第2話 素晴らしきかな!イケメンライフ

その日の朝、牛殿地位人…いや、今は槍間来都の姿をした地位人は、鏡の前で髪を整えながら、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。


「ふふふ…これが…イケメンの朝か…」


これまでの人生で、一度も経験したことのない爽快感。

鏡に映る完璧な顔立ち、鍛え上げられた肉体。すべてが新鮮で、刺激的だった。


学校に着くと、昨日とは打って変わった光景が広がっていた。女子生徒たちが、地位人(来都の姿)を取り囲み、黄色い声援を上げる。


「来都くん、おはよう!」

「今日もかっこいいね!」

「ねえねえ、今度一緒に映画行かない?」


モテ期到来!!


地位人は、人生で初めて味わう感覚に酔いしれていた。

これまで、彼にとって女子生徒とは、遠い世界の住人だった。彼女たちの視界に入るのすら憚られ、もちろん話しかけることなどできなかった。

それが今、目の前でキャッキャッとはしゃいでいる。


「…これは…夢…?」


地位人は、頬をつねってみた。痛かった。

夢ではない。現実だ!


「ニュフフ…。今日は…何をして遊ぼうかなぁ…」


地位人は、イケメンの特権を最大限に利用しようと企んでいた。


一方、その頃、チー牛の姿になってしまった本物の来都は、地獄のような朝を迎えていた。


「…うっ…気持ち悪い…」


鏡に映る自分の姿に、来都は吐き気を催した。

汚い肌、冴えない目つき、ヒョロガリなのにたるんだ肉体。食べてもいないのに、なんだかチーズ牛丼臭い気すらする。

すべてが醜悪で、受け入れがたかった。


学校に着くと、昨日までとは全く違う反応が待っていた。


「うわ…チー牛、なんか今日さらにキモくない?」

「なんか…臭い…」

「近寄らないでよ、気持ち悪い!」


これまで、地位人が受けていた仕打ちを、そのまま自分が受けることになるとは…。来都は、屈辱と絶望に打ちひしがれていた。


「…くそ…こんなの…間違ってる…!」


来都は、歯を食いしばり、教室の床を蹴った。



休み時間、地位人(来都の姿)は、女子生徒たちに囲まれ、楽しい時間を過ごしていた。

しかし、中身はあくまで地位人。イケメンの容姿に似合わず、オタク趣味丸出しの発言を連発し、周囲を困惑させてしまっていた。


「来都くん、休みの日はいつも何してるの?やっぱりサッカー観戦とか?」

「え、えーっとですね…休みの日はやっぱりアニメ見て…」

「えっ…意外…。ねえねえ、来都くんって、どんなアニメが好きなの?外国の芸術的なやつとかかな!?」


一人の女子生徒が尋ねた。地位人は、目を輝かせながら答えた。


「もちろん、『魔法少女マジカル♡りりかる』一択でしょ!俺の推しはピンクりりかるのモモナちゃん!あと、主題歌の『ときめかせて♡りりかるハート』も最高!毎日聴いてる!」


女子生徒たちは、ポカンとした表情で顔を見合わせた。


「…えーっと…そうなんだ…」


明らかにドン引きしている様子の女子生徒たち。地位人は、全く気付いていない様子で、さらに熱く語り始めた。


「そうそう!あと、『プリンセス騎士ヴィオラ』も好き!特に、姫騎士パンジャちゃんのサンダーシグナル!あれは、マジで熱い!俺もあんな技が使えたらいいのに!」


女子生徒たちは、もはや言葉を失っていた。地位人は、完全に空回りしていた。



一方、来都(地位人の姿)は、教室の隅で一人、地位人の母に持たされたチーズ牛丼を食べていた。周囲の生徒たちは、彼を避け、冷たい視線を向けている。


「…くそ…ッ!こんなの…耐えられない…ッ!」


来都は、涙をこらえながら、チーズ牛丼を口に運んだ。

すると、突然、彼の脳裏に、ある記憶がフラッシュバックした。


それは、幼い頃の記憶だった。裕福な家庭に育った来都は、常に完璧を求められるプレッシャーに苦しんでいた。両親は、彼に最高の教育を与え、あらゆる分野で優秀な成績を収めることを期待していた。


「来都、あなたならもっとできるはずよ」

「お父さんとお母さんの期待を裏切るなよ」


両親の言葉は、常に来都の心を締め付けていた。

来都は、本当の自分を隠して生きてきた。

本当の自分は、地位人のようにアニメやゲームが好きな、普通の少年だった。しかし、それを両親に知られるわけにはいかなかった。


ーーだから、自由そうに見える地位人が目障りだった。


「ーー俺は…ずっと…、嘘をついて生きてきたんだな…」


来都は、チーズ牛丼を両手で握りしめ…静かに涙を流した。




放課後、地位人(来都の姿)と来都(地位人の姿)は、偶然にも校門前で出会った。二人は互いに見つめあい、沈黙が流れた。


「お前、一体何を考えてるんだ…?俺の体であんな…!」


来都は、怒りを込めて地位人に問いかけた。地位人は、ニチャアと笑みを浮かべながら答えた。


「別に…何も考えてないよ…。ただ、この状況を楽しんでるだけ…。でも、俺にイケメンってのは荷が重すぎたみたいだ。自由にアニメの話もできないし…そろそろ元に戻りたい」


二人は、昨日の落雷に何か入れ替わりの原因があるのではないかと考え、明日、一緒に調べる約束をして別れた。

果たして、彼らは元の体に戻ることができるのだろうか…!?

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