第14話 家族仲が良いと幸福度が上がるそうですよ




 天使アレックスの可愛さを目のあたりにし、これからは自他ともに認めるぐらいの仲良し姉弟になろうと心に誓った。


(いけないいけない。2度目のときの癖で自分のことを"お姉ちゃん"と言ってしまった。それにしてもアレックスの髪ったら柔らかくて気持ちいい〜)


 アレックスが本気で嫌がらないのをいいことに、さらさらな子供の髪の毛を存分に撫で回していると、扉から話し声が聞こえてきた。


「やっぱり、まだ眠っているみたいだわ。もう少し時間をあけてからにしましょう。起こしてしまったらローザリアに悪いから」


「しかし……」


「だからもっと気にかけてくださいと言っていたのに。わたくしでは言葉をかけても逆効果になってしまうから、あなたの方からと……」


「正確な状況が掴めぬうちから言葉をかけてどうなるんだ、あの子の自尊心を傷つけることになりかねない」


 ……お父様とお義母様の声だ。


 戻ってきた3度目の人生では、まだどちらにもお会いしていない。

 アレックスと同じく20年ぶりの顔合わせになる。


(お父様……私が皇城に住まいを移してからは、気軽に言葉を交わす機会が減ってしまった。思えばエクリプス邸にいたときも)


 もともと口数が少なかったお父様と話すとき、私は毎回言い争いをしていた。といっても、私が一方的に言いたいことを並び立てていたんだけど。


 お父様は毎回、口癖のように「皇太子妃に拘る必要はない」と言っていた。


 私とディミトリアス殿下の婚約を取り決めたのは、今は亡き祖父である前エクリプス公爵家当主と、現皇帝陛下だった。


 むしろお父様がこの婚約を反対していたのだと知ったのは、新しくお義母さまが公爵夫人として屋敷に迎え入れられた頃のこと。


(ただあの時は、お父様に期待されていないのだと、そう頑なに思ってしまっていたのよね)


 だからこそ余計に皇太子妃の座にこだわるようになった。


 実の母を亡くし、新たな公爵夫人が現れて、そしてアレックスが産まれて。

 私は不要なのだと、大切にされることはないのだと負の思考ばかりに囚われた。


 そして、居場所は、皇太子妃ここしかないのだとヤケになったのだ。

 

(でも、きっと違う。お父様が私に言いたかったのは――)



『周りが次期団長なんてはやし立てているが、期待に応えようとするんじゃねーぞ』


 女傭兵時代。

 私が団長に口酸っぱく言われていたこと。


 彼は傭兵団の頭であり、それでいて父親のような存在でもあった。


『いいか? 親が子に望むのは、大それたもんじゃない』


 鮮明に思い出せる。次期団長としての重圧をそれなりに感じていた私に、団長は頭を乱暴に掻き回して、口を大きく開いて笑って言ったのだ。


『苦労せず、苦しい思いをせず、いつどんな時でも自分に正直に、親より長く生きて――しあわせになること。突き詰めるとそれだけだ』


『それだけって、結構無茶な注文ね』


『はっ、こんな仕事してりゃ、たしかにそうだなぁ』


 照れ隠しに笑っていたいたけれど、あの時の団長の言葉はどれも本心だった。

 いつだって親は子の幸せを願うもんだと、そう言ってくれた。






「こんな夜更けに……どうされましたか? お父様、お義母様」


「ローザリア……!」


「ローザリア、あなたっ……起きていたの?」


 ベッドから降りて扉を開けると、お父様とお義母様が同時に私のほうを凝視した。


 笑いかけていれば、あることに気づいたお義母様が唇を震わせる。


「い、いま……わたくしのことを、なんと?」

「……!」


 お父様もそれに気づき、改めて私を見下ろした。

 

(これで何度目の気づきだろう。今日は本当に、気づかされてばっかりだわ)


 私を大切に思わない人たちが、夜中に二人して部屋の前をウロウロしているわけがない。


 公爵夫人であるお義母様が、使用人を遣わずに自分の手で温かな飲み物を運んできてくれる。私を不要だと思う人がそんな優しさを与えてくれるわけがない。


「……お父様、お義母様。なんだか、とても久しぶりな気がしますね」


「ローザリア、どうしたのだ……?」


「いえ、ちょっと。お父様の匂いを思い出していただけです」


 二人からしてみれば訳が分からないだろう。

 昨日までは暴れまくって反抗ばかりしていた娘が、自分で言うのもなんだけどこんなに汐らしくなってしまったのだ。


 ましてやお父様の胸に体を預けるなんてこと、お母様が亡くなって以来したことがなかった。


「…………姉さま、ゼクシウス神の啓示を受けたかもしれないみたいで」


 私の言動に疑問符ばかりを浮かべている二人に、寝室にいたアレックスは軽く説明を入れてくれたが、さらに戸惑いを強めてしまうのだった。





『可哀想なローザリア。どうしてこんなにも可愛い子を公爵は愛してくれないの。新しい夫人と産まれたばかりの子に注ぐ愛情はあるというのに、どうしてあなたを不要だと言わんばかりに冷たくあしらうの。あなたはこの国にたった一人だけの――未来の皇太子妃だというのに。可哀想に、なんて可哀想なローザリア』



 ……ああ、本当に。

 記憶を改めれば改めるだけ、どんどんきな臭くなってくる。


 

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