第5話 本当の自分
黒い石を握りしめ、天を見上げる牛殿地位人(槍間来都の姿)と槍間来都(牛殿地位人の姿)。
二人の間に流れる空気は、以前とは違っていた…。互いの境遇を理解し、共有した苦しみは、二人の間に確かな友情の絆を育んでいた。
ゴロゴロゴロ…。
雷鳴は轟き続け、雨足はさらに強まった。まるで、二人の決意を試すかのように。
地位人(来都の姿)は、改めて今の心境を整理していた。
来都の体で過ごす日々は、刺激的で充実していた。百合との出会い、生徒会活動での経験、すべてが新鮮で、彼を大きく成長させてくれた。
ーーしかし、同時に、本当の自分ではないという葛藤も抱えていた。周囲の人々は、地位人を来都として見ている。地位人は、その視線に耐えきれなくなるときもあった。
「…俺は…。やっぱり、元の体に戻りたい…」
地位人(来都の姿)は、静かに呟いた。
来都(地位人の姿)もまた、複雑な心境だった。
地位人の体で過ごす日々は、辛く、苦しいものだった。
しかし、同時にーーこれまで知らなかった世界に、本当の自分の姿を見つけることができた。アニメやゲームの楽しさ、自由な発想の素晴らしさ、そして、本当の自分を隠さずに生きていくことの大切さを学んだ。
「俺は…地位人の体で…大切なものをたくさん見つけた…」
来都(地位人の姿)は、涙をこらえながら言った。
「…だけど…!やっぱり、元の体に戻ってーー両親に本当の自分を伝えたい…」
二人は、互いの気持ちを確認し合い、深く頷き合った。
その時、空に大きな稲妻が走った。
ビシャーーーーン!!
それは、まるで二人の願いに応えるかのように、真上に落ちた。
強烈な光と轟音。二人は、再び意識を失った。
「あれ…」
ゆっくりと目を開けると、地位人は見慣れた天井を見つめていた。
美少女が微笑むポスター…自分の部屋の天井だった。
「…俺は…?」
恐る恐る自分の手足を見つめた。いつもの、短くて細い手足だった。
鏡を見ると、そこには困惑したチー牛ーーいつもの冴えない自分の顔が映っていた。
「戻った…、のか…?」
安堵と同時に、少しの寂しさを感じた。
その時、部屋のドアが開き、両親が入ってきた。
「地位人…!!目を覚ましたのね…よかった…!」
母親は、涙を流しながら地位人を抱き寄せた。父親もまた、安堵の表情を浮かべている。
「…地位人…すまない…。俺たちは、お前が元気でいるだけでよかったはずなのに…!」
父親は、初めて地位人に謝罪の言葉を口にした。地位人は、驚きながらも、静かに頷いた。
「大丈夫だよ…父さん…」
一方、来都もまた、自分の無機質な部屋で目を覚ました。
彼は、すぐに鏡を確認した。そこに映っていたのは、いつもの完璧に整った自分の顔だった。
「…戻った…」
来都は、安堵の息を吐いた。そして、すぐに両親の部屋へ向かった。
「…父さん…母さん…。話がある…」
「来都!あなた目が覚めたのね…!」
「良かった…ああ良かった…」
来都は、両親に、自分の本当の気持ちを打ち明けた。
アニメやゲームが好きだということを、本当の自分は、地位人のように自由でいたいということを。
両親は、最初は驚いた表情を見せたが、すぐに来都の気持ちを理解し、受け入れてくれた。
「来都、今まで悪かったな…。これからは…自分の好きなように生きなさい」
母親は、優しく来都を抱き寄せた。父親もまた、温かい笑顔で来都を見つめていた。
翌日、学校で再会した地位人と来都。二人は、言葉を交わすことなく、拳を合わせた。
「…おかえり…。チー牛…」
来都が言うと、地位人は、笑顔で答えた。
「…ただいま…。イケメン…」
この不思議な入れ替わり体験のおかげで、二人は大きく成長していた。
地位人は、チー牛に戻っても自分に自信を持ち、周囲と積極的に関わるようになった。
来都は、以前の冷徹さを捨て、本当の自分で周囲と接するようになった。
ーーそして、二人は、本当の友情を育み、互いに支え合いながら、新たな人生を歩み始めた。
休み時間、地位人は、いつものようにチーズ牛丼を食べていた。
しかし、今日は一人ではない。来都が彼の隣に座り、一緒にチーズ牛丼を食べていた。
「…やっぱりチーズ牛丼は最高だな!」
来都が言うと、地位人は、ニチャア…と笑って答えた。
「…だろ?夏休みになったら、一緒にコミケ、行こうぜ!」
二人は、笑い合いながら、チーズ牛丼を頬張った。
チー牛とイケメン…二人の未来は、明るく、希望に満ち溢れていた。
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