第6話 苦悩と我慢のティータイム
さすがに急すぎるかな、とは考えていた。
アレックスからしてみれば今まで散々な扱いをしてきた姉の態度が突然軟化して、不気味以外のなにものでもないだろうと。
それでも声に出して伝えようと思ったのは――…
「ローザリア様、どうかなさいました?」
我に返ると、そこは庭園内にある薔薇園。
皇城前で姿を消してしまったアレックスが気になって仕方がなかったけれど、追いかけてお茶会に遅れるわけにもいかず……。
ひとまず予定通りお茶会に出席できた私は、ずっと気薄な反応ばかりだったため隣の席の令嬢から声をかけられた。
視線を感じると思ったら、テーブルに腰掛ける令嬢たち全員が私の様子を窺っていた。
「ああ、ごめんなさい。少し考え事をしていて」
「考え事……そうですよね。昨日から何かと騒がしいですし……」
「ルクレナ嬢! 不謹慎ですわよ!」
少し離れた席に座るルクレナ嬢の発言を、隣に座るエリザベス嬢が咎める勢いで止めた。
昨日から何かと騒がしいと言えば、一同が思い浮かべるのはディミトリアス殿下とフェリシア嬢のことだからだ。
現時点でディミトリアス殿下の婚約者として名が通っている私からすると、決して面白い話題ではないと気を使ってくれたんだろうけど。
エリザベス嬢が咄嗟に声を荒らげたことで、空気はすっかり気まずいものになっていた。
(このお茶会に出席しているのは、いわゆるエクリプス公爵家側の貴族家門や、私を支持する令嬢ばかり。それが突然、ディミトリアス殿下が隣国から婚約者候補を連れてきて……彼女たちも気が気じゃないって感じね)
その問題の最も渦中にいる私が呑気にお茶をすすっているので、余計に令嬢たちはどう扱っていいのか分からずにいるみたい。
会話のひとつをとっても気を使うし、刺繍や趣味の話に移っても皆して気もそぞろだ。
(むしろこれ、誰が楽しくて開かれているお茶会なんだろう。今日は特に、息が詰まって仕方ないじゃない)
誰かこの苦悩と我慢が入り交じったティータイムの雰囲気を変えてと願うけれど、もしその役目を担うとしたら立場的にもきっと私である。なんて面倒な。
「そんなことよりも皆さん、本日の薔薇はより芳しいと思いませんか? 花びらも綺麗に色づいていますし、お茶菓子を召し上がりながらゆっくりと楽しみましょう」
「そんなこと……」
そこ、ボソッと呟かないルクレナ嬢。
この空気を払拭しようと余裕をかまして微笑めば、令嬢たちのティーカップを持つ手が不自然に止まった。
そして、一人が意を決した様子で口を開く。またもルクレナ嬢だ。
「実はいらっしゃったときから気になっていたのですが、ローザリア様の本日の装いはなんだか……いつもと違っていますね」
誰もが思っていたことのようで、他の令嬢たちもうんうんと頷いた。
「少し気分を変えようと思いまして……皆さんから見ておかしなところはありませんでしたか?」
「おかしいだなんてとんでもない! むしろ今のほうがよっぽど――いえ、皇妃陛下から贈られた品々も素敵でしたけどっ」
あわわわ、と慌てて言葉を足すルクレナ嬢。
1度目ではあまり印象に残っていなかったけれど、良くも悪くも思っていることが顔に出てしまっているのがむしろ清々しい。なんだか楽しそうな子。
ドレスルームで見つけた少し青みがかる白いドレス。
頭の飾りやアクセサリーなど、昨日までの私なら絶対にしないような格好に令嬢たちは今も驚きを隠せないでいる。
髪型や化粧をシンプルにしたことで、庭園に入ったときは「ロ、ローザリア様ですか?」と聞かれるほどだった。
「不評ではないみたいでよかった」
そうしてティーカップを口に運べば、じいっと注目される。……え、私、粗相してないよね?
先ほどから一挙一動のすべてを目で追われているため、なにか失敗を犯していないかと内心ひやひやしていた。
マナーや話し方は問題ないはずだけど。たぶん。
(いきなりどうしてこんな格好をしているのかという疑問も、ディミトリアス殿下とフェリシア嬢のことが影響していると思われていそうだけど……)
それでも直接的な二人の話題にならずに済んだのでよかった。
(いまなにを聞かれても、二人のことについて私の口から言えることは少ないし)
ひとまず不穏な空気は流れたと、安心したとき。
不意にコツン、と足音が鳴り響いた。
「あ、ここは……?」
薔薇の壁に囲まれる茶会の席の先で、わずかに確認できた姿。
(……!)
薄桃色の靡く長い髪を目にした途端――心臓が大きく跳ね上がった。
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