第75話

アナスタシアの訪問という珍事はあったが、ユーラシアとトキノリは予定通り買い物に向かった。

「トキノリ様。これをどう思います?」

そう言って見せてきたのは三日月の形をしたネックレスだった。

中央にはトパーズがあしらわれている。

「よくお似合いだと思いますよ」

「そうですか。では、これを買うことにします」

トキノリは値段を見てちょっと戸惑いを覚えるが言葉に出すのはやめておいた。

公爵家の娘であるユーラシアとは金銭感覚がかなり違うのだろう。

「次はどこに行きましょう?」

「そうですね。映画とかはどうですか?」

「映画ですか?それも悪くないですね」

2人で映画館に向かう。

この時間に上映しているリストを確認する。

「ホラーとコメディに恋愛映画ですか・・・」

「ホラーは苦手なので他のでお願いします」

「では、無難に恋愛映画にしましょうか」

「こうして映画館で映画を見るのははじめてなのでドキドキしますね」

「普段はどうしていたんですか?」

「家に専用の部屋がありましたから」

「なるほど・・・。スケールの違いを見せつけられた思いです」

「でも、こういうのも悪くないと思いますよ?殿方とこうして映画館に来るのは憧れてましたし」

「小説の影響ですか?」

「そうですね。恋愛小説で読んだことがありましたから」

「なるほど。では、チケットを買ってきますね」

「はい。私は飲み物とポップコーンを買ってきます」

トキノリはチケットを2人分購入する。

ユーラシアに合流するとでかいバケツのポップコーンとキングサイズの飲み物を持っていた。

「では、行きましょうか」

「はい」

ホールに入って見やすい席を確保する。

しばらく待っていると暗くなり映画がはじまった。

ストーリーとしては王道の恋愛映画だ。

身分違いの2人が恋に落ちる。

様々な困難を乗り越えて最終的に結ばれる話だった。

映画館を出てトキノリはユーラシアに話しかける。

「どうでしたか?」

「内容はベタベタでしたけど、映像で見るとやはりいいですね」

「ユーラシアとしては憧れとかあるんですか?」

「憧れ・・・。そうですね。相手の身分は関係なくて好きになった人と結婚出来たらいいなとは思いますよ」

「現実的には難しそうですけどね」

ユーラシアは伝統あるエニュー帝国のサルベン公爵家のお姫様だ。

その結婚相手には相応の立場が求められる。

トキノリでは相手にもならない。

「私の立場は不安定ですからね。でも、やっぱり好きな人と結婚したいですね」

ユーラシアはそう言い切った。

トキノリには応援することしかできないがその願いが叶うといいなと願わずにはいられなかった。

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