片思いの女の子から恋人の浮気を相談されたから、 クリスマスイブに彼女をデートに誘ったんだけど、 なんやらかんやらあってその浮気相手と付き合うことになった件
南北足利
第1話 前編
駅前広場に小さなクリスマスツリーが置かれ、
そのイルミネーションがキラキラと瞬いていた。
クリスマスイブ、もうすぐ彼女と待ち合わせの午後6時、粉雪がチラチラと舞いだした。彼女とこの初雪を一緒に見たい。早く、来てほしいな・・・
俺、和樹は地元から遠い大学に進学したため、この街で一人暮らしを始めた。
誰も知り合いなんて居なかったけれど、大学で出来た新しい友達と
初めてカフェに行った。
そこに彼女はいた。
オシャレな制服があつらえたように似合っていて、
笑顔が輝いていて、注文を繰り返す声も透き通っていた。
そのうえ姿勢がよく、軽やかに歩いていて身ごなしが洗練されていた。
初めての一目ぼれだった。
それまでアルバイトは何しようかって悩んでいたけれど、そのカフェにすぐ申し込んだ。地元の友達からイケメンじゃないと採用されないと言われたけれど、採用してもらえた。
彼女の名前は亜咲美といって、近くの女子大の2年生で、
このカフェで半年ほど働いていた。
彼女は火、木、土の夜に働いていたので、俺もその曜日に働かせてくれるよう頼んだ。
亜咲美さんは面倒見がよく、笑顔で優しく指導してくれた。
ホール全体をよく見ていて、バイトを上手く使ってくれたから
忙しい時でもバイト初心者の俺ですら笑顔で働くことが出来た。
一緒に働いて、少し彼女のことを知ってより好きになってしまった。
だけど、俺はこれまで恋人が出来たことがなく、
こんなステキな人が俺の彼女になんてなるワケがないと最初から諦めていた。
だから、バレないようにしようと思った。
当然だが、亜咲美さんはバイト仲間から、男女問わず大人気だった。
このカフェは大学生のアルバイトがほとんどなのだが、性格がいい人が多くて、
みんな仲が良いこともあって、時々飲み会が開かれていた。
亜咲美さんが参加するって知ったので俺も参加していたが、
彼女のそばには男女が群がっていて、近づくことは出来ず、
なかなか親しくなれなかった。
梅雨の雨の夜、亜咲美さんがカフェオレを運んでいたとき、
すれ違おうとする客と給仕しようとした客の動きが運悪く重なって、
カフェオレを客にこぼしてしまった。
その客の服はお高いスーツだったらしく、亜咲美さんに猛烈な怒りをぶつけた。
亜咲美さんは丁重に謝り続けたものの、怒り狂ったその客は全く許す気配がなかった。その時間は運悪く、店長はもちろん、社員もいなかった。
動こうとした俺を制して、その時間の責任者アルバイトリーダーが謝罪に加わった。
だけど、
「アルバイトでは話にならん!店長を出せ!」
「店長は不在なので、リーダーの私がお話を伺います。」
「この服はたっかくて、買ったばかりなんだぞ!
アルバイトなんかに買えるもんじゃないんだ!
店長を出せ!責任者を出せ!」
その客はさらにエキサイトして怒鳴り続け、アルバイトリーダーはすぐに黙り込んだままとなった。
さっきまで楽しそうだった客は気配を消し、次々と出て行った。
入ってこようとした客も眉を顰め、きびすを返した。
亜咲美さんは蒼白となっていて、ついに震えはじめた。
もう、我慢が出来なくなって、亜咲美さんをかばうようにしゃしゃり出た。
「お客様。確かに私どものミスでございます。
お客様のご立腹は当然のことでございますが、
この場ではそのご希望を叶えることはできません。
どうか、警察へ被害届を出していただけないでしょうか。
そうすれば、本部の人間が適切な対応を取らせていただきます。」
毅然とした態度で話し、深々と頭を下げた。
「なんで、俺が警察に行かないと行けないんだ!
