おチヨコさん、どこいった?

マスケッター

第1話 失踪の報道と熱心なファン

 二○二五年六月二十四日付『太平洋新聞』、三面記事


 ※太平洋新聞は中国地方・四国地方で発刊されている地方紙。


 『去年十二月二十二日午前八時ごろ、高知県五億百町こうちけんごおもちょう内のアパートで、一階に居住するAさんが天井からの水漏れに気づき、当時直上に当たる部屋に住んでいたアルバイト、加納かのう 良子りょうこさん(当時二十歳)に苦情を入れた。


 加納さんからの返事はなく、水漏れが止まらなかったため、Aさんは翌日の朝九時ごろアパートの管理人に連絡した。


 管理人は加納さんに電話で連絡したがつながらず、警察の立会いの元、合鍵を使って加納さんの部屋に入った。


 室内は水浸しになっていたが、全ての水道は栓が閉められたままであり、加納さんの姿はなかった。


 警察は失踪事件として捜査に当たり、去年十二月二十九日付けで、室内を濡らしていた水は海水であるとの調査結果を発表した。


 また、居間にあったパソコンから、加納さんが去年十二月二十一日の午後八時から八時十五分ころまでインターネット通信をしていたこと、そのインターネット通信では『おチヨコ』という巫女姿のアバター(インターネット上で用いられる架空の分身)で、高知県南西部にある海岸を自作動画により紹介していたこともあわせて発表された。


 加納さんは、去年十二月二十一日の午後八時十五分ころから現在に至るまで行方がわかっておらず、安否が気づかわれている』


 二○二五年六月二十四日付ウェブ掲示板『チューニング・ゼロ』、『おチヨコ捜索板』


 ※一部抜粋


 利用者一


『あー……、やっぱり肝心なところはダメか』


 利用者二


『一応、高知県南西部ってわかっただけマシ』


 利用者三


『遠杉』


 利用者四


『ていうか五億百町ってどこ』


 利用者五


『クレクレすんな』


 利用者六


『海水ってどうよ』


 利用者三


『下の階まで漏れてて草』


 利用者一


『そのおかげでやっと手がかりできたし』


 利用者二


『Aさんってのが犯人?』


 利用者一


『それスリラー映画な』


 利用者三


『第一発見者を怪しめ』


 利用者五


『Aさん苦情しただけ』


 利用者二


『発情?』


 利用者五


『黙れカス』


 利用者六


『あの辺り、俺知り合いいるし』


 利用者六以外


『マ?』


 利用者六


『マ。聞いてみる』


 利用者六以外


『乙』


 二○二五年六月二十五日付ウェブ掲示板『チューニング・ゼロ』、『おチヨコ捜索板』


 ※一部抜粋、なお六月二十四日付と同じ利用者番号は同一IDを示す。


 利用者六


『最後の動画、手囃子岬てばやしみさき。潰れた漁村がある。でも祟りがあるって』


 利用者二


『嫌杉』


 利用者三


『俺たちまでとばっちりないよな?』


 利用者四


『お前いったの?』


 利用者六


『いけるわけねーし。現地の写真とか頼んだら断られた』


 利用者一


『だろうな』


 利用者六以外


『お知らせ乙』


 二○二五年六月二十六日付ウェブ掲示板『チューニング・ゼロ』、『おチヨコ捜索板』


 ※一部抜粋、なお六月二十四日付と同じ利用者番号は同一IDを示す。


 利用者六


 『やっぱり気になる。けど俺文無し。クラファンするからよろ』


 利用者一


 『やるならちょっとは出す』


 利用者二


 『>利用者一


 >やるならちょっとは出す


 エロ画像とか?』


 利用者五


 『>エロ画像とか?


 お前いい加減にしとけ』


 利用者四


 『出さないけど応援はする』


 利用者三


 『金も出さない奴がふんぞり返ってて草』


 利用者一


 『とりあえず口座とかよろ』


 利用者六


 『>利用者一


 >とりあえず口座とかよろ


 おけ』


 二○二五年八月二十二日付ウェブ掲示板『チューニング・ゼロ』、『おチヨコ捜索板』


 ※一部抜粋、なお六月二十四日付と同じ利用者番号は同一IDを示す。


 利用者六


 『行ってきた。クソ暑かった』


 利用者六以外


 『乙』


 利用者六


 『想像以上にヤバかった。あえて、小説って形で、投稿サイトのキケワメにレポート投げとく。リンク先はこっち↓』


 利用者六以外


 『乙』

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