デュラハンに転生したけれど、今日も元気に人助けします 【短編版】

蒼色ノ狐

不死者の洞窟 前編

  突然ではあるが、俺はいわゆる転生者だ。

 だけどその事について話せる事はあまりないんだよな、これが。

 自動車と衝突した事までは覚えているんだけど、神様になんてあった事もない。

 気づけばこの身体に転生して、このギルド『アルデバラン』に所属してもう五年以上になる。

 そして今日もいつものように顔を出しに来た訳なんだけど。


「そこを何とか! お願いします!」

「そう言われましても、リリンさんのランクではこの場所は……」」


 ギルドの入り口にて二人の少女による揉め事が起こっていた。

 まあギルド内による揉め事は何時もの事ではあるけれど、今回は流石に止めるべきか悩む者もいるみたいだ。

 と言うのも、少女の一人はこのギルドの受付嬢であり看板娘でもあるミカちゃんだからだ。


 可愛らしい茶髪の子で、その笑顔を見るための目的でここに所属してる奴もいる。

 ギルド外からもファンは多いけど、ここのギルドマスターが父親という事もあってナンパする恐れ知らずは少ない。

 っと、そんな事を考えている内に言い争いが白熱してきたみたいだ。

 ここは割って入った方がいいだろう。


「どうしたのミカちゃん。そんな顔をしてると可愛い顔が台無しだよ?」

「あ、アランさん」

「誰よ、あんた」


 俺が介入した事でミカちゃんは安堵してくれたみたいだけど、もう一人の女の子は機嫌が悪くなったみたいだ。

 リリンと呼ばれたこの女の子も、かなりの可愛い子だった。

 長い金髪をポニーテールにしていて、軽装の防具を着ていても分かるスタイルの良さはグッドだ。


「誰って聞いているんだけど? というか邪魔だからどいてくれない?」

「悪いけどそれは無理かな。君は少し冷静になった方がいい。怒鳴っていても事体は解決しないよ?」

「っ!」


 こっちを睨みつけるリリンだったけれど、こっちが正しい事に気づいたのか黙り込む。

 その間にこっちはミカちゃんに事情を聞く事にする。


「で? どうしたのミカちゃん」

「実は受けれるランク以上のダンジョンに行きたいと言われて。危険だと言っても、どうしても。と」

「なるほどね。それで? 君はどうしてそこまでしてそこに行きたいの?」

「……別に、何だっていいでしょ」


 リリンのツンとした態度をされるけど、ここは出来るだけ優しく話しかける。


「話してくれないとこっちも力にはなれない。君が本気で行きたいのなら、理由を語ってくれないか?」

「……形見を探すためよ」


 ボソボソっとではあるけれど、リリンは理由を話し始めてくれた。


「私のお姉ちゃん傭兵をしてたんだけど、そのダンジョンで消息を断っちゃったの。……生きてるなんて贅沢な希望は持たない。けれどせめて身に着けていたペンダントだけは家に帰してあげたいの」


 そこまで言うと、リリンはミカちゃんに向かって頭を下げる。


「お願いします。私をこのダンジョンに行かせてください。迷惑はかけません」

「事情は把握しました。……ですけどリリンさんはアルデバランの団員じゃありません。これでもしもの事があれば、我々に責任が及びます」

「……」


 ミカちゃんは本当に申し訳なさそうにリリンに説明してあげる。

 心情的には力になってあげたいけれど、受付嬢として私情を挟む事はできないというのが実情なのかも知れない。

 さて、そろそろ助け舟を出すとしますか。


「じゃあアルデバランに同行者を依頼したらどう? それなら問題解決でしょ?」

「……だけど、それじゃ迷惑が」

「どっちにしても迷惑なら、より少ない方を選ぶべきじゃない?」

「アルデバランとしてはそれで問題はありません。ありませんけど……」

「? ミカちゃん何か問題でもあった?」

「問題、というか何と言うか」


 完璧な作戦かと思ったけど、何故かハッキリしない態度を続けるミカちゃんは資料をみせてくれた。


「リリンさんが行きたいと言っているのは『不死者の洞窟』なんです」

「あ~。あそこか~」


 ―不死者の洞窟


 この街からほど近い場所にあるダンジョンではあるけれど、いつの間にかアンデット系のモンスターが集まりかなりの危険地帯になっている。

 ……俺としてもあまり行きたくはない場所はあるけれど、いまここにいるメンバーを考えればこのダンジョンに行ける実力があるのは。


「アランさん。嫌なら別に無理をしなくても」

「……大丈夫だよミカちゃん。確かに好んでは行きたくはないけれど、困ってる人がいるなら助けないと、ね」

「はぁ。分かりました」


 ミカちゃんは改めてリリンの方に向き直すと、受付嬢として冷静に対応する。


「こちら側はここにいるアランさんが同行するのを条件に、リリンの不死者の洞窟を探索する事を許可します」

「……それでいいわ」


 渋々といった様子でリリンは頷くと、こっちの方を見ながら手を差し出す。


「リリンよ。短い間だろうけど、よろしく頼むわ」

「ああよろしく。俺はアランだ」


 差し出された手を握って握手をすると、リリンは不思議そうな顔で見つめてきた。


「アンタ、手がかなり冷たいわよ。何かの病気なんじゃない?」

「ふふ、心配してくれてありがとう。けどこれは体質だから」

「そんなレベルの冷たさじゃなかったけど。……まあいいや。一時間後、街の西門で待ち合わせね」


 そう言ってリリンは準備をするために出て行く。

 それを確認すると、ミカちゃん顔を寄せて耳打ちしてきた。


「アランさん! 握手なんかしてバレたらどうするんですか!」

「大丈夫だって。いくら手が冷たいからってバレる事はないさ」

「もう! ……それより本当にいいんですか? あの場所はアランさんにとっては」

よね。けどまあ、何とかなるでしょ」

「……」

「そんな顔に皺を寄せないで。ほら、可愛い顔が台無しだよ」

「そんな事言っても、騙されませんからね」

「はは。じゃあこれ以上怒られない内に、準備しに行こうかな」

「……アランさん!」


 出て行こうする俺を、ミカちゃんは大声で呼び止める。

 するとギリギリ聞こえるぐらいで。


「無事に帰ってきてくださいね」


 涙声にも聞こえるその声に、俺は笑ってこう返す。


「勿論」


 それから一時間後、俺とリリンは不死者の洞窟へと向かった。

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