第15話 ざわざわ
「本当にご迷惑をおかけしていませんか?」
院長先生はお兄さんに尋ねる。
よほど心配だったらしく、これで何度目?
お兄さんは見上げるわたしの頭を撫でた。
「お話させていただきましたように、とても助かっていますよ。これからも手伝ってくれるとありがたいです」
「ありがとうございます」
院長先生は深々と頭を下げた。
しばらくわたしたちの手伝う姿を見てから、帰って行った。
「お兄さん、ありがとう」
ファン兄とエバ兄がお兄さんにお礼を言っている。
「本当に思っていることだからね。あ、明日はエバンスは見習いの仕事が入ってるんだよね?」
「はい!」
「そっか。気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
エバ兄は嬉しそうに笑ってる。
また領主の息子であるヒューさまの依頼らしいから、冒険者にきっと守ってもらえる。
「こんにちは」
ふんわりとスカートの裾を揺らして入ってきたのは、縫製店の人だ。
「こんにちは」
お兄さんが挨拶して、エバ兄たちも次々に挨拶した。
「ミルカちゃんもいたのね、よかった。試作品を持ってきたの。見てもらおうと思って」
ラフラさんは籠からいくつかのシュシュを取り出した。
ピンクの生地、黄色の生地、青の生地。青の生地のものには共布で作ってお花がところどころつけられていた。
「わー、すごい。ミルカのつけてるやつだね。色が違うと感じが違うね、可愛い」
ファン兄からいいコメントが飛び出した。
「どうでしょう?」
わたしは黒板を取り出して、白石で文字を書く。
ーー布をもう少し長く取ってもらいたいです
「長くかい?」
わたしは頷く。
「そうするとだぶついちゃうだろ?」
ーーそこがクシュっとなって可愛いんです
「クシュっとさせる、なるほどね! 持ってきてよかった。今度はそうしてみるよ」
ラフラさんは軽い足取りで帰って行った。
「本当にひと部屋片付いたな」
感慨深そうなお兄さん。
用途を教え、それを商品に添えておくようにしたら、驚くぐらい売れるようになったらしい。
うん、商品としてかなりいいものだと思うよ、なんてたって信頼の日本製!
品質はかなりいい。
お兄さんが粉洗剤、液体洗剤に驚いていた。すっごくよく落ちるし、香がいいってね。これは貴族に献上するそう。
今までガラクタ同然で売れなかったものが次々と売れ出した。
高価でないものを売りに出している。ここは普通の街。平民が多い。お金が有り余ってるひとはいないからね、見合うものを商品として並べている。
ダンジョンでものを取ってきた冒険者も、ここに商品を持ってくる。わたしがいれば鑑定したようにそれが何であるかを教えることができるので、適正価格で買い取ってもらえると思ったようだ。
他のダンジョン屋では武器とか見た目でそれが何かとわかるもの以外は買い取ってくれないし、鑑定してもらうにもお金がかかる。そこに持ち込むまで重いしとそんな理由が重なって、ダンジョン屋は今や栄えている。
お昼前から午後3時ごろまで屋台をやって、そのあと1時間ダンジョン屋を手伝うというのがわたしたちの日課だ。
「ミルカ、どうした?」
アドに顔を覗き込まれる。
ーーディック対策、考えないと
黒板を読んだお兄さんがどうかした?と首を傾げた。
それでわたしたちは話すことにした。
今日院長先生が来た原因。わたしたちが街で何かやっていると言いつけたのは、院にいる12歳のディック。彼は街で日雇いの仕事を受けていて、院に貢献している。
彼は気に食わないことがあると、下の子を使って、意地悪をしてくる。
わたしに突っかかってきたダーシ。農民に貰われて行った子がわたしは苦手だった。
でもそれは勘違いで、ディックが誰かを使ってわたしたち兄妹になんかさせようとしていたから、ダーシがそばにいてそれを追い払っていてくれたみたいなんだよね。
それに農家に最初に声をかけられたのも本当はエバ兄で、院長先生にもいい話だから行ったほうがいいし、断ったらこれからの院に悪い評判がと言われて悩んでいたら、ダーシが自分の夢があったのに、変わってくれたんだと。
お兄さんは腕を組んだまま何度も頷く。ダーシに感動してる。
そして、そのディックは少し引っかかるなと言った。
「人に嫌なことをしちゃう時は、心の中が不安定……ええと安定してない、気持ちが混乱しているんだ。うーん、ざわざわしてるでわかるかな?」
アドはぼーっとしていたけど、アド以外はうなずく。
お兄さんは苦笑いして続ける。
「心がざわざわした時に誰かが大丈夫だってぎゅっとしてあげないと、いつもざわざわして、それを紛らすために、攻撃をしてしまう人がいるんだ」
紛らすために攻撃……。
「魔物みたいに?」
ファン兄が尋ねる。
「そうだね、そういうこともあるし、頭を使って自分は悪いと思われないようにしながら、意地悪や嫌がらせをしたりする。
普段からそういうことをしているんじゃ、ざわざわが誰にも気づいてもらえなくて、そうなってしまったのかもしれない。
私の経験からいくと、そういう人は自分からは止まれないんだ」
そういう人は自分からは止まれない……、その言葉はなんだか心に残った。
いつも4人一緒にいること。ディックにはなるべく近づかないこと。
働いているとか手伝っているってことはあまり口にしないように言われた。
うなずいたけど、それはちょっと難しいかな、と思う。
わたしたちからいうことはないけど……エバ兄とファン兄はモテるんだよ。
エバ兄は兄妹をまとめて面倒みてる。特に口のきけない小さなわたしの世話をしているところを見ると、女の子たちはキュンとするらしい。
孤児院は親からの愛情をもらってない子の集まりだから、兄妹に愛のあるエバ兄が光って見えるんだと思う。
ファン兄は優しくてちょっと天然入っているところがツボみたい。
ディックがわたしたちが4人できたから食べるものが少なくなったんだと言っても、そこまで被害がなかったのはここの女子たちが兄たちを気に入ってるからだ。
それで、その女の子たちが、エバ兄たちと話がしたくて振ってくるんだよね、この頃。街で何をしているの?とか 働いてるの?とか。
そんなの聞いてたらざわざわ積もったディック、余計面白くないよね?
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