第11話 屋台
おおっ。
ダンジョン屋の前に日よけがはられ、長テーブルが外に出ていた。
少し後ろには目隠しスペースがあり、同じくテーブルと簡易コンロ、そして大きな鍋が用意されていた。
前のカウンターでオーダーを取り、会計を済ませてもらい、横で待っててもらう。
目隠しスペースで作って、器に入れて提供するようだ。
器とフォークは20皿分。お鍋はいっぺんに10人分は作れそうな大きなお鍋。
昨日わたしたちが作らせてもらった小鍋なら3人前はいけそうだ。そこら辺は来たお客さまの数で臨機応変にやっていけばいいね。
最初はお試しでひとつ200ギルで売ってみることにした。
この街の食堂は一皿500ギルからで定食となると750ギル、お高いところになると1000ギルを超えるという。
ライアンお兄さんの顔見知りがその「ラーメン」とはなんだ?と尋ねていく。
あったかい麺というものが入ってるんだってお兄さんは説明したけれど、みんな不信顔で、へーと通り過ぎて行った。
試食で配ればよかったかなと思ったけど後の祭りだ。
あ、と思って、小鍋にひとつだけスープを煮立たせてもらった。
匂いで人が寄ってくる。
同じ質問に同じようにお兄さんは答え、今度は意を決したように一人の勇者が200ギルを払った。
ラーメン初お買い上げだ。
わたしはエバ兄に新しく小鍋で湯を沸かしてもらって、袋麺一個を入れる。麺が解けてきたら、匂い寄せのために作ったスープの中に入れるよう頼んだ。
そこまで混むことはないだろうけど、混んだ時はこのやり方がいいかなと思った。
器を持ってフォークで器用にラーメンを食べると「うまい」と言葉が漏れる。
すると、どっから現れたんだっていうぐらい人が押し寄せてきた。
注文取りと会計をフォン兄に任せ、エバ兄がラーメンを作り、お兄さんがラーメンを運ぶ。
運ばれてきたラーメンを、みんなその場ですごい勢いで食べる。最初にスープを飲み、味に驚く人。ラーメンをフォークで掬い上げて、なんじゃこの長いのは?と麺を不思議そうに見る人もいるけれど。食べ出せばすぐにラーメンの虜になった。
仕事の早上がりの人たちと時間帯があったようで、いっぱいの人が食べてくれた。
わたしとアドは空のお皿とフォークを下げ、洗うのが仕事だ。
器をもらうときに、みんなわたしたちの頭を大きな手でわしゃわしゃと撫でてくれた。
夕方前に早仕舞いに。わたしたちは院まで帰るから。暗くなる前に出ないとだからね。
なんとこの日70食も売れた!
昨日のおじさんみたいに、嵩張るし距離を持って歩くのもどうかという感じで置いていかれたもの。だから元手はただ。水も井戸から汲んできたものだから、調理した光熱費と、最初投資になった器とフォークを揃えたときにお金が掛かっただけだそうだ。
最初の日の売り上げは14000。本来なら、調理に必要な水と光熱費、器を洗った洗剤、そういうのを引くべきだけどそれもしないで、さらにお兄さんは気前よく14000ギルの3割、4200ギルをわたしたちにくれた。
4200ギルなんて大金だ! エバ兄は冒険者カードにそのお金を入れに行った。
「ミルカはビジネスパートナーとなって商売を始めたかったんだよね? まだ5歳なのに? お金はどうして欲しいと思ったの?」
わたしは黒板に理由を書いた。
エバ兄があと4年で院から出ること。その時にわたしたち3人も一緒に出ようと思っていること。4人で暮らしていくためにお金が必要なんだと。
お兄さんは小さく「そっか」と頷いた。
わたしはその間に、お兄さんにハサミを持っているかを尋ねた。
なんに使うのか聞かれたので、括るのが面倒だから切りたいと黒板に書く。
お兄さんは笑いを噛み殺している。
「せっかくきれいな髪なんだから伸ばしたらどうだい?」
んーとわたしが悩んでいると、お兄さんは思いついたというように笑う。
「それなら、髪飾りをあげよう」
髪飾り?
「ああ、多分髪飾りだと思うんだ。ここら辺から選んでいいよ」
お兄さんは異世界雑貨を入れ込んだ引き出しを教えてくれた。
中にあったのはクリスマスツリーに飾るオーナメントがほとんどだった。
小さめなしめ縄もあって。これで髪を結ぶ人がいると思ったのかな?と疑問に思う。キーホルダーやよくわからないアイテムもあった。あ、これトイカプセルだ。
これ、髪につけるの? どんだけ盛ることになるんだろう?
あ、ゴム。輪ゴムから、髪用のゴム、服のゴムなど。これ。欲しい。
紐で縛るんじゃない、ゴムの下着が欲しい!
これはいいね。
あ、シュシュ! これなら髪を結びやすい。
薄い草色のシュシュだ。お兄さんのところへ行って、これをもらっていいかを尋ねる。お兄さんは「ミルカのアイデアで儲けたから、あげるよ」と気前よくくれた。
ありがとうとお兄さんに抱きつく。
兄ちゃんたちに報告だ。
兄ちゃんたちはお兄さんにまずお礼を言った。
「けど、それをどうするの?」
わたしは括り紐を解いた。そして、頭の上の方で髪をひとつにまとめ、シュシュを髪に通しひねってお団子にする。飛び出た髪は一緒にシュシュにまとめいれる。
これならわたしでも結べる。最初から輪になっていれば。
「すごーい、すごいよミルカ。可愛いし」
「そっか手は二つだから紐を結ぶのは難しいけど、最初から輪になっていればミルカひとりでもできるんだね」
みんなできるのがすごいというのと出来上がりも可愛いと褒めてくれた。
わたしたちは簡単に後片付けをして、明日も来ると、院に帰った。
エバ兄の見習いの仕事は不定期だ。見習いは許されているのが日帰りまでだ。
日帰りで、アイテムボックスを必要とする冒険者はこのダンジョンには少数なようだ。今はお兄さんの手伝いという仕事があるから大助かりだ。
エバ兄がいない方が辛いかもしれない。
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