綺麗なもの

優午

人は死んだら星になるんだってね

 あなたは美しい。


 朝、窓から伸びる暖かい光に黒髪が照らされて、少し茶色を帯びている。

 フライパンに卵を一つ落として「この卵、双子ちゃんだね」と言って無邪気に笑う。

 僕は手を洗って、食器棚からお皿を出して、あなたの所へ運ぶ。

 野菜を洗ってまた板に置いて、包丁を取り出して切る。

 食卓に二人分、いつもの食事が並ぶ。


 昼、「お腹すいたね」と笑って冷蔵庫を開け、調味料が足りないからと買い出しに行った。僕は一人でお皿を出して、朝ごはんのときみたいに準備をする。

 あなたが帰ってきて、お昼を作って食べた。


 十五時、あなたは友人と出掛けるからと、少しお洒落して出かけて行った。

 僕は本が好きだから、自室にある本棚を眺めて、どれを読もうか考えていた。

 結局決まらなくて、本を取っては戻しを繰り返す。


 そういえば、人は死んだらお星様になるらしい。そんなわけないけれど、子供の頃、父の葬儀が終わった後に母から聞いたことだ。

 今思うと、良い例え方だと思った。だって大切な人が死んだら苦しいし悲しいし、お星様になって、僕達のことを見てくれていると思うと、どこか安心する。気持ちのはけ口が見つかったようで。

 それに、醜い僕らも、なんだかキラキラと着飾って貰えたみたいで嬉しく思う。キミもそう思わない?


 夕方、おかえり。って言おうとしたけれど、先に「ただいま」だってさ。

 

 両腕にたくさん買い物袋を下げて、あなたの腕が赤くなって跡がついていた。

 夕飯に必要な物もついでに買ってきてくれたらしい。

 空は水平線からインクを染み込ませたみたいに、落ち着く色で染まっていた。


 「他にも作るけど、目玉焼き 作っても良い?」って聞かれたから「うん」と答えた。

 あなたの作るものならなんでも良い、とはわざわざ言わなかった。

 朝と同じように手を洗って、僕は先にお皿を出した。

 あなたがコンロに火をつけて、フライパンに油を敷いている間に野菜を洗って、肉は後で切るからそのままにした。

 まな板を取り出して野菜を置いて、包丁を持って、少し考えてから、あなたを刺した。

 火を消して、一応ガス栓を閉めた。


 あなたは美しい。だからもっと沢山の男に言い寄られて欲しいし、傷ついて欲しい。それでも僕を選んでくれるのか知りたい。

 もっと美しく、優しいあなたを見てみたい。そう、ふと思った。


 赤黒いものが、歪な円を絵描きながら少しずつ広がっていくのを眺める。

 あなたの腕を握ってから離して、髪に触ってから立ち上がって窓を開ける。もう夜か。星が出ている。


「僕のこと、見ていてね」


 星が綺麗だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

綺麗なもの 優午 @Yougo428

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画