ふざけるな!お前らがミスしたんだ!お前らが対応しろ!」
警察という言葉に、さらに激昂するクレーマー。
すぐに説得を諦めた俺は頭を上げた。
「分かりました。でしたら私が警察を呼びます。」
「あん、お前が警察を呼ぶって言うのか?」
俺に一歩近づいて来て、睨めつけてきた。
「はい、貴方が長い時間、大声でクレームを言ってるので、
他のお客様が帰り、入って来なくなってしまいました。営業妨害で訴えます。」
「営業妨害だと!ふざけるな!」
さらに、さらに、激昂して怒鳴られた。
落ち着き払ったフリで、ゆったりとスマホを取り出し、110番した。
『事件ですか、事故ですか?』
「事件です。」
「も、もういい!覚えていろよ!」
クレーマーは捨て台詞を吐きながら、慌てて逃げ出した。
・・・
アルバイトリーダーから、また来たらどうするんだ!勝手なことをするな!
って怒られたけど、亜咲美さんを守ることができて、そのうえ感謝を伝えられたから、大満足だった。
バイトを終えて帰ろうとしたら亜咲美さんに呼び止められ、別のカフェに誘われた。
彼女は安心した笑顔を見せてくれ、丁寧にもう一度、お礼を言われた。
すごく怖かったこと、どうしたらいいか分からなくなっていたから、
助けてくれてホントに嬉しかったと初めて営業用でない笑顔を俺に向けてくれた。
その笑顔にまたシビレ、惚れなおしてしまった。
ホントに、しゃしゃり出てよかったよ。
それから俺は亜咲美さんにとって一番信頼できる人になった。
ただし、このお店の中だけ。
アルバイト中、少し閑になると笑顔で話しかけてくれるようになった。
アルバイト仲間との宴会のときは亜咲美さんが隣に呼んでくれて、楽しくお話しした。
夏になって、高校時代から付き合っている恋人がいることを教えられた。
ショックだったけれど、俺と知り合ってからでなくってよかったと思った。
うん、こんなにキレイで、性格もいいんだもの。恋人だっているよね。
逆に、俺に彼女がいないことを知ると、何度か友達を紹介しようとしてくれた。
断り切れず、一度だけ亜咲美さんの友達を紹介してもらった。
亜咲美さん、彼女の友だち、亜咲美さんの恋人駿介の4人で
オシャレなレストランで食事をして、カラオケに行った。
駿介は俺より偏差値の高い大学の2年生で、さわやかなイケメンだった。
亜咲美さんのことを大事にしながらも、俺と亜咲美さんの友達を盛り上げようとしてくれたから、悪い感情は持てなかった。
だけど、俺は人見知りを発揮してしまい、いつもニコニコしていたけれど、
質問に答えることしかできなかった。当然、彼女の友達と連絡先を交換することはなかった。
亜咲美さんは、そういえば私にも中々話しかけてくれなかったよねって笑っていた。
夏が過ぎて、秋になった。
俺は亜咲美さんへの恋心はさらに膨らんだけれど、まだ上手に隠せていたと思う。
仕事中は他の女の子とも話を平等にするように気を付けていた。
アルバイト仲間との宴会では、最初は亜咲美さんの隣に座っていても、
最後は男友達の隣で終わるようにしていた。
だから、相変わらず仕事場で頼りにされていた。
12月になって、亜咲美さんの笑顔がほんの少し雲っていることに気が付いた。
その次も、その次の次も、その次の次の次も、
やっぱり曇っていたので、我慢が出来なくなってしまった。
これまで、同じ時間にアルバイトが終わっても、一緒に帰らないよう気を付けていたのだが、初めて待ち伏せてしまった。
「どうしたの?和樹くん。」
「亜咲美さん、あの・・・何か悩み事とかないですか?
笑顔がいつもより曇っているのが気になって・・・」
「え~、そうかな?心配させてゴメンね。でもなんでもないから。」
亜咲美さんは笑顔をつくった。
でも不自然さがぬぐい切れず、初めて1歩、踏み込んでしまった。
「そんなことないです。最近、ずっとです。
・・・その笑顔もなんか無理しているカンジです。」
亜咲美さんはふ~っと大きなため息をついた。
「・・・バレちゃった?他の子にはバレてなかったのにな。凄いね、和樹くん。
・・・実はね、駿介が浮気しているみたいなんだ・・・」
「えっ、ホントですか?」
「証拠はないけど・・・
なんか、態度がぎこちないし、デートに誘っても結構断られちゃうんだ・・・」
「そんな・・・亜咲美さんみたいにステキな人を・・・」
亜咲美さんの笑顔を曇りないものにしたかった。俺の力で。
だから、弾けてしまった。
「あの、亜咲美さん。ずっと好きでした!俺と付き合ってください!
