3 ダンジョンで発見された謎の美少女はその存在をギルドに危険視され身柄を拘束。ギルド地下の監獄で淫らな拷問に晒されて……!!

 なんてことはなく、ダンジョン脱出した後は普通に現地解散の流れになった。

 

「じゃ、ロックは後で試験結果通知がギルドカードに送信されるからそれ確認してくれ」

「うぃっす。……どうスかねノックスさん、俺合格してそう?」

「あー……最後の単独行動は減点だが、それ以外のとこはシーフとしちゃ満点だ。何よりお前はあのダンジョンでこれまで誰も気づかなかった隠し通路を見つけてんだ、素質は十分だろうよ。あとは普段の素行をギルド本部がどう見てるかだな」

「最後の一言がすっげぇ心配!!」


 ダンジョンの入り口傍に設置された転移陣に戻ってきた俺たちはノックスさんの指示でその場で解散となった。

 このダンジョンは銀級試験に使われる他、初心者の探索練習向けに王都が解放してるダンジョンで、場所も王都のすぐ近くにある。王都のギルド本部が管理しているダンジョンなのだ。

 なんでノックスさんが本部に報告に行くだけで、俺たちは別にギルドまで同行しなくていいらしい。

 っていうか今回の件で新しい通路が見つかったり上級の魔物が出てきたこともあって、そっちの報告と対処の方を急がなきゃならないという事だ。

 大変ですね。誰のせいやろ。


 なお、隠し通路の奥で俺が見つけたイレヴン……アンドロイドと自称する彼女の扱いについてだが。


「ようはイレヴンは人間じゃなくて、意志を持った道具……みたいなモンだって事でいいんだろ?」

「はい、ノックスの表現が適切です。私はマスターであるロックの所有物、という扱いで間違いありません。業腹ですが」

「業腹なのかよ。つまりはインテリジェンスソードみてーなもんだろ? 後であそこに眠ってた理由とかは聞かせてもらいてぇけどよ、別にロックから取り上げたりはしねぇさ。ってかソレしたらロックに殺されそうだしな」

「柔軟なご対応、大変感謝いたします」

「イレヴンは俺のモンなんすよ……!! 俺の女!! 初めての俺の女っすからね……!!」

「目ぇ血走らせんな怖ぇわ」

「私のマスターがこんなにも愚かでつらい」

「……ま、ギルドにも上手く言っておくさ。せいぜい仲良くやれよ。じゃあな!」


 ニカッと人懐っこい笑顔を浮かべて手を上げて去っていくノックスさん。やだ爽やか……!

 インテリジェンスソードと同じ扱いされても怒らないイレヴン。本人が言うように本当に人間じゃないんだな……まぁ俺もインテリジェンスソード持ちの知り合いがいるしそこまで珍しいものじゃないのかもな。


 とりまそんなこんなで俺は銀級昇格試験をなんかいい感じに終えて、そしてとうとう俺の女第一号をゲットしたのであった。


「決してマスターの女ではありませんが……さて、これからどうするのですかマスター」

「フツーに家に帰るけど、その前に戦利品を鑑定しにいこっか。手ぇ繋ぐ?」

「触らないでください汚らわしい」

「そこまで言う? 泣くが?」

『みゃあ……』

「慰めてくれるミャウが唯一の癒し」

「賢い猫ですね」


 冒険が終わったらまずは鑑定アンド換金タイムです。




※    ※    ※


 


