1-③ 旧校舎の決闘
ガブリと閉じられたサメの顎。しかし跳子の姿はそこには無い。古い血痕の上を影が跳んだ。人ではない影。小さな、鳥のような影が疾風の如く、サメに跳びかかる。
「ペンギン!?」城敷が叫んだように、それはまさしく一羽のペンギンであった。頭部に金色の羽冠を備え、鋭い視線が敵を貫く。深紅の嘴、ピンク色の脚。強力な跳躍を以て地上を疾駆する人鳥。
イワトビペンギンである。
サメは、その強力な顎を向けた正面しか攻撃することができない。イワトビペンギンは素早い反復横跳びで鮫淵の側面に回り込むと、胸元から飛び出すサメの横っ面にフリッパーの打撃を叩きこむ。
潜水に順応したペンギンの骨格は、他の鳥類に例を見ないほど太く、重い。そこから繰り出される打撃は巨象をも一撃で昏倒させる。軟骨魚類のサメにはとりわけ有効だ。
「
そしてサメは未だ半身が人間のままな、中途半端な状態である。満足な回避も出来ずにたちまち床に倒れた。
「文部科学省特別潜入捜査官、岩羽跳子よ。あなたを逮捕します」
「噂のペンギン
「しまった!」邪魔な人間を脱ぎ捨て、一瞬の隙を突いてサメは逃走した。
「やれやれ、逃がしちゃった。てけりり」イワトビペンギンは照れ笑いを浮かべてウイッグを被る。そこには先刻と変わらぬ制服姿の女子高生がいた。
「君、変身……したのか?」「やーねーマンガじゃあるまいし。ただの変装よ。ほれほれ」跳子がおどけてウイッグを外すとイワトビペンギンが現われ、再び装着すると女子高生岩羽跳子になる。高低差激しい身長の変化に、城敷は目を白黒させた。ペンギンのように。
「『人は被り物が9割』って言うでしょ?みんな印象に引っ張られるものなのよ」「でも鳥じゃないか!」「もー、失礼ねえ」ぷうと頬を膨らませる跳子。
「人鳥よ、じんちょう」てけりり、とイワトビペンギンは笑った。
「とはいえ、今後もまだ捜査は続くわ。城敷くんにも色々手伝ってもらうからね。この学校に徘徊するサメがあの1匹とは限らないんだし」
「いや待て」城敷は何か恐ろしいことに気がついたような顔をする。
「不味いぞ、それは」
「えっ、どうして?」
「転校したばかりの君は知らないだろうけれど、明日は――」
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