第4話

 努力を無駄にしない為に努力する。が、私のモットーである。

 両親や友達は私の事をそのまま努力家であると評価してくれたけれど、私の私に対する評価は少し違う。

 少し突飛な話になってしまうかもしれないけれど、私は一般的な人々よりも死というものに敏感で、例えば道で動物の死骸を見かけただけでも、いつか来る自らの終焉を想起し恐怖しては、立ち竦んでしまうような子供なのだ。

 人は皆、死を忘れて生きているというらしいけれど、私はその辺りの器用さがどうにも不足してしまっているらしい。

 そんな私にとって、何より貴重なものが、なんなのか、おわかりいただけるだろうか? 

 正解は、時間、である。死にたくない、生きていたい、と思うからこそ、叶うならば有意義に過ごしていたい。無為でいる事に耐えられない。

 一度きりの大切な人生だからこそ、悔いを残す事を何より恐怖してしまうのが、私なのだ。

 これまでの13年間の人生、一切の悔いがなかったといえば嘘になるし、私はいつも現実との戦いに負け続けてしまっているのかもしれないけれど、いつまで続くか解らない自らの貴重な時間を無駄にするような事だけはしたくないのである。

 そんな私だから、なのか、なんでも出来る魔法使いになる事は私にとっていっそ切実な、夢という言葉で終わらせたくない程の目標であり、その為ならば、アカネさんのスパルタにも、きっと耐えてみせるのだ・・・多分。


「なんでも出来るようになりたい? 良いじゃない! 私は応援するし、力にもなってあげるわよ。実はね・・・」


 初めてアカネさんと会ったあの日、実は私は、彼女の企みを、ちゃんと本人から聴かされていた。その上で提案に乗ったのだ。

 ユグドラシルの真実。彼女がゲームマスターという、この世界で最高の権限を持つ存在であること。

 ファザコンの彼女にはどうしてもこの世界の外に行きたい理由があり、その役職が邪魔になってしまっている事。私には彼女にとって代われる資質がある事。

 一切を包み隠さず開示してくれた彼女は、どうやら交渉というものがドヘタであるようだけれど、そのスタンスは、私からしても清々とするものであった事もあって、その手を取ったのだ。

 目の前の現実と戦うというスタンスの私にとって、外の世界への願望なんてものは無いし、この世界で最高の権限を得られるというのなら、願ったり叶ったりでもある。


「この世界で、一番、なんでも出来るようになる事だけは約束してあげられる。ルールもペナルティも、決めるのも守るのも与えるのも奪うのも、アサヒちゃん自身。確かに制限はあるけれど、なんなら破ってしまっても別に良いんだから、ただ・・・」

「・・・ただ?」

「自由には、孤独が付きまとうものだから、ことわりから解放されてしまえば、みずからしかよしとするものがなくなってしまう、これって結構精神的にくるものがあるのよ」

「・・・」

「なんでも出来るようになったとして、アサヒちゃんは、一体何がやりたいの?」

「人助け」

「即答だったわね」

「うん」


 誰もが知っているシンデレラ。あの魔法使いのように、逆境の中で苦しむ人々を助けられるようになれるなら


「一度きりの人生だから、私は、幸せになりたい。幸せだけを感じていたい。だから、私の周りにも、幸せでいて欲しい。誰かの不幸が、いつだって、私の幸福の障害になってしまうから、そんなものは許さない!」

「・・・あははっ! 凄いエゴイストなのね、まあ、私もなんだけど」

「自分を大切に出来ない人は誰も大切に出来ないって、そういう事なんだと思う。他人事だと思えないから、放置出来ないから解決するのであって、結局全部、自分の為なの、私は」

「奇遇ね、私もよ。私の後継者になるのに、アサヒちゃんは適任だわ、だって、何の良心も痛まないもの」

「あははっ!」


 出会ったばかりでこんなやりとりをしてしまうあたり、私もアカネさんの事を言えないなとは思う。

 それでも、一度でも共感してしまえば、もう手遅れだった。


「限界突破の儀式の為の素材は私の権限で生成できるけど、レベルを上げる事だけは自分で頑張らないといけないの。頑張れる?」

「うん」


 具体的な内容も聴かずに即決してしまったせいで、その日はぶっ倒れるまで、しごかれてしまったけれど、確かに成果はあった。

 まったくの初心者が急速にレベルを上げて、いくつかの初歩的なスキルを獲得して、ようやく戦闘らしい戦闘が出来るようになるまで、僅か一日。

 この偉業は広いユグドラシルでも僅かしか前例が無いというから、アカネさんの指導者しての有能さが良く表れている。

 だがしかし、レベルというものは上がれば上がってしまう程必要な経験値が莫大に増えてしまうものであるらしく、私の成長の速度は段々と遅くなり、

 初日程目覚ましいものではなくなっていった、と、言えたなら良かったのに!

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