中編ー②
本当によく似ていた。
顔も、声も、性格も、背丈も、雰囲気も。
俺の幼馴染で恋人であった卯月と瓜二つだった。いっそ不気味なほどに。
強いて違う点を挙げるとすれば、卯月より目つきが若干鋭いことと、右目の目元にほくろがあることだろうか。
だが、それすらもどこか既視感がある。誰と似ているのかを一瞬だけ考えてみるも、すぐにやめた。ひどい頭痛が俺を襲ってきたからだ。
「くそ……」
最悪だ。さっきまでも最悪の気分だったが、さらに気分が悪くなった。
前世を思い出した途端、裏切った恋人と似ているやつと顔を合わせることになるとか、どんな確率だ。こんなの、まるで過去に追いかけられているみたいじゃねぇか。
「駆?」
自殺したのがそんなに駄目だったってのか?
死ぬのが悪いっていうなら、やつらを殺せばよかったのか?
殺すほうがもっと駄目だろ。それとも、この考え自体が間違っているのか?
なんでだよ。なんで、なんで……。
「ちょっと、ねぇ駆。大丈夫?」
額に手を当て俯いていると、睦月が俺の顔を見上げるように覗き込んでくる。
その大きな瞳には俺の顔が映っていたが、やっぱり前世の俺とは似ても似つかない顔だった。
やっぱり俺は、悪夢の続きを見ているんだろうか。間違いなく別の人間になっているのに、かつての恋人そっくりのやつがそこにいる。こんなのどう考えてもおかしいだろ。まぁこんなことを言ったら、そもそも前世の記憶を持っているほうがおかしいんだが。
「顔真っ青だよ。まだ具合悪かった? ごめんね、私駆が具合悪いことに気付けなくて……」
「なぁ、睦月。俺って、誰に見える?」
謝ってこようとする睦月の言葉を遮るように、俺は聞いた。
聞かずにはいられなかった。俺は幽霊で、この世にいるはずがないやつだと思いたかったのかもしれない。
「え、誰って……駆だけど。それがどうかしたの?」
睦月はそう答えるが、それは俺の望んでた答えではなかった。
駆なのは分かってる。前世も今も同じ名前だからだ。
だからそういうことを聞きたいわけではないのだが、じゃあどういう聞き方をすればいいのかが分からない。
「ごめん。変なことを聞いた。忘れてくれ」
「……? それはいいけど、本当に大丈夫? 学校のプリント持ってきたんだけど、この感じじゃやっぱり明日も無理だよね……?」
おずおずと聞いてくる睦月に、先ほどの元気はなかった。
見るからに落ち込んでいる彼女を見て、胸の奥がちくりと痛む。
(なに、やってんだ俺。睦月はアイツとは、違うだろ……)
似ているとはいっても、睦月は卯月とは別人だ。
苗字だって違う。そもそも時間だって流れているし、単なる他人の空似と考えたほうが自然だろう。うん、そうに決まってる。
「いや、大丈夫。明日は学校に行くよ」
自分に言い聞かせて俺は睦月にそう言った。
どのみち、学校には行かないといけない。逃げてばかりいても前世と同じことをまた繰り返すことになるだけだ。
「え、でも……」
「ほんと、大丈夫だから。さっきまで寝ててさ。インターフォンの音で慌てて起きたから、ちょっと貧血でふらついただけだよ」
それっぽい言い訳が咄嗟に出たのは、幸運だったと思う。
とりあえずこの場を誤魔化すことさえできればそれでいい。
「……そうなの?」
「ああ。ありがとな、睦月。プリント助かったよ」
笑顔もなんとか浮かべることが出来た。
……うん、よし。大丈夫。落ち着こう。俺は大丈夫だ。大丈夫だから。だから。
「え、いや、そんな、えへへ~」
だから早く、今は目の前からいなくなってくれ、睦月。
「なんか嬉しそうだな」
「いやーだってさ。やっぱり駆に久しぶりに会えて嬉しかったし! あと明日は学校に来てくれるって言ってくれたし、それに褒めてもらえたし……私としては、嬉しさしかないっていうかぁ」
その笑顔は、やっぱり卯月に似ているんだ。今はどうしても、お前を卯月に重ねてしまう。別人だと割り切る時間をくれ。お願いだから空気を読んでくれ。話を長引かせようとしないでくれ。切り上げてまた明日って、そう言って別れようぜ。なぁ。
「大げさなこと言うなよ。そもそもお前モテるじゃん。別に俺に気を遣わなくったって、お前ならいくらでも男が……」
「もー、またそんなこと言うー! それこそ前から言ってるじゃん! 駆は私の運命の人だって! 初めて会ったときから、私には駆だけだもん!」
さり気なく突き放そうとしたのに、逆に睦月が距離を詰めてくる。
コイツは本当に言い方が大げさだ。運命の人だなんて、そんなこと言われても――
――――あっ♡ ごめんね、駆♡ 私、もう先輩しか見えないの♡ 気付いちゃったの、この人が私の運命の人だって♡ 運命の出会いだったのぉ♡
不意に、脳裏に記憶が蘇る。
思い出したくもないクソみたいな記憶のフラッシュバックが俺を襲った。
♢♢♢
ちょっと話数伸びそうです。すみません。
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