 俺はダンジョンから王都に戻り、行きつけの鑑定屋に向かってイレヴンと共に歩いていた。

 ミャウはフードの中でぐっすりだ。こいつ冒険終わった後いつも寝てんな。


「そういえばさイレヴン。色々あって聞きそびれたんだけど……何であんなところにいたの?」

「……私を起動する『命在る者』を待っていました」

「『命在る者』?」

「いえ……マスターは知らなくていい事です。まぁ簡単に言えば運命の王子様待ちだったというか」

「なんと? つまり俺が運命の王子様だった……ってコト!?」

「いやあくまで貴方は仮マスターなので。本命見つけるまでのキープくんなので」

「ひどい」


 一緒に歩くイレヴンに色々聞いてみることにした。

 所々辛辣な言葉が刺さってくるが、まぁイレヴンは製造されてから目覚めるまでずっと起こしてくれる人を待っていたということで。

 そして、彼女が目覚めた理由、造られた目的は。


「───────魔王の討伐。そのためだけに私は存在します」

「……魔王だって?」


 信じられない言葉がイレヴンのつややかな唇から零れた。


 そんなバカな。

 いや、本当にバカな、という感情しか浮かばない。

 だって、そんな、魔王って言ったら───────


「もう150年以上前に討伐されてるけど」

「は???」

「いやもう魔王いないけど。魔獣は変わらず出没してるけど魔王軍ははるか昔に壊滅したっておとぎ話にもなってるよ?」

「えっ? いえ……えっマジですか? マジで?」

「まじまじ。後で図書館とかで歴史書読んでみる?」

「それはもちろん読みますが。王都で今の時代の情報なども集めますが……えっ? 魔王死んだの? ほんとに?」

「ほんとに」

「ほんとにかぁ~……」


 やーいバーカ! ポンコツアンドロイド!

 って口に出してゲンコツを頂きつつも、イレヴンは何やら納得しきれてないようでうーん? と首をひねっていた。


「……まぁ、その辺りの情報は自分でも後で調べてみます。今の世の中がどうなっているかも見てみなければ」

「そーいやずっとあの地下にいた……んだよね? 何歳くらいなのイレヴンは」

「さぁ? きっとマスターが思っているよりずっと年上ですよ。歳をとるという概念でよいかは不明ですが」


 ふと聞いてみたが年齢は教えてくれませんでした。

 見た目には……20歳前後って感じかなぁ。超美人って単語がその後に続くけど。スタイルもいいし……まぁ人間じゃないって本人が言ってたしな。

 ってか改めてだけどこんな美人が俺のモノになったんだよなぁ!? とんでもねぇ事件ですわよ!

 まだ実感が追い付いていない!! こんなドスケベお姉さんが俺の家に来たら俺は爆発してしまうかもしれん……!!


「うへへ……ぐへへのへ……!!」

「急にキモ笑いし始めないでください気持ち悪いな」


 その後も王都の街並みの紹介などしながら、しばらくして行きつけの鑑定屋にたどり着いた。




※    ※    ※




 開店中なのを確認して店に入る。


「ちわーっす! トゥレスおじさーん! 今日も鑑定おねがいしまーす!」

「………………ロックか」


 中にいたのは、不機嫌そうに眉根を寄せて新聞を読んでいるイケボのおっさんであった。

 30代後半くらいだけど体つき、顔つきは若々しい。目つきは極めて鋭い。いつも眉根寄ってる。そんでもって顔見知りである。

 トゥレスおじさんの息子さんが俺と同い年でガキの頃からの腐れ縁で、それ繋がりでよくしてもらっているのだ。

 なお俺の名前を呼んでくれたが、これが他の客だと必要な会話以外は一言も話さないくらい不愛想な店主でも有名である。腕は確かなんだけどね。


「昇格試験はどうだった…………いや、待てロック。後ろの女は誰だ」

「あ、こいつは俺がダンジョンで見つけて来たんすよ!! なんか封印されてて!!」

「イレヴンと申します。初めまして、トゥレス」

「………………」

「マスター。あの人返事してくれません」

「ちょ、ちょっと無口なだけだからさ!! いい人だから大丈夫!!」


 イレヴンが初対面の挨拶をしたけどめっちゃ訝しめな視線をトゥレスおじさんが彼女に向けていた。

 まぁ……そりゃな! 俺が急に美人の女の子連れてきたら驚くかもしれないけどさ!! マジでおじさんいい人だからイレヴンも苦手意識はもたないで貰いたいな! いいパパさんなのよこの人!!


「───────対魔獣用決戦兵器。アンドロイドか」

「えっ」

「ッ……私をご存じなのですか?」


 慌てて俺がとりなしてたら、まさかのトゥレスおじさんからの正体看破が入った。

 えっマジ? おじさん知ってたの?? もしかして俺とノックスさんが知らなかっただけで結構メジャーな存在だったりします??


