夢と欲望
天川裕司
夢と欲望
タイトル:夢と欲望
▼登場人物
●梶 哲郎(かじ てつろう):男性。38歳。サラリーマン。もうすぐ結婚する。性癖に悩む。
●本郷美代子(ほんごう みよこ):女性。35歳。哲郎のフィアンセ。
●越川優里亜(こしかわ ゆりあ):女性。30代。哲郎の夢と欲望から生まれた生霊。
▼場所設定
●哲郎の自宅:都内にある一般的なアパートのイメージで。
●街中:公園を含めこちらも一般的なイメージでOKです。
●本屋:哲郎の行きつけで普通の本屋のイメージで。
▼アイテム
●Suppress Sexual Desire:優里亜が哲郎に勧める特製の錠剤。これを飲んだ人の心を安らげ、その人の魅力を発揮させてくれる。ただし効果は3ヶ月。
NAは梶 哲郎でよろしくお願い致します。
イントロ〜
あなたには、秘密がありますか?
1人でする事、それも秘密に含まれるのでしょうか。
その1人でする事の内にはいろんな事がありますよね。
人前では出来ない事、例えば自分を慰めたりする事も。
今回はそんな事で悩んでいた、或る男性にまつわる不思議なお話。
メインシナリオ〜
ト書き〈本屋〉
哲郎「うう〜ダメだダメだ!こんな本ばかり買ってちゃ!俺はもうすぐ結婚するんだ!…でも…」
俺の名前は梶 哲郎。
今年38歳になるサラリーマンで、もうすぐ結婚する。
妻になる美代子はとても優しく気立も良くて、俺には勿体ないぐらいの人だ。
そんな彼女ともうすぐ結婚すると言うのに、俺は相も変わらず本屋に立ち寄り、こんないやらしい本ばかりを見つめ、それを買おうとしている。
恋人と付き合っても、結婚しても、この欲望のはけ口は変わらないのか。人によって違うのか。
ト書き〈公園〉
俺は何となく憂鬱になり、そこから最寄りの公園に行ってベンチに座り休んでいた。
哲郎「俺って人より性欲強いのかなぁ。でもAV男優になる気はないし、営みにしたってそんなにガッつくほうでもないんだけどなぁ…」
していると…
優里亜「こんにちは♪なんか悩んでるんですか?お隣座ってもイイかしら?」
いきなり女の人が来てそう言った。
彼女の名前は越川優里亜さんと言い、都内でライフコーチや恋愛コンサルタントの仕事をしてると言う。
でもひと目見た時から不思議を感じた。
「昔から知っている人」のイメージがあり、その点で心が安らいでくる。
そしてなぜか自分の悩み事を無性に打ち明けたくさせられ、
気づくと俺は本当に今の自分の悩みを彼女に打ち明けていた。
哲郎「は、ははwこんなこと初対面のあなたに話すなんて、僕もどうかしてるんでしょうか。…でも本当に悩んでて…」
彼女は真剣に聞いてくれた。
優里亜「なるほど。もうすぐ奥さんになる人が居るのに、あなたは1人で自分を慰めて、その癖がなかなか治らないと?」
哲郎「え、ええ、そうなんです。ほんとにこんな自分がもう嫌なんですけど…」
すると彼女は持っていたバッグの中から錠剤のような物を取り出し、
それを俺に勧めてこう言ってきた。
優里亜「でしたらこちらをどうぞ♪これは『Suppress Sexual Desire』と言う特製のサプリメントのようなもので、きっとあなたの心を安らげ、元のあなたの魅力を発揮させてくれるでしょう」
優里亜「但し効果は3ヶ月ほど。その間にあなたは自分を取り戻し、奥さんに対して恥ずかしくない人になり、2人の幸せを掴むのです。いかがです?今回は私からお勧めしますので無料で差し上げます。今のあなたにとって別に失うものは無いし、試してみる価値はあるかと思いますが?」
やはり彼女は不思議な人だ。
他の人に言われたって信じないことでも、彼女に言われると信じさせられその気になってしまう。
俺はその錠剤を一粒貰い、その場で飲み干した。
ト書き〈3ヶ月〉
そしてその3ヶ月間。俺は本当に人が変わったようになり、性欲に取り憑かれる事なく、目の前の彼女だけを愛する事ができていた。
