2-③ 人の屍を越えて行け
「手蹴り=り!手蹴り=り!」フリッパーが乱舞し、果敢にサメを叩き落とす。城敷はそんな跳子を肩車し、地獄のプールサイドを駆け抜けた。その姿、且つて鳥海山に潜んだ妖怪、手長足長の如し。
「裏山へ逃げるぞ!サメは血の臭いに集まるだろうから、人気のない方へ向かった方が安全だ!!」「お願い、そっちは任せるわ!」
ふたりが後にしたプールでは、生贄となった美女を喰らったサメたちが、モリモリとその体を成長させ、巨大化していった。
「もう大丈夫、降ろしてくれていいわよ」
静まり返った校舎の傍らでウイッグを被れば、跳子の姿は再びブレザースタイルの制服姿となる。
「あれっ、水着じゃないのか」「そりゃ変装ってTPOに合わせるものだからね。なーにー?もっと見たかったのかなー城敷くーん?」「別に……ただ驚いただけだよ!うわっ!」城敷が紅潮した頬を背けると、視線の先では奇妙な果実がぶら下がっていた。「やだ、あれ人じゃない!?」跳子も異様な光景に気づく。
しかし、それは人間ではなかった。ボロボロに破壊されバネや歯車を引きずりだされた教師が、校舎の窓辺から吊り下げられていたのだ。
「サメのしわざじゃないな。人間の……生徒がやったんだろう。理事長が死んだことで教師の統制が乱れて、憤懣を抱えた生徒が暴徒化したに違いない」「じゃあ、その生徒たちは?」「おそらく皆、サメの歯に掛かって……」
教室の窓ガラスが赤いのは、夕陽の照り返しばかりではなかった。二人が足取りも重く校舎裏の山へ向かう間にも、そこかしこに生徒達の亡骸が目に留まった。
「……わたし、特別捜査官失格ね。こうなる前に事態を解明しなきゃいけなかったのに」
「跳子のせいじゃない。ここまで放置していた学園側の、俺たち生徒の責任なんだ」
城敷仁は岩羽跳子に真直ぐ向き合い、その両肩に手を置いた。
「いいかい。山を越えた先には秘密の入り江があって、そこにモーターボートが隠されている。君はそれで、この学園を脱出するんだ。ここで起きた事件を、真実を必ず、世に伝えてくれよな」「あなたはどうするの?一緒に行かないの」「俺は――」
跳子の問いかけに答えようとしたその時、地面から伸びた何者かの手が城敷の足を掴んだ。
城敷はあられもない悲鳴を上げた。
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