孤児院のお姫さま〜堕天幼女は孤児院を立て直す〜

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前世と今世

第1話 記憶はファンファーレとともに

 パンパカパーン! パンパンパン パンパカパーン!

 シンプルなファンファーレの効果音が頭の中に響いた。

 え?


 外核保有者確認

 外核来訪記念30000ポイント進呈

 スキル開放

 ロングミッションクリア

 特別報酬、身体……


 機械的な声の、長い長いアナウンスが流れていく。

 何これ?

 ふと顔をあげれば、アーチの岩の門に刻まれた今の今まで読めなかった、外国の文字だと思っていたものが読めた。

〝異世界ダンジョン〟

 何だそりゃ。と思いながら同時に理解する。

 何って、わたしが課題で作ったやつじゃん。


 と思った瞬間、頭の中に強烈な声が響く。

「リリア、お前を下界に追放する。下界の魂の輪廻にのるがいい。神界に帰りたいのなら、百の魂を救って見せよ。さすれば今一度、機会をやろう」

 追放? 消滅じゃなくて?

 ……神さまってやっぱりあまい。と、あの時わたしはそう思った。そして焦る。


 やば。創造神さまの目の横に怒りマークが出そうだ。

 創造神さまには言わなくても考えたこと全部がお見通しなんだっけ。

 ……それなのに、豊穣神見習いのフロンティアの言葉は信じたの? 同じ見習いでもフロンティアの頭の中は見えなかったの? 別にいいけど。

 天界のことを思い出したのはそこまで……。


 エバ兄が10歳になり、初仕事のためわたしたち兄妹もこのダンジョンについてきた。エバ兄がいないと、孤児院でわたしがからかわれる対象になってしまうからだ。

 それでこのダンジョンに入ったら、ファンファーレが聞こえて、いろいろ思い出したってわけ。


 元々わたしは日本という国で暮らす子供だった。

 わたしの親は、子供より自分のことを大事にする人たち。父親は結婚した後も恋愛に忙しく、母親は外ズラだけよく、女好きの父と、足かせになるわたしを憎んでいた。そんな中育っていき、わたしは乱暴者で意地悪で、嘘つきで汚くて自分のことしか考えていないと、わたし以外の人から評価された。だから親にまで嫌われるのだと。

 9歳の時だったと思う、わたしは家をでた。

 叩かれても痛いし、反抗すれば水に顔を長い間つけさせられる。泣いて声をあげても同じだ。学校があるときは給食を食べられるから、お仕置きで食べ物をもらえなくてもなんとかなるけど、その頃、傷やアザになっても見えないところを、より強く叩かれたり蹴られたりするようになってきて、せっかくの給食が気持ち悪くて食べられなかったり、口に入れると吐きそうになることがあった。

 家でも学校でもどこでもわたしは嫌われているし、もっと痛いことがあるのが嫌でわたしは家を飛び出した。

 母親のお財布からくすねてきたお金で、遠足で行ったことのある大きな公園を目指し、そこで暮らそうと思った。

 夜、公園の中で眠るのは怖いけど、母親から違う家に帰る父親に向けて散々悪態をついたあと、殴られたり蹴られたりするよりはマシだった。

 わたしは快適だったけど、小さな子が汚れた格好で公園にいれば目についたようで、善意の大人たちがわたしを捕まえようとした。それから逃げる途中でわたしは事故に遭い、命を落とした。

 その事故でわたしが息を引き取ったのは想定外のことだったらしい。

 本当は蹴られたときにできた、お腹の中の傷の悪化でもう少し後に死ぬはずだった。けれどそれよりちょっと前に突発的に亡くなったんだって。

「死記帳」と違う死に方をすると、天界のエライ人は調べなくちゃいけないらしい。

 それで死んで魂となったわたしは天界のエライ人に「今までの世界に戻ることはできないけれど、異界で暮らすか?」って聞かれた。後日、そのエライ人は魂の次の行き先を決めるエデン神さまって知った。

 わたしは痛かったり、ひもじかったり。あの子いいな、だから意地悪しちゃえって思ったり。だから嫌われるんだって言われたり。それを繰り返すのはもう嫌だなって思った。だから〝終わり〟にするのがいいと思った。きっとこれからだって同じことが繰り返されるような気がしたから。

 だからわたしは「もういい」と告げた。

 エライ人は緑って色がついているのに透明度の高い瞳で、わたしを長いこと見ていた。

 魂が生まれ変わるのは、徳の積まれ方でみんな違うけど、人だとだいたい300年ぐらいかかるんだって。

 それならそれまでの間、神さまの見習いとして天界で過ごすのはどうだと言われた。そのときに「消滅」するかどうかを決めればいいと。

 神さまか、それも面倒だと思ったけど、また生き直すよりましかと思ってうなずいた。

 最初は目新しくて楽しかったけれど、やることがすごく多くて嫌になってしまった。見習い女神たちもなんだかんだうるさいし。

 お腹は空かないのでひもじい思いをしないのはよかったけど、〝何か〟が気に入らなくて、わたしは自由勝手に過ごした。いたずらしたり、嘘をついたり、からかったり、やりたい放題だったから嫌われていった。そこは当たり前だけど。

 そのうち豊穣神つきの見習い、フロンティアとバトルようになって、とうとう神さまたちの堪忍袋の緒が切れて、下界への追放となった。

 きっと300年以上眠ったような状態で、転生できるようになったところで、下界へと転生を果たしたんだろう。普通ならそんな記憶は思い出さないまま、もし魂を100個救うことができたら、いつか天界へと帰ることができたのかもしれない。

 ま、わたしは天界に未練はないし、だから魂を救うつもりはこれっぽっちもないから、なんだっていいけど。

 ただ、わたしによくしてくれた今世の家族たちは、幸せになってほしい。わたし、〝ミルカ〟のことをいつも一番に考えてくれて、一緒にいてくれた人たちだから。

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