2,蓮華、新学年。クラスの割り振り


「おーっ、蓮華おはよっ。クラスの割り振り見てきた~?」


校門の中に入ると、周囲がザワザワしていた。

始業式の日の朝、まずは自分のクラスがどこになったのかを確認するところから始まる。

ここ私立青葉学園では、配属先のクラスはエントランス中央に設置された大きなボードに張り出される。

別に、前日にメールで教えてくれても良さそうなものだけれど、伝統校だから古いやり方を踏襲しているらしい。


「うん。まだ見てないんだ」


これ、実は結構ドキドキのイベントだったりする。

だって、去年まで一緒で仲の良かった人ともクラスが違えば疎遠になるし、逆に同じクラスになれば知らない人とも仲良くなれる。

新しい日常の幕開けだもん。


トクン、トクン。


私は胸の高鳴りをそのままに振り返る。

そこには浅黒く日焼けしたショートヘアの女生徒が立っていた。

小学校、中学校と同じ教室で過ごした梶原さん。

昔はおかっぱ頭だったけれど、今は前髪をシャギーに切りそろえたお洒落カットにしている。


「あ、そうなの。まいいや。あんた4組だったよ。代わりに私が見といてやりました」

「ありがと」

「てかさ~アンタやっぱ腹立つ。なんかやっぱ私の敵」

「なんで?」

「だってカッコいい人も普通の子達もみ~んな4組の欄をじぃ~っと見てんの。しかも女子の欄。アホかっちゅうの。もう」


梶原さんは呆れた表情で笑っている。

ま、いつものことだ。


「アッハハァ~、変なの~」

私は乾いた笑いで彼女の言葉を受け流す。

一瞬、彼女の眉がピクリと動いたけれど、私は気にしなかった。


ポン。

「それじゃね~」

彼女の肩を叩くと、エントランス中央へ向かう。


スゥ。

「う~ん……っと」

私はひとつ伸びをする。

油断してると、次々声がかかってくる。

だから、伸びをして寄り付く皆を追い払ってるの。


クラス割り振りの掲示板。

少しだけ、一人になりたい。

大勢が集まる場所だけど。


私が4組に配属されたことは、先ほど聞いたから知っている。

確認したいことはそこじゃない。

そこじゃないんだ。



「お! 那由多……じゃない、琴野」


それでも声をかけてくる生徒はいる。

主に男子。


彼は須藤君。

小中学生の頃からの馴染みの人ね。

野球部で丸坊主にしている。

短い頭髪がツンツンしていてイガグリみたいだけど、彼の雰囲気にはまぁ合ってる。

ザ、野球部って感じ。



「これから1年間よろしくなぁ~」

スィ~。

須藤君が握り締めたこぶしを突き出してきた。

こぶしの隙間から、親指がクイと覗く。

それをウニウニ動かしている。


ウニウニ……ウニウニ……。


まったくこの人は……。

冗談なのかもしれないけれど、女の子にそんなモノ突き出しちゃダメだぞ。


「うん。よろしく~」

私はにっこり微笑みながら、左こぶしを軽く握ると、須藤君の突き出した拳にコツンとぶつけた。

親指の件には敢えて触れない。

なんかムカつくから。


☆-----☆-----☆-----☆-----


「蓮華のステータス」

1,命の残り時間    :キッカリ1年と3か月間

2,主人公へ向けた想い :トラウマ・レベル

3,希望        :★☆☆☆☆

4,絶望感       :★★★☆☆

5,男子への気持ち   :うぜぇ


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