第2話 復活と出会い

 メデューサに石化されてからどれくらい経ったのだろうか。石化は完全に意識がなくなるわけではなく、起きているようで寝ているようでもある不思議な感覚だった。暗い中で長い孤独を味わい続けた。


 そんな俺がついに光を取り戻すときが来た。暗闇から引きずり出されて、光の方へ引き寄せられる感覚がある。


 俺は「うう…」と情けない声を出した。


 「きゃあっ!」


 突然の眩しさで意識が急稼働を始める。俺は自分の置かれている状況を理解しようとする。


 眩しさを我慢して目を開くと、俺は以前メデューサと戦った荒れ地ではなく、綺麗な芝生の上に倒れ伏していた。周囲には木が生えていて、肌を撫でるほどよく冷たい風が心地よい。こんな感覚は久しぶりだ。俺は石化が解けたのを自覚する。


 ん?「きゃあ」?


 そういえばさっき何か聞こえたな。しっかりと聴覚も戻っているようだ。


 俺はふらつきながら上体を起こす。すると目の前には女の子が尻もちをついて、脅えたようにこちらを見ていた。俺が石から戻る瞬間を見ていたのだろうから、脅えるのも無理はない。


 水色のツインテールをした、気弱そうな女の子だ。歳は16歳の俺と同じくらいだろうか。白い服と青いスカートは何かの制服の様で、横には杖らしき棒が落ちている。魔法使いだろうか。


 ともかく何か声をかけないと。俺は喋り方を思い出しながら、女の子に声を掛ける。


 「えーと、あの。初めまして…」


 「喋った!このっ!子供たちには手を出させませんよ!」


 「え?」


 次の瞬間、女の子が涙で目をにじませながら、杖を振り回しながら突っ込んできた。そして俺は頭に強い衝撃を受けると、また暗闇に戻っていった。

 

 次に目が覚めると、目の前に見知らぬ天井があった。どうやら俺は今はベッドの上で寝ているらしい。さっきのは夢だったのだろうか。


 「おや、目覚めたようですね」


 ゆっくりと首を倒すと、そこには茶髪で白衣の女性がいた。これもまた夢だろうか。


 俺はた頭を殴られるかもしれないと思い、慌ててさっと先ほど殴られた箇所を両手でガードする。


 「あらあら脅えちゃって可哀そうに。グラスちゃん!彼が起きましたよ」


 「あっ、今行きます!」


 眼鏡の女性は俺を憐れんだ後に誰かを呼んだ。すると俺が横たわるベッドの横にある白い衝立の向こう側から先ほどの女の子がひょこッと顔を出した。


 「君はさっきの…」


 俺はベッドから上体だけ起こしてその女の子に話しかける。


 「ほら、グラスちゃん」


 「あっ、はい。えっと、さ、先ほどは突然殴ってしまい申し訳ございませんでした!」


 女の子は深々と頭を下げて謝罪をしてきた。先ほど俺を殴ったことに対するものだろうが、そもそもここはどこで彼女たちは何者なのか。まだ分からないことだらけだ。


 「えっと。状況を説明してもらってもいいですか」


 俺は状況説明を求めた。


 「まずここはサンライト魔法学園、その保健室です。私はそこで回復魔法の教師をしているパランといいます。そしてこちらが生徒のグラス」


 「グ、グラスといいます。えっと、何から説明すればいいんでしょう。私は回復系の魔法が得意で、いつもこの学園に併設された、私が育った孤児院のお庭で魔法の練習をしてたんです。それで浄化魔法の練習で石像を練習台にしていたら、その、石像が急に人になって…」


 「それが僕だったというわけですか」


 グラスさんは戸惑いながらも頑張って状況を説明してくれた。


 「それで君を殴って冷静になったグラスちゃんは、慌てて君をこの保健室まで運んできたわけです」


 「さっきは石像型のモンスターの亜種だと思って殴っちゃったんです。すみませんでした」


 「まあ石像が人になったらビックリしますよね。仕方ないと思います」


 俺も石像が動いたらガーゴイルだと判断して、とっさに攻撃していただろう。グラスさんの気持ちはよくわかる。なので俺を殴ったことは気にしないでもらいたい。


 それにしても、この時代には魔法学園なんてものがあるのか。一体俺が石化されてからどれくらいの月日が経ったのだろう。俺はその魔法学園の保健室のベッドで寝ていたようだ。


 俺も自己紹介をしよう。神獣と呼ばれる人類の敵を倒していた英雄の賢者ザイーフとして語り継がれているはずだ。そして俺の名前を聞いた二人は驚き震え、俺に握手とサインを求めてくるはずだ。


 「僕はザイーフといいます。どこかで聞き覚えがあるでしょうが、実はその本人です。メデューサとの戦いでずっと石化されていました」


 「ザイーフさん…ですか。勉強不足なもので、その名前は聞いたことがありませんね」


 「は、はい…私も不勉強で」


 「あっ、そうですか」


 残念。俺の名は語り継がれなかったようだ。俺の石化から時が経ちすぎてしまったのだろうか。


 「しかしメデューサの石化の呪いというのは聞いたことがありますね。御伽噺でですが」


 パラン先生が補足した。どうやら俺のいた時代が御伽噺になるほどに時間が経過しているようだ。


 「御伽噺ですか。でもすごいですね。そんな石化の呪いを解いてしまうなんて。僕でも解除できなかったのに」


 「いやそんな…子供の時から10年間ほぼ毎日やっていましたから。その石像で浄化魔法の練習をするの」


 「10年も!?」


 なるほど。メデューサの強力な呪いが解けた理由が分かった。長い年月を経て弱まったとしても、そう簡単に解除できる術ではないと思っていたが、これなら納得だ。彼女のおかげで俺は助かったのだ。


 「そうですか。どうやらあなたのおかげで僕は石化から解放されることができたみたいですね。本当にありがとうございます」


 「私のおかげですか!えっと、どういたしまして?」


 俺はベッドに座ったままグラスさんに礼を言う。グラスさんは戸惑ってしまっている様子だ。では石化も解けたことだし、この時代のこととか調べるとするかな。神獣がどうなったのか気になるし、この時代で俺はどうやって生きていくのか考えないといけないし。


 「それじゃあいろいろとありがとうございました。それでは…」


 ジャラッ


 「あれ?」


 ベッドから出ようとしたら足に何か抵抗を感じて、動きを阻害されてしまった。布団をめくると、俺の両足には足かせがはめられていた。


 「えっと、これはー…」


 「危険人物かもしれませんからね。もうすぐ町に常駐する軍の人たちが来ますから、それまでお待ちください」


 「マジすか…」


 俺はまだ自由になれてなかったらしい。

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