美代子「うふ♪最近のあなた優しい。嬉しいわ」
哲郎「ハハ、馬鹿だなぁ。僕はいつだって君にゾッコンさ。君だけを大事に思ってるんだよ」
結婚式の日取りを決め、式場も決め、俺達は明るい未来へ向かって着実に進んでいた。でも…
哲郎「あ、あれ?…ごめんよ…」
美代子「ううん、気にしないで。焦らなくても大丈夫。時間は充分にあるんだから」
やっぱり営みの時、俺はうまくいかない。
独りで自分を慰めた時期が長すぎたのだろうか。
でも美代子はそんな俺を優しく包み込み、いつも笑顔で居てくれた。
ト書き〈数日後〉
それから数日後。俺の心と体はまた火照り出した。
2人の営みがうまくいかないからか、欲求だけが高まり
俺の体を動かすのである。
そしてついに又あの行きつけの本屋に行ってしまい、そこで自分を慰める為のいろんな本を買ってしまった。
哲郎「…ごめんよ美代子。俺やっぱり…」
そうして歩いて行き、自宅から最寄りの空き地に差し掛かった時…
優里亜「こんにちは。お久しぶりですね」
哲郎「あ、あなたは…!」
あのとき公園で会った彼女・優里亜さんがいきなり後ろから声をかけてきた。
驚きながらも俺は、そのとき手に持っていた紙袋を後ろに隠した。
でも優里亜さんはそれを見透かしたかのように…
優里亜「フフ、隠さなくたって良いですよ。もう分かってますから。あなたやっぱり我慢できずに、そんな本を買ってしまったんですね。奥さんに悪いと思わないんですか?」
哲郎「い、いや、それはその…」
でも聞いている内、俺は段々腹が立ってきた。
余りに一方的にそう言われたせいもあったが、
どうにも出来ない自分にも腹を立てていたのだ。
哲郎「あ、あんた!一体何なんですか!僕の事つけ回したりして!もうほっといて下さいよ!僕がどうしようと、あんたには何の関係も無いじゃないですか!」
でも彼女は…
優里亜「これは手厳しいですね。でも初めに助けを求めて来たのはあなたのほうだったでしょう?それを今になってそんな言い方するなんて、ちょっと私としては心外ですよ?」
優里亜「でもそんな事は良いのです。問題はあなたのこれからの事。あのサプリメントをあなたに処方した以上、私にも責任があります。なのであなたのお悩みを解消する上で、そのサプリメントの最後の効果をここで発揮させましょう」
哲郎「…え?」
そう言って優里亜がパチンと指を鳴らした瞬間、
俺の意識は飛んでしまった。
ト書き〈猥本の中だけで登場する哲郎〉
それからどれぐらい経ったのか分からないが、気づいてみると俺は静止画像のように止まったまま、紙面に載っていたようだ。
優里亜「この本の中だけに登場する哲郎。2次元の住人となり、3次元からは姿を消してしまった。でも紙に映る絵だから動く事はできず、生きてて味わう感触も味わえず、ただそこに載って誰かに見られているだけ」
優里亜「この本はまるであなたの心のアルバムのようなもの。人知れず、静かに隠し育ててきたそのアルバム。これは特定の人にだけ分かる物になるでしょうね。これを編集した人の記憶にあなたの存在は無い。でもあなたの愛した人なら、あなたの存在は分かってしまう」
優里亜「あなたはその悩みを奥さんと一緒に解決すべきだったのよ。その悩みを1人で抱え込むのも、愛した人に対する秘密になってしまうわ。その秘密からいろんな問題が起きてしまうの。これは男女共に言える事だけど、今回はあなただったわね…」
優里亜「私は哲郎の夢と欲望から生まれた生霊。夢だけを叶えてあげたかったけど、欲望のほうが勝っちゃった。夢と欲望、それは紙一重のもの。でも、得てして欲望のほうが勝ってしまうものなのかしら?」
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=b26Y9eION1I
夢と欲望 天川裕司 @tenkawayuji
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