の浮遊感が私の体を襲った。



あ、これはまずいやつかも...



なんとか体に力を入れ、膝をつくことで地面に倒れ込む事態は防げたが、両足に感じていた倦怠感は今や全身に広がっていた。



「流石に無理しすぎたな..」



家まではあと少しだが、今すぐ動き出すというのは多分無理そうだ。

ただ、この時間に路上で膝立ちのままだと不審者かオバケに思われかねない。



「この辺って公園とかあったっけ」



とりあえず近場に休める場所が無いか辺りを探していると..



「あのー、大丈夫ですか?」


「!?」



突然、後ろから声をかけられ驚いて振り向く。

そこには1人の女の子が居た。


高校生だろうか? 明らかに私よりも年下の女の子が心配そうにこちらを覗き込んでいる。

タレ目が印象的なとても優しそうな顔立ちと、綺麗にのびた黒髪が、電灯の明かりに照らされてキラキラと淡く輝いていた。



「めっちゃ綺麗...」


「えっ!!?」



おっと、まずい。


疲れで頭が回らなくて、思ったことがそのまま口に出てしまった。



「あ、何でもないです!ちょっとつまずいちゃって!もう大丈夫です!!」



怪しまれる前に、私は早口でそう捲し立て、その場を立ち去ろうと立ち上がったが



「そ、そうなんですね..でもお姉さんの膝、心配になるくらい笑ってますけど...」


「あ!私の膝、いつもこんな感じですから!!ご心配なさらず!!」


「普段からそんな感じだったら逆に心配ですよ!?」



女の子から軽快なツッコミが入る。

意外とノリが良い子みたいだが、初対面の子にこれ以上気を使わせる訳にはいかない。私はなんとかガクガクの膝に力を入れて、女の子に話しかける。



「私の事は本当に気にしないで下さい。家もこの近くで少し歩くだけですから。」



私の言葉を聞いた女の子は、それでも私の事を心配している様子だ。


きっと凄く優しい子なのだろう。

こんな怪しさしかない膝立ち女に声をかけてくれたのだ。

だがシンプルに私が恥ずかしい。

なんなら一刻も早くこの場を立ち去りたい!



「そういうことなので、私はこれで...」



この場から逃げたい一心で、私が別れの挨拶を切り出そうとすると、女の子は何かを決意した顔でこう言った。



「あの!良かったら私の家に来ませんか!!」

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