魔王は常に座して勝つ

   

第1話

「レイン様!大丈夫ですか!?」


その声で俺はふと目が覚めた。僕は何故か目覚めた時にはどこか外にいて、身体が倒れたまま泥だらけになっていた。どこかで転んでそのまま泥にダイブしたような形なのだろうか。


汚いし、感触が気持ち悪い。とりあえず、立ちあがろうと思って腕に力を入れたが、何故か足には全く力が入らなかった。まるで足というものが無くなってしまったかのように感覚が全くない。どういうことだ?と戸惑っていたらすぐに近くにいたメイド服を着た少女が救出してくれた。





「レイン様、お怪我はありませんか?」


起き上がって服を着替えた後、少女は俺の体全体を心配そうに見つめて言った。部屋にある姿見には一人の少年が映っていた。白髪の少し気弱そうな少年だ。もしかして、これが今の俺なのか?そして足が全く動かないのは何故なのか?


「えっと……すみません。さっきから足が………あ。」


その時、ふと頭の中に誰かの記憶のようなものを最初から存在していたかのように自然と思い出した。それは、一人の悲劇的な過去を持つ少年の話だった。


「レイン様?」


メイド服を着た少女、ユイが僕を不思議に思っていそうな表情で覗いてきた。彼女は元から前の俺、レインの侍女だったらしい。足が動かなくなったレインをいつも助けてくれた人物だ。


「なんでもない。でも、ちょっと考えたいことがあるから少し一人にさせてくれない?」


僕はまず記憶を整理したくてユイにそう言うと、彼女は少し悲しそうな顔をして「何かあったらいつでも呼んでください。」と言って部屋から出て行った。自分勝手なことを言っても嫌な顔をせず、俺のことを気にかけてくれるなんていかにも優しそうな少女である。


「さて、それじゃあレイン少年の知識を整理しよう。」


ユイが出て行ったことを確認して俺は小さく呟いた。今の俺は車椅子に座らされている状態だった。窓を見ると広い庭が見える他に、レトロな雰囲気を漂わせる街が広がっていた。ビルや自動車はありそうな気配がない。


それどころか、自分の車椅子を見てみるが、タイヤ部分は骨組みのような場所は鉄で、表面はゴムではなく木でできていた。これ壊れそうで怖いんだが……


それはともかくレイン君の過去である。彼は、昔家族で遊びに行った時に邪龍という神話級の怪物に襲われてしまったらしい。この世界は魔法や魔物が存在するファンタジー世界なのだが、その邪龍から発生する瘴気が魔物を発生させている原因らしい。


つまり、ゲームとかで出てくる魔王のような役割がこの世界では邪龍となっているのだろう。そして邪龍に襲われたレイン君はその場に一緒にいた母親を失い、自身も足を動けなくされたということだ。レイン君は前から剣を習っていたらしい。それもその実力は申し分ないほど。


だから、母親を失い足も動かなくなり得意の剣もできなくなったという悲劇のフルコンボである。レイン君はそれから何もすることなくユイなどのメイドに車椅子を押されながら生きてきたのだろう。それにレイン君は貴族だ。レイン君を見下す者が出てきたり、これから婚約者などもできるかもしれないのに、不幸な事である。


と、普通なら他人事として捉えていたところだが、今は俺自身がレイン君となってしまった。だから、これからレイン君としてどうするのかを俺が決めないといけないのだ。この動かない足ではレイン君ができる剣を見ることもできないし、多分やったら怪我をする。


それに、一人ではそこまで動くことができないのがネックだ。タイヤを動かす事はできそうだが、重くてあまり進みそうにない。誰かが押してくれたら別なのだが、残りの人生、ずっと人に助けてもらうのもなぁ。


「この世界に魔法があるなら、この車椅子を動かす魔法とかないのかな。」


それはふと浮かんだ純粋な疑問だった。何か力を加える魔法でいい。風を起こして椅子を押す?それとも他の魔術を活用して何か後ろから力を加える?最悪、自分自身を浮かしたって移動ができればいい。


「これは、なかなか面白くなってきた……」


俺は八方塞がりだと思われた状況で『魔法』というものに可能性を見出して考えに耽る。どんな魔法があるのか、何ができるのかがレイン君の知識では足りない。片っ端から学ばなくては。そう思った瞬間、部屋のドアからノックの音が聞こえた。


「あの、レイン様。そろそろお夕食の時間です……」


ノックが止んだ後にユイが部屋に入ってから、さっき一人にしてくれと言ったせいか少し気まずそうに言った。今の独り言はなるべく声を小さくしたので聞こえていなかっただろう。


「ああ、分かった。じゃあ、ごめんだけど車椅子を押すの頼んで良いかな?」


そう言うと、ユイは少し驚いたような顔をした。レイン君の記憶では彼は足が動かなくなってから全く喋らなくなってしまったので今俺が普通に言った言葉もそんなに珍しかったのだろうか。


ユイは、「はいもちろんです!」と元気そうに喋ると、すぐに俺の後ろにまわって車椅子を押してくれた。夕食を食べた後に、魔法の書物か何かが無かったか調べてみよう。俺はふと車椅子を押す少女を見た。彼女は機嫌良さそうに車椅子を押しながら歩いている。この少女に俺はこの先も迷惑をかける事だろう。少年の分も含めてお礼を言おう。


「いつもありがとう、ユイ。大変だと思うけど、多分これからもユイのお世話にはなるだろうけど、頼んでも良いかな?」


ユイはその言葉を聞くと少し泣きそうな顔をした後に、花が咲くような笑顔になって、


「もちろんです!だって私はレイン様の侍女ですから。」


僅かに震えた声で自信満々に答えた。














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