アンデルセン童話を読もう!
西織
はじめに
※まえがきに興味がない方は、次の章から読んでいただいて構いません。
このコラムは、元々同人誌として制作したものを下地に、カクヨム用に改変して投稿しています。同人誌は、2025年1月の文学フリマ京都から頒布を始めます。文学フリマは東京と関西には可能な限り出たいと思うので、興味のある方はぜひそちらにもお越しください。
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人魚姫、マッチ売りの少女、裸の王様――これらのタイトルを全く聞いたことがない人はそういないでしょう。
これらの物語は、ある一人の作家から生まれ、二百年以上経った現代でも子どもたちに親しまれ、様々な形で翻訳・翻案されて語り継がれています。
アンデルセン童話ってなんだっけ? という人でも、一度タイトルを挙げていけば、「それってアンデルセンだったんだ!」と驚くことになります。特に冒頭に挙げた三作品は、シンプルでありながら深みのある物語として、様々なアレンジやパロディをされています。
ただ、やはり絵本として翻案されたもののイメージが強いため、オリジナルのアンデルセン童話の内容を知らない人も多いと思います。
私自身も実際にアンデルセン童話を読んでみて、イメージと大きく違う部分や、大人になったからこそわかる面白さなどを感じたため、これはぜひ魅力を文章にせねば! と筆を執った次第です。
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自身の人生を『一つの美しいメルヘンである』と称したアンデルセンは、童話作家として世界的に有名になりながらも、その半生は苦難と孤独に満ちていたとも言われています。
名声を得ても孤独を埋められず、立身出世しながらも出自から来る身分差に苦しみ、何度恋をしても家庭を持つことが出来なかった。これらのエピソードは、アンデルセンの逸話や人生を調べるとすぐに出てくるほど有名です。
アンデルセンの作品には、すべての作品に彼の経験が投影されています。
自分の作品は全て内面からにじみ出たものだ、と本人が語るだけあって、作品を読めば読むほど、アンデルセンという人間の人生が見えてくるのが面白いところです。だからこそ、アンデルセン童話はむしろ大人が読んだ方が面白い作品群であると言えます。
その証拠に、アンデルセン童話には子供向けとは思えないほどに残酷な現実が描かれています。
貧困や不幸、暴力に厭世観、そして死による救済――そんな鬱屈とした感情を、アンデルセンはまるで語りかけるような口語体で書き出していきました。
アンデルセンが童話を表現媒体に選んだのは、感情を表現するのに童話が最適だったと考えたからだそうですが、そんな普遍的な感情を描き出していたからこそ、二百年以上経った現代でも魅力的に映るのではないかと思います。
2025年はなんとアンデルセンの死後150年という節目の年です。これほど古い作家なので、地元であるデンマークではもう古典として扱われているそうで、逆に翻訳が主体の海外の方がアンデルセンをよく読まれているという話も聞きます。だからというわけではないですが、この機会に、彼の作品の魅力を語っていきたいと思います。
今回は彼の165編ある童話の中から、まずは八つの童話を紹介します。
それぞれの物語の魅力やその読み解き方、そしてアンデルセンの裏話と言ったものを加えながら、自由に語っていきたいと思います。
そのため、章の初めにあらすじを記載しますので、本文中ではネタバレを前提として書くことをご了承ください。もっとも、アンデルセン童話は古典作品であることを踏まえると、あえてネタバレを知った状態で読んだ方が、前提となる情報を得ることが出来て面白いという一面があることは先に言っておきます。
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長くなっていますが、最後に注意点を。
私は研究者ではないので、デンマーク語で書かれた原文などを実際に読んだりは出来ないため、基本的には文献を参考にしてまとめています。
同人誌には参考文献を載せていますが、カクヨムでは引用の場合のみ文献を記載します。概要欄に参考文献を載せるのも考えたのですが、だいぶ膨大な量になるので、ひとまず諸説ある場合などは文中に参考文献を紹介する形で記載します。
内容について、複数の文献にあたって大きく間違いが無いようには注意したいと思いますが、思い違いや読み違いから、事実と違うことがあるかも知れないので、その点はご了承ください。個人の解釈については、そう分かるように書くよう努めます。
また、人名などについては可能な限り原文に近い読み方を採用していますが、一部については通称で書いています。その代表がアンデルセンの呼称です。
そもそもアンデルセンというのは日本独自の呼び方で、デンマークではアナセンやアナスンという呼び方が正しかったりします(Andersenの「d」は読まないため)。
さらに言えば、アナセンという姓はありふれているため、デンマークでは著作に書かれたH.C.Andersenのサインから、『ホー・セー・アナセン』と呼ぶのが通称だそうです。
とはいえ、日本ではなじみが薄いので、あくまでこの本ではアンデルセンと呼ぶようにしているのをご了承ください。
それでは、デンマークが生んだ童話作家。
白鳥になったみにくいアヒルの子にして、マッチ売りの少女のモデルを母に持ち、子供の頃はカーレンのように赤い靴に意識を奪われ、モミの木のように無邪気に未来を夢見て、のろまのハンスのように語りだけで人に認められ、イーダちゃんにお話する学生さんのように子どもたちに人気で、スズの兵隊のように劣等感を抱きながら胸を張り、夜鳴きうぐいすのような歌姫に恋をし、人魚姫のようにうまく想いを伝えられず、絵のない絵本の月のように外国旅行を繰り返し、裸の王様と違ってメルヘンという服を着た童話の王様となった――そんな、H.C.Andersenの魅力を、語っていきたいと思います。
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