琥珀雷夢

せなみ

琥珀雷夢

シュン


エチカ


管理人


……………………………………………



シュン「閲読。人口夢遊。3■■■年。

申請が一件あります。

電気処理された空間に揺らぎなし。

今日の天気は晴れ。

幸福度は最大値を維持。

御機嫌よう...」


エチカ「2999年。私たちは楽園を獲得したのです...」

シュン「それ、何年前の話?」

エチカ「さぁ」

シュン「きっと100年は前の話だよ」

エチカ「うーん、あっちの世界ってどうなんだろう」

シュン「まだ壊れてないといいけど」

エチカ「大丈夫」

シュン「そうかな」

エチカ「そうだよ」

シュン「寂しいねぇ...」


エチカ「私たちは少女になりました。

それが何年前からなのか、覚えていないのです。

記憶の物質化は常識の範囲内でなら許可されてます」


シュン「気温は快適。最適な空間。

好きな洋服を着て街へ出て遊んで。

そうじゃないなら学校指定の制服で。

永遠のバカンスへようこそ。

琥珀色の想い出を...」


管理人「あら」

エチカ「こんにちは先生」

シュン「どうも...」

管理人「ねぇ貴女、嫌なことでもあったの?」

シュン「別に」

管理人「此処で不足があるなら管理局に申請しなさいな。余程の事じゃないなら通してくれるわ」

シュン「はいはい」

エチカ「先生はどうして此方へ?」

管理人「ん、んーんー...」

シュン「...仕事で来ると大変ですね」

管理人「まさか、長い永いバカンスを楽しんでるの」

エチカ「その制服、似合ってますよ」

管理人「そう?」

エチカ「ええ勿論」

シュン「エチカ」

エチカ「あっ」

管理人「御免なさい。そろそろ下校時刻か。それじゃあ...またね」

シュン「さよなら」

エチカ「さようならー」


管理人「放課後」

シュン「私たちの時間」

エチカ「夕暮れが迎えに来る」


シュン「そのリボン...」

エチカ「あ、気づいてくれたんだ」

シュン「うん。可愛い」

エチカ「でしょー」


管理人「睡眠の基本は七時間睡眠。質のいい睡眠は、質のいい生活から。

私たち管理局は少女たちの健康を第一にしています」


シュン「魂も眠るなんて変なハナシ」

エチカ「でもまだ肉体があっちにあるから」

シュン「無くなっても寝るんでしょ」

エチカ「だって眠くなっちゃうもの」

シュン「夜更かししてみようよ」

エチカ「やだぁ」

シュン「優等生ってやつ?」

エチカ「先生に怒られるもの」

シュン「大丈夫だって。夢の中に生徒は何人いると思ってるのさ」

エチカ「鯨に食べられちゃう」

シュン「そんなのいたっけ」

エチカ「この前海で見たの。ぷかぷか浮いて、気持ちよさそうだったなぁ」


シュン「安楽死法案が可決された。

2999年のことだ。私はまだ生まれていなかった」

エチカ「死を選択する自由が与えられたのです。

酷く寒い夏の朝のことでした」


シュン「先生。記憶のリセットは出来ないの?」

管理人「うーん。今の技術だと難しいかな」

シュン「どうして」

管理人「思い出しちゃうの。人はね、本当に忘れることなんて出来やしないわ」

シュン「はぁ」

管理人「それと」

シュン「?」

管理人「彼女の肉体が死んだわ」

シュン「それっていつの話」

管理人「現実的に言えば、昨日かしら」

シュン「そうなんだ」

管理人「貴女は確か安楽死よね。そんなに生きるのが嫌だった?」

シュン「うん...どれだけ助けられたって、結局は自分の力で生きる手段を見つけなければならない。私には、それが出来なかっただけ。笑う?」

管理人「いいえ。そういう子は案外多いの。ただ彼女たちは苦しみながらでも生きてるわ。上手に隠してるだけで...」

シュン「幸福な世界なのに苦しいだなんて、私たちどうかしてる」

管理人「狂ってるって?」

シュン「イカれてる。それを正常だと疑わない人たちも皆壊れてる」

管理人「貴女も馬鹿になれたらよかったのに」

シュン「そしたら踊るよ。エチカと一緒に」

管理人「一緒に、ね」


エチカ「私たちは天国を信じてはいません。

電脳空間に再現された精神は夢でしかないのです。

それでも確かな希望なのです。

鮮やかな海。果てのない宇宙。食べ損ねた知恵の実。

幸せですか。ええ勿論。

バカンスは如何ですか。終わらない永遠の休日を」


シュン「泣いてるの?」

エチカ「死んじゃった。私死んじゃった」

シュン「エチカは此処にいるよ」

エチカ「そうだけど悲しいの」

シュン「私はずっと傍にいるから」

エチカ「うん...」

シュン「だから」

エチカ「シュンちゃん」

シュン「なに?」

エチカ「幽霊になっちゃった」

シュン「うん」

エチカ「だから美化倶楽部に入ろっかなって」

シュン「あそこは潔癖の喋り屋が多いからやめときなって」

エチカ「えー」

シュン「それよりも二人で、綺麗な場所に行こうよ」

エチカ「いいね。何処にしよっか」

シュン「先生に教えて貰おう。なんでも知ってるから、きっと素敵な場所に違いない」

エチカ「違いない、ね」

シュン「ね」

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琥珀雷夢 せなみ @senami0100

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