雪や来む籠む【カクヨムコン10 短編創作フェス②「雪」】

結音(Yuine)

来るか、来ないか。

 こたつの上には、みかんがあった。

 かごの中に、積まれたみかん。


 妙子たえこは、首まで潜っていた体を起こして、机の上のみかんに手を伸ばした。

 つけっぱなしのテレビからは、気象情報が流れている。


「明日、雪降るってよ」


 居間のこたつから、台所にいる母に向かって声をかける。


「あら、そう」


 洗い物をする手を止めることなく、母は何でもないことのように返事を返す。


「ねぇ……」

 妙子の独り言のような話が始まる。


「雪といえばさぁ、わたしが昔に会った女の子、元気かなぁ」


 台所からは、返事がない。

 流しの水が、妙子の声をかき消しているようだ。皿に付いた泡が次々と落とされていく。水切りかごには、茶わんや湯飲みが次々ときれいになってあげられた。


「ばぁば、明日、雪遊びできるかなぁ?」

 美夜子みやこの声に、妙子たえこは、ふと みかんの皮を剥く手を止めた。








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