第6話 魚食べたくない?

 鹿肉の宴は、三日三晩続いた。


 俺は何とか色んなキャンプ用品がありそうな店を探って道具を確保し、鹿肉の元に戻った。いくらかザコモンスターが寄ってきていたが、この程度ならさしたる問題ではない。


 俺は、日用品なんちゃらなんていうザコスキルに負ける、ザコモンスたちを血祭りにあげ、ギコギコと解体に入った。


 作業はネット頼りの手探りで、かなり手間取ったが……結果は上々。家まで近かったのもあり、何十往復かの末に、肉を回収しきった。


「そして、冷やす!」


 幸いにしてアパートの他の部屋にも電気が通っていたので、がら空きとなった他の部屋の冷蔵庫を借りる形で、どうにか保存と相成った。


 いやまったく、恐ろしい成果である。肉が数百キロ単位で手に入ってしまった。俺は冷凍した肉は基本腐らないと思っているので、全部冷凍庫にぶち込んだ。


 それからしばらくは、鹿肉パーリーだった。


 少食の俺だが、別に食べられないわけではない。これだけの量の肉、大食いしない方がもったいない! とたらふく食べた。


 鹿肉の調理はなかなか繊細で難しかったが、何度もしていれば慣れるというもの。ネットでレシピを見つけては試し、食べ、ゲームし、調理し、食べ……。


 そして二週間が経った頃、俺はすっかり鹿肉に飽きていた。


「……ふぅ……」


 最初はごちそうでも、同じ献立がずっと続けば辛いもの。俺はすっかり、鹿肉を見たくもなくなっていた。


「人間よぉ……生きてくだけじゃあダメなんだよ……! 生きてくだけじゃあよぉ……!」


 俺は鹿肉のジャーキーを、親の仇みたいに噛みながら、腕を組んでいた。


 ああ、懐かしき出前時代。カレー、焼肉弁当、寿司、素晴らしきかな日本食!


 だが、この終わり切った隔離地域にはそんなものはない。ガッデム。許せん。


 俺はじっと皿に盛られた鹿肉を睨む。睨み、睨み、睨んだ末……思い至った。


「……魚、食いたくね?」


 食いたい。刺身、焼き魚、煮魚。


 食いたい。肉じゃなく魚が食いたい!


 俺は立ち上がる。


「釣りの時間だぁ!」


 そうして俺は、準備を始めるのだった。






 実は俺、釣りの経験者だったりする。


 というのもFラン大学生時代は、近所に釣り堀だったり海だったりがあって、結構行っていたのだ。


 あの頃に戻りたい……。切実に戻りたい。まだ養われている身分で、ひとまず大学に通っているから親に文句の言われない、あの学生時代に……。


 という事で、俺は釣り道具を軽く点検して、カバンに詰めて、自転車で走り出していた。


「ふーんふふーんふふーん♪」


 シャーッと音を立てて、カーブの下り道を自転車で爽快に駆け抜けていく。


「さかなさかなさかな~、さかな~は~DHA~♪」


 こんな歌だったっけと思いつつ、じゃこじゃこと自転車を漕ぐ。


 何がいいって、車が道路を走っていないのがいい。お蔭で広い道を独占状態だ。


「久々だなぁ、あの辺りの海行くの。ふへへへへ、何釣れっかな~、楽しみだな~」


 大変に上機嫌である。久々の自転車も爽快だ。数年ぶりだからパンクしてたけど、幸い空気入れを持っていたので無問題。


「えーっと? しばらくここをまっすぐに進んでー……そこからの道の記憶あやふやだな。しばらく行ったら確認するか」


 俺は国道をすいーっと進んでから、途中で足を止めてスマホを開いた。


 道を確認する。あーはいはい、あっちの方ね。大体分かったわ。


 道の確認終了。ついでに俺は、流れでスレを開く。




―――――――――――――――――――――――――――


521:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

うわー、隔離地域も場所によっては悲惨なことになってんのな


522:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

危険S級冒険者と高レベルモンスターの群れの戦争かぁ

巻き込まれたらたまったもんじゃないな


523:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

イッチ今日遅いな。いつもならもう鹿肉料理実況の時間だろ


524:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

A級モンスターの肉で作った鹿肉料理なw


525:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

イッチ、いっくら説明しても一向に信じないからなぁ

本人も常識ないって言ってたけど、ここまでとは思わないじゃん


526:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

結局スキルも正式名称明かさないしな


527:名前:隔離ニート

呼んだ?


528:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

イッチやんけ!


529:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

おい今日の鹿肉料理のコーナーどうしたんだコノヤロウ!


530:名前:隔離ニート

鹿肉飽きたから魚釣りに出かけてる


531:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

こいつ自由だなぁ。ちょっとうらやましいぞおい


531:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

イッチはド天然やからな。仕方ない


532:名前:隔離ニート

お前らの嘘には踊らされんぞ


533:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

一周回って可愛く見えてきたわこいつ


534:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

今日もイッチは頑なに信じへんな。トラウマでも抱えて現実見るの拒否ってへんか?


535:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

やめたれw


536:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

今日は魚釣りなんか? 何釣るん?


537:名前:隔離ニート

分かんね。海の機嫌次第

海はちょっと遠いから、ここで大量確保して帰りたいところって感じ


538:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

このタイミングで、隔離地域で遠出か……しかも海まで……


539:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

今の時期はちょーっとヤバいかもなぁ……


540:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

武装はちゃんとしてるか? いや、武装は無意味か……逃げるアシはあるか?


541:名前:隔離ニート

何だよ

まーたスレ民は俺のことビビらせようとする


542:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

いや、今回はちょっとまずいかもしれんから、注意しとけ


543:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

そうだぞイッチ。多分お前の近くで、結構派手な戦争が発生してるからな


544:名前:隔離ニート

戦争!?

なにそれこわ


545:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

危険S級冒険者と高レベルモンスターの群れが、大規模に戦ってるらしいんだわ

リポーター系ダンジョン配信者が動画上げてるから見たんだけど、怪獣大戦争って感じだった


546:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

デカい武器ブンブン振り回して、あれもう嵐の擬人化だろ


547:名前:隔離ニート

高レベルモンスターは分かるんだけど、危険S級冒険者って何?

冒険者は人間だろ? 危険って何が?


548:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

人間にも被害出してるタイプの冒険者には、頭に「危険」って付けるんだよ

隔離地域には警察が居ないから捕まってないだけで、シンプル犯罪者

しかもS級だから超強い


549:名前:隔離ニート

怪獣大戦争じゃん……


550:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

いや、マジでそうだぞ


551:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

暴れてるのは危険S級冒険者で、『怪物』って呼ばれてる奴だ

白い髪に真っ赤な目をしてるから、一目見たら分かる


552:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

怪物が大量のモンスター相手に暴れてたら逃げろよ

まぁ明らかに危険だから近づかないと思うけど


553:名前:隔離ニート

リょ、了解


554:名前:隔離ニート

うえー、今日出掛けるんじゃなかった……

クーラーボックス満タンにしたらサッサと帰ろ……


555:名前:ダンジョンマニアの名無しさん

クーラーボックス満タンになるくらいには釣るつもりで草

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