異世界転移したから通販スキルでのんびり商人生活しようと思った僕を取り込もうとする周囲の人々~誰だって勝ち組になりたいだけなんだ~

@kosigaya

1章 異世界なんだな

第1話 女冒険者「なんか人が倒れてるんだけど」

 朝露が草木を濡らし、薄暗さと肌寒さが残る早朝。

 冒険者の朝は早いとは言うが、さらに早い時間帯、彼女らは行動していた。


「さむいさむいさむいさむい、上着マントでも羽織ってくれば良かった!」

「あはは、出発しだ時はエールも飲んで身体がポカポカしどったからの」

「だから言ったじゃないですか。朝方は冷えるって……」


 身体を縮めてぷるぷる震えてさせながら先頭を歩く金髪が映える少女に向かって、ため息交じりに言葉を返す大荷物を背負った青年。あははと控えめに笑っているのは樫の樹でできた杖を両手で握っている、顔にそばかすの目立つ女の子だ。


 少女特有の多少のあどけなさの残る顔立ち、年の頃は15歳くらいだろうか。しかし、この世界では15歳はじゅうぶん立派な労働力、言い換えれば成人と認識されている。多少の落ち着きを見せている青年も、未だ17歳であった。


 この三人は冒険者である。

 本日の依頼は『あーるまーしろ』という魔物の討伐だった。この魔物は基本的に土の中で生活しており、大人しく、特に人々に迷惑をかけない魔物なのだが、身体を守っている外殻が様々な素材となっているため、討伐依頼が頻繁に入る。『あーるまーしろ』は光琳草こーりんそうの葉に付いている水滴を好んで舐める習性があるので、3人は朝日も昇らぬ早朝に、わざわざこの地を訪れていたのだった。


「さむいさむいさむいさむい……、あっ!目標発見!先手必勝よ!とお!」


 金髪の少女の勢いのある掛け声とともに、ちらりと背後に目を向ける。

 視線の先にはそばかすの女の子。2人の付き合いは長いのか、そのやり取りだけでスムーズに行動がうまれる。女の子が両手に握った杖を「えい、えい」と上下に振るえば、目標となっていた『あーるまーしろ』は地面から生まれた数本の棘に身体を串刺しにされたのだった。


「うんうん、さすが私たちね! この調子でどんどん狩っていきましょ!」

「剥ぎ取りばデリックさん、よろじぐです」

「間違って僕を巻き込まないで下さいよ」


 とりとめのない日常のワンシーン。

 彼女たちにとっての”いつも通り”が今日も始まったのだった。


◇◇◇


「…………うん???」


 異変に気付いたのは大きめの石に腰かけていた金髪の少女だった。

 今日の彼女は手持ち無沙汰にぼんやりとしていた。なぜなら彼女はそばかすの女の子のように魔法が使えなかったからだ。『あーるまーしろ』は素材となる外殻が固い。なので彼女ご自慢の剣術が一切通用しないのだ。それならば青年と一緒に素材の剥ぎ取りでもすれば良いと思うのが普通なのだが。このパーティは違う。汚れ仕事や疲れ仕事はすべて青年に丸投げしているのである。なんというパーティだ。


「ねぇねぇ! ちょっとちょっと!」

「どじだ~?」

「エリンさん、緊急事態ですか?」


 金髪少女の声掛けに2人は顔を向ける。2人の足元には数体の「あーるまーしろ」の亡骸が転がっており、すでに依頼の討伐数を終えていた事がうかがえた。


「あそこ! あそこに何か落ちてるの! もしかしたら人かも!」


金髪少女の指さす方向、荒れた岩肌が目立つこの地に似つかわしい色彩の物体が異彩を放っていた。早朝の薄闇では気付くことはできなかったようだが、朝日が昇る今になって、ようやくその存在に気が付くことができたのだろう。


「なにがが……」

「落ちてるんですか……?」


 2人は首をかしげる。金髪少女が指さす方はちょうど死角となっているようで、どうやらピンと来ていないようである。そんな2人ののんびりした反応を不満に感じたのか、金髪少女は「もういい! 見てくるからね!」と勇猛にも異彩を放つ物体に近づいていくのであった。これが3人の人生の転機になるとも知らずに……。

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