第10話 それは各々の目的のため
***
皇太子宮、談話室。
少し機嫌の悪そうなディミトリアスは、スラリと伸びた脚を組んで目の前に座る者を見据えている。
「お前の行動力には恐れ入った。まさか昨日の今日で庭園をうろつくとは、身軽にもほどがある」
「……お褒めに預かり光栄です」
「帝国では嫌味と捉えられる発言だが、お前の国では褒め言葉に扱われるのか。街の人間も穏やかな者が多かった印象だが、実に愉快なお国柄だな」
「あー……その、すみません」
指先同士をつついて気まずそうに謝るのは、いまも至るところで話題に挙がっているだろう噂の令嬢、フェリシア・レスト・ハイネリアだ。
フェリシアは婚約者候補としてディミトリアスが連れ帰った隣国の公爵家の人間である。
もうその存在は貴族中に広まっており、ディミトリアスの婚約者であるローザリアの知るところとなった。
「それにしても驚きましたよ。おひとりで庭園に向かわれたと思えば、ローザリア様がおられる茶会に乱入しているんですから」
「乱入じゃなくて、偶然にも遭遇したらその中のご令嬢の一人に誘われたんですがね……」
「エリザベス侯爵令嬢のことですね」
「ああ、そうそう。エリザベス嬢。いやー、びっくりした。女同士特有のバチバチ感? 怒鳴られたときはさすがに不味いと思ったね。まあ意外と嫌いじゃないというか」
「笑い事ではありませんよ……」
茶会の席を振り返るフェリシアに、呆れを滲ませるのはディミトリアスの従者ロイモンドだ。
伯爵家の次男であるロイモンドは、ディミトリアスとは幼なじみであり補佐役も務めている。
「……むしろ、笑っていなければやっていられないな」
ディミトリアスは半分投げやりに言うと、壁に飾られた絵画に目を向けた。
女人が描かれるなんてことない絵だが、そこはかとなくある人物に似ていることにフェリシアは気がつく。
「それにしても殿下の婚約者さま、とても美しかったですね。昨日のうちに収集していた情報ですと、着せ替えドールと裏で言われているほど身につける品が――」
「ローザリアを馴れ馴れしく語ることを許可した覚えはない」
「……怖っ。視線だけで殺されそうな勢い」
フェリシアは肩を竦める。
「なぜ俺がこんな馬鹿げた茶番を許してまでお前を招いたか、忘れたわけではないはずだ」
ディミトリアスにそう投げかけられると、フェリシアのまとう空気は一変した。
「……忘れる? そんなわけ、あるはずがない」
瞳孔がカッと開き、一種の憎悪のようなものを口端を笑わせることで必死に抑えているようだった。
「それならいい。ただ、先ほどみたいに余計な問題を起こしてくれるな」
「だからあれは不可抗力で……」
言いかけて、また同じ話をするのも面倒だとフェリシアは早々に言葉を切る。
「殿下には、感謝していますよ。こうして婚約者候補にしていただいて、うまくいけばそう時間がかからずに各地を見て回れそうですしね。……ただ」
「なんだ?」
「殿下の婚約者であるローザリア公爵令嬢に、何かしらフォローを入れなくていいんですか」
「……それができるものなら、苦労なんてしていない。今までも、これからも」
ディミトリアスは眺めていた絵画から目を背け、思いを馳せるようにまぶたを下ろした。
《第1章 隣国から来た令嬢 終》
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