「……鑑定士の仕事柄、古い文献は眼を通している。150年以上前、『冒険者飽和時代』と呼ばれていた時代に……冒険者たちの中にそういった存在を従えていた者たちがいた。ダンジョンの地下に眠る美女。精霊のように魔力供給を必要とせず、テイマーの使役魔術も不要とする、兵器にして愛すべき隣人……だったか、文献の記載は」

「へーぇ……え、同じような存在がいっぱいるの? イレヴン?」

「ええ。私は名前の通り11番目の存在ですから……しかし、そのようなものが文献として残されていたのですね」

「マジかよ他のダンジョンでも探せばイレヴンみてーな女の子見つかるって事じゃん!! ヤッベ胸がワクワクしてきたなぁ!! 次もダンジョン攻略で決定だなこりゃ!!! ウッヒョォアッ!! ハーレムの夢が広がるぜェ!!」

「マスターはもう少し性欲を抑えられませんか」

「相変らずだなお前は」


 イレヴンみたいな女の子が他にもいる可能性があるということを聞いて俺のテンションはブチあがった。

 トゥレスおじさん曰く、むかーしの時代にもイレヴンみたいな存在がいて……あれ、ってことはイレヴン150歳以上か。まぁ可愛いからいいかぁ!!


「ダンジョンで拾った物の鑑定が俺の仕事だが……コイツには値はつけられん。他に拾って来たものはあるか」

「あ、結構宝箱開けてきましたよ! 銀貨とか剣とか指輪とか! 広げちゃっていいです?」

「ああ」


 しかし余計な会話を好まないトゥレスおじさんである。シンプルに鑑定士としての仕事に戻られ、俺もそれに応じる。

 鑑定スペースになる低めの台にどさーっとアイテムボックスから拾ってきたものを取り出して並べた。金貨があればなー儲かったんだけどなー。


「……あのダンジョンでこれだけ宝を拾う奴はお前くらいだな」

「ふふん。褒めてもろて」

「意外と有能なのですねマスター。まぁ私を見つけるくらいですから宝物への嗅覚は凄まじいという事でしょうか」

「俺が金と女の匂いを見逃すはずがないだろ……?」

「キっモ」

「辛辣!」

「この町じゃありふれた物ばかりだから量と比較して大した金額にはならないことは覚悟しておけ。少し時間を貰うぞ」


 あんまり金にはならないって。まぁなー。あのダンジョンはギルドが管理する試験用のダンジョンだしなー。

 最下層も5階層という初心者向けだ。駆け出しの冒険者はまずあそこの2階層までの突破試験で銅級冒険者になり、銀級は5階層までの突破の試験となっている。

 ……あれ? 俺4階層でイレヴン見つけて撤退したから突破してなくね!? いやでもノックスさんが評価は高めだって言ってたしまぁ大丈夫か?

 まぁいいか。落ちてもまた受けりゃいいんだしな。今日はイレヴンと出会えただけでも儲けもんよ。


 その後、トゥレスおじさんが鑑定を終えるまで待った。10分くらいで済んだらしい。相変らず仕事が早い。

 終わったぞ、と声をかけられてイレヴンと向かい、金額が記された台帳を受け取る。まぁこんなもんか。


「金額としてはこの程度だ……が」

「が? なんかありました?」

「いや……ロック、お前はイレヴンの格好をそのままにしておくつもりか?」

「え? あー……確かに! このままだとドスケベボディ丸出しですもんね!」

「失礼な。かなり性能が高いんですよこのスーツ」

「俺もそこまでは言ってない」


 トゥレスおじさんに言われて改めてイレヴンの格好を見る。

 ボディラインがそのまんま浮き出てる全身ぴっちりのスーツである。地下で見つけた時の全裸よりはマシだし俺の目に眼福ではあるのだが、しかしやはりこんな格好をしている人は王都には誰もいないのだ。

 ここに来るまで結構な男どもに見られまくってたしな。俺の女に色目使いやがってクソー!


