第5話

そいつはばりばりとおせんべいを食べると言った。

「おいしい。ありがとう」

そう言うと、庭から出て行った。

こうきは動けなかった。

あまりにも信じられない光景。

あまりにも信じられない存在。

人間は本当に驚くと、なに一つできないのだ。

そいつがいなくなると、ばあちゃんは居間に戻り、テレビを見だした。

こうきも戻った。

そして言った。

「今のは?」

「お友達」

ばあちゃんはそう答えた。

それだけだ。

もう会話はない。

テレビを見ながらこうきは考えた。

いまのはなんなんだ。

妖怪? 化け物? 幽霊?

答えはない。

ばあちゃんに聞いてみようとおもったが、やめた。

ばあちゃんはそいつをお友達だと言ったし、そいつを見る顔は、幸せに満ちていたからだ。

こうきはテレビを見ていたが、もちろん内容は全く頭に入ってこなかった。


夕食、テレビ、お風呂、テレビ、そして寝た。

こうきは満足に寝られなかった。

目を閉じればあいつの姿が脳裏に嫌でも浮かぶのだ。

――明日の昼過ぎには、父さんが迎えに来る。

そしたら帰ろう。

そして二度とここには来るまい。

そんなことを考えていたら、ようやく眠りについた。

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