「お互い30歳まで独身だったら結婚しようね」と約束した少女が勇者になって帰ってきた。

猫とホウキ

一、約束

 その頃の俺といえば『薬草摘み』しかできない最低ランクの冒険者ハンターで、一方のといえば『最弱魔物スライム狩り』しかできない最低ランクの冒険者ファイターであった。


 俺は典型的な『無能ちゃん』で、何年も冒険者を続けていたもののまったく成長がなく、何年経っても初心者ビギナー向きの仕事しかできなかった。一方の彼女といえば、才覚はあるものの性格が災いして、仲間を作れず、仕事も失敗続きで信用を失っていた。


 俺は十八歳、彼女も同い年。もう新人ルーキーとは呼べないほどの経験を積んでいたにも関わらず、俺は薬草採取しかできず、彼女はスライム狩りしかできず、冒険者ランクはずっと最低Eランクのままであった。


 俺には才能がなく評価されないのも当然であったが──彼女にははっきりと才能があった。しかし彼女は自らの力をコントロールできず、また力があるという自尊心プライドだけが先行してしまい、他の冒険者を馬鹿にする癖があった。実際にはスライム狩りしかできないのに。


 そんな俺や彼女とパーティを組むような物好きはいなかった。つまり俺と彼女は仲間が欲しければ俺たち同士で組むしかなく、二人はいつしか一緒に冒険をするようになっていた。



***



 その日は年に一度の聖夜祭だった。雪が舞う夜、きらびやかな街の一角で、俺と彼女は安くて固いパンと具のないスープで聖夜を過ごしていた。


 なお、デートではなく、ただの食事。俺たちには恋人を作るような余裕もなければ、聖夜を祝うワインもない。そしてこんな日に、こんな俺たちが肩身の狭い思いをせずに過ごせる場所は限られていた。客に干渉しない店員、格安の料理、似たような境遇の客たち。今にも壊れそうな椅子に座って、今にも壊れそうな心の持ち主である俺たちは、無言でパンをかじり続けていた。


 その沈黙を破り、唐突に彼女が言う。


「お互い三十歳まで独身だったら結婚しようね」


 俺は意味が分からず、しばらく呆然と──微笑ほほえむ彼女を見つめていた。


「嫌だったら、ちゃんと聖夜祭を一緒に過ごす恋人を作るんだよ? 恋人と一緒に美味しい物をたくさん食べるんだよ? そのためにはちゃんと稼げる仕事をしないとね」


「あ、ああ」


「テキトーに返事をしないでね。あたしは本気で言ってるから」


「…………」


 俺は誤魔化すようにスープを口に運び、うっかりそれを気管の方に流し込んでしまって盛大にせた。その様子を見て彼女は「そんなに焦らないでよ、もう」と笑っていたが、やがて真顔になる。


「あたしね、今日が十八歳の誕生日なんだ。そして来年もで聖夜祭を過ごすようなら冒険者をやめようと思ってる。明日から死に物狂いで頑張ろうと思ってる。でもダメかもしれない。この先、ロクでもない人生が待っているのかもしれない。だから希望を持ちたいの。貧乏暮らしのまま三十歳になった独身のあたしでも、貧乏暮らしのまま三十歳になった独身のあなたと結婚できる権利だけはあるってね」


「それは希望と言えるのか? あと──もし俺が結婚していたらどうするつもりなんだ?」


「絶望でないのなら、相対的には希望なんだよ。で、もし、万が一にも、あり得ないと思うけど、そのときあなたが結婚していたとしたら──」


 彼女は悪戯いたずらっぽく笑いながら言った。


「結婚相手を殺せば、あなたはまた独身に戻るから問題ないよね」

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