「ちょうど先日引き取りの依頼があった女物の冒険者用の服がある。それなりに性能のいいやつだ。今回の鑑定結果を現金に換える代わりにそれと交換でもいい」

「へーえ? そりゃいいや、興味ありますね……イレヴンは?」

「私も興味があります。この時代の装備の性能がどのようなものかも見てみたいです」

「おっけ。んじゃとりま試着させてもらっていいですか?」

「ああ。持って来る」


 そうしてトゥレスおじさんが持ってきてくれた女性用衣装。

 武闘家……のものかな。脚部も動きやすいようにパンツタイプになってて、ひらひらする布もついてるからスカート風にも見える。胸から腰はかなり高級そうなプロテクターが布と一体化してて防御力も高そうだ。あと胸元の破壊ぼいんちからもクソ高そう。おっぱい。

 それをインナーの上から着用するイレヴン。あらやだサイズぴったりだわ。


「どうイレヴン? 動きやすそう?」

「……いいですね。各部のサイズがかなりしっくりきて動きやすそうです」

「そっか。俺の目から見ても似合ってるぞ! んじゃ決まり! トゥレスおじさん、この服に交換して!」

「分かった」

「……え。あ、いえ。今更ですがいいのですか?」

「いーのいーの! 女の子ってのは着飾って美しくあるべきだしな!」


 そのドスケベスーツだけだと周りからさらに良く無い目で見られそうだしな!!

 そもそも美人の俺の女がこれ以上ゲスな男どもの目に晒されて堪るかってんだよ!! マスターとして当然だわコレくらい!!


「……有難うございます、マスター」

「ええねん。そのお礼は今夜のベッドで果たしてくれればいいから」

「死ねカス」

「辛辣!!」

「ロック、その装備の買取価格と今回の買取価格を比較して算盤を弾くとほぼ全部引き換えになる。差し引いて余るのは……この指輪くらいか」

「ん。まぁ見るからにいい素材使ってますもんねこの服。りょっす」


 本心を零したらイレヴンにゴミを見る様な目をされて涙する。ちくしょー貞操観念しっかりしてるわねー!

 んでトゥレスおじさんがその性格通りのきっちきちの査定をしてくれて、最後に余ったのは指輪くらいだって。王都に数ある鑑定屋の中でもカッチカチ査定で有名だからな。サービスもないけど査定ミスもない。


「ところでこの指輪っていくらくらいすか?」

「買取100G」

「やっす!! 金に変えるまでもなさそうすね」

「護りの指輪……初心者向けの装備だな。魔力を流すことで防御力が上がる。ただし性能はお察しだ、1階層でもドロップする品だ」

「魔法使ったことない俺には全く縁がなさそう。イレヴン使う?」

「いえ、自前の防御力がありますし、今はこの装備もありますので。護りの指輪ならマスターが装備してください。つけるだけでも多少は効果があるはずですよ」

「えぇ~? まぁ指輪くらいなら動きは阻害されないしいいかぁ……」

「……ロック、お前もそろそろまともな装備を整えたらどうだ」

「重かったり動きにくかったりな装備で動きが阻害される方がヤなんすよねー。避ければええやんっていう。そもそも前で戦う仕事しませんしね俺」


 話聞くに全くレアでもない指輪らしいけどイレヴン曰くつけるだけで効果があるって話で。

 いやないやろ(正論)。

 指輪付けただけで魔獣の攻撃避けられたら苦労しないわい! 耐えるという発想は俺にはない。

 そもそも戦わないしな俺。狙われても逃げて避けるのだけは得意だし。今んところ装備整える必要性に駆られてないから困ってからでいいやろ。

 でもイレヴンに言われたから指輪はつける俺。もしかしたらこの指輪がイレヴンの照れ隠しからくるエンゲージリングの可能性あるしな!!!


「んじゃこれで査定は終わりっすね。いつもあざっす!」

「ああ。カトルと会うことがあったらよろしく伝えておいてくれ」

「わかりました! そんじゃお邪魔しましたー!」

「良質な装備を有難うございました」


 さてこれで査定も終わった。

 俺たちは家に帰るために店を出る……為に店の外に出ていくところで。


「ロック」

「ん? 何です?」

「……女は大切にしろよ」

「ん! モチのロンっすよ!」


 トゥレスおじさんから助言を受けて、俺は振り返り笑顔で答えて店を出ていった。



※※※





~登場人物紹介~


■トゥレス

30代後半のイケおじ。若奥様キラーの異名を持つ。

ロックと幼馴染の一人息子がいる。

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