第2話 情報過多

 目まぐるしく過去の映像が頭の中に流れきて、わたしはそれらを思い出した。

 情報過多だ。一気に気持ち悪くなる。

「ミルカ、ミルカ、どうした?」

 肩を持って揺すられている。

 今、揺すらないで、気持ち悪い、吐いちゃう!

「っやぁっ!」

 反射的に叫び声を上げて、わたしの周りが固まる。

 目を大きくしたのは、わたしと手を繋いでいた一番上のお兄ちゃん、エバンス・10歳だ。

 その目を見て、わたしも驚く。

 わたし、〝やっ〟って言った?

 声が出た? 嘘、わたしは生まれつき声が出ないはず。

「ミ、ミルカ……お前……」

 2番目のお兄ちゃんであるファン8歳も、手を繋いでいるわたしの双子の兄ということになっているアドを引きずるようにして駆け寄ってくる。

「ミルカ、声を出してみて」

 今話したら吐く……。頭の中にまた多量の情報が流れてきたからか、最高潮に気持ち悪い。

「大丈夫か?」

 エバ兄が屈んでわたしの目を覗き込む。


 わたしへの配慮はなしに、どんどこ映像は流れてくる。

 次は今世の記憶。

 生まれた時からの映像が見えてくる。わたしが記憶したものだろう。

 そうだ、そうだった。

 周りがよく見えなくて。居心地の良かったところから、絶えず刺激を受けるそこが怖くて、わたしはイヤだと泣き叫んだ。ひとつも音にはならなかったけど。

 泣きなさいと逆さにされ何度もお尻を叩かれて、それも怖かった。声の出ない子だとわかると、いらないから捨ててこいとそこの権力者は言った。恐らく実の父親。

 わたしはわたしのお尻を叩いた人によって布に包まれ、籠のようなものに入れられた。そして長い間揺られ、果てしなく寒いどこかに置かれた。寒くて寒くてひもじくて悲しくて、泣くに泣いたけど、ひとつも音にはならなかった。

 いつの間にか泣くこともできなくなっていたその時に、温かい腕に抱き込まれた。「腹が減ってるのか? 母ちゃんに乳をもらってやるから、もう大丈夫だ」と拾ってもらった。

 それが半年ほど前に亡くなった父だ。

 父には3人の息子がいて、3人目のアドが生まれたばかりだった。母さんもお腹を空かせていたわたしに躊躇いなくお乳をくれた。そうしてわたしはアドと双子ということにして、父さんの家の娘になった。

 その1年後に母さんが亡くなり、つい半年前に父さんも亡くなった。

 他に身内や親戚がいなかったので、4兄妹で孤児院に入ることになった。

 どこもカツカツで経営しているので4人一緒はいい顔をされない。 

 けれど声の出ないわたしの世話をするという条件で、やっと4人一緒に引き取ってくれる孤児院があった。それがハミルトンの孤児院だ。

 映像がやっと現在まで追いついて、わたしは息をつく。

 危なかった。またヤバい親の子供だったんだ。

 見習い神をやっているとき、時々〝下界〟の生活を見にいく授業があった。子どもより自分を大切にする親は意外なほど多く、子供に暴力をふるったり、わざと食事を与えなかったり、いないように振る舞ったり、そういうのをまとめて〝虐待〟というそうで、ものすごくいろんなタイプのものがあった。

 拾ってもらえたから言えることでもあるけれど、虐待親はもう勘弁なので、捨ててもらえて助かった。



「見習い荷物持ちか? どうした? ん、何だその小さな子たちは」

 よく通るいい声だ。

 エバ兄が立ち上がる。

「弟と妹です。……院においておけないので、ここの1階に居させるつもりで連れてきました」

 このダンジョンの1階は魔物が出ないので、子供でも入ることができた。

「日帰りの予定だが、何かがあって長引くこともある。その場合、どうするんだ?」

 再びいい声。

「ヒューさま、その時は弟に下のを連れて院に帰るように言ってあります」

 エバ兄が答えた。

 一番派手な装備の人が、エバ兄の今日の雇い主になる領主の嫡男、ヒューさまか。薄目を開けて確認。

「……どうした? その一番小さい子は具合が悪そうだが?」

「……はい、急に……」

「それじゃあ、荷物持ち、今日はやめるか?」

「……いえ、妹は弟に任せます」

 エバ兄はキッパリと言った。

 エバ兄はアイテムボックス保有者だ。とても貴重なスキル。世の中にはマジックバッグというものもあるが、それはとても高価。アイテムボックスもマジックバッグも異空間に収納できるスペースのあるものを指す。

 10歳になったので、賃金をもらって働くことができるし、ダンジョン内で活動もできる。戦うことが難しくても、エバ兄にはアイテムボックスがあるので荷物持ちとして、ダンジョンに一緒に入ることを前から望まれていた。

「ミルカ、大丈夫か?」

 尋ねられて、わたしは頭をあまり動かさないようにしてうなずいた。

「行けます」

 エバ兄はフォン兄にわたしの手を預けた。

「エバ兄、気をつけて」

 ファン兄がエバ兄に声をかける。

「大丈夫だ、2階までしか行かないし、大切な荷物持ちだ、俺たちが守るから」

 ヒューさまと一緒に入る冒険者だろう。ニカっと白い歯を見せて笑いかけてくれた。

 エバ兄を連れて、ダンジョンの奥に入っていった。

 ダンジョンといっても1階に魔物は出ない。花がきれいに咲き誇るので、街の人や子供も気軽に入っている。といってもわたしはここに来るの初めてなんだけど。

 広いので奥にいかなければ格好の遊び場だね。こんなことろならもっと早く連れてきて欲しかったよ。

 ファン兄はわたしとアドの手を引き、少し奥まで入って、ここでエバ兄を待とうと言った。

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