絶対に、ずっと、ずっと、大事にします!お願いです!」
「えっ、嘘!」
俺の恋心に全く気づいていなかったようで、
ビックリして口に手を当てた仕草が亜咲美さんらしくなく、
幼くて、可愛らしく感じた。
「ホントです。初めて会った時からっていうか、
あのカフェに客として入って、亜咲美さんに一目ぼれしたんです。
だからアルバイトに・・・」
「ええっ、それ、ホントなの?」
ますますビックリして、目を見開く亜咲美さん。
こんな色んな表情を見れただけで告白した甲斐があるよ。
「気持ち悪いですかね?すいません。」
「ううん、そんなことないけど・・・私のことを好きってことが意外で・・・」
「バレたら一緒に働けないって思ってて、必死で隠していたんです。
好きです!お願いです!考えてみてください!
クリスマスイブの18時、ここで待ってます!もしOKなら来てください!」
必死で頼み込むと、亜咲美さんは笑顔を浮かべて頷いてくれた。
「・・・うん、ありがとう。ちゃんと考えてみるね。」
・・・
20時になった。亜咲美さんはまだ来ていない。もう、来ないだろう。
電話番号を教えていないし、ラインも繋がっていないから、
亜咲美さんから連絡来るハズないよな・・・
アルバイト仲間のラインを見てみたら、亜咲美さんが一言だけ呟いていた。
「ごめんなさい。」
・・・
メチャクチャ冷えているけれど、亜咲美さんはもう来ないだろうけど、待ち続けた。
天気予報で寒くなるだろうと言っていたので、カッコよさよりも防寒対策を優先していた。
ぱっちを履いて、腰にはカイロを貼り付けていたお陰でなんとか寒さを我慢できた。
悲しいけれど、恋予報も当たってしまった。
22時近く、後ろの方で酔っぱらいの喚き声が聞こえた。
「おねえちゃん、可愛いねえ~俺と飲みに行こうよぅ
寒いでしょ?俺があっためてあげる~
カレシ、待っても無駄だよ~もう来ないよ。だから、俺と飲みに行こうよぅ~」
女の子は断り続けているが、酔っぱらいはしつこく絡み続けていた。
うん、あの女の子は19時から待ち続けている女の子だ。
この寒さの中、ダウンジャケットを着ているが、胸の谷間が見えるくらい開いていて、レギンスは履いているもののミニスカートだった。寒そう・・・
恋人が絶対に来ると思っているんだな・・・
まあ、俺の方が1時間長く待っているけどな!勝利が空しい・・・
辺りを見回しても彼女を助けようとする人は誰もいなかった。
「お待たせ!」
笑顔で彼女に近づくと、酔っぱらいは酔眼で俺をねめつけてきた。
「うん、だれだ、おまえ?」
「彼女の恋人ですよ~。教授に無理やり研究を手伝わされて遅くなっちゃったんです。それより、今まで彼女をナンパから守ってくれてありがとうございます!」
酔っぱらいに、笑顔で腰低く、丁寧に話しかけた。
「うん?そうだ、俺は悪いヤツから守ってやったんだ!
お前、遅いぞ!この子、寒くて震えてるじゃね~か!」
酔っぱらいがうんうんと頷き、俺に対する説教モードに変わった。
「すいません。遅くなっちゃいました。
彼女のことが不安で走ってきたんですけど、無事でよかったです。
ホントに守ってくれてありがとうございました。」
「おう、いいの、いいの。仲良くやれよ。」
気分が良くなったらしい酔っぱらいは片手をあげて千鳥足で駅に向かっていった。
ほっとして振り返ったら、彼女は固い表情のままだった。
「あの、ありがとうございました。でも、ナンパなら結構です。」
「ああ、いや、かなり長い時間、ここにいるだろ?
このカイロを腰に貼るとすっごく暖かいよ。」
カイロを2つ、押し付けて元の場所に戻った。
「あっ、ちょっと!」
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