第4話 罪な疎さ
通学中、隣に座るわけでもないが、顔を会わせれば言葉を交わしてはいた。
そこに居るのが当然で、視界に入る花緒里を知らず探していた。――そう
最初は気のせいだと思い、彼女のことを意識の外へ無理矢理追いやった。けれどすぐに、彼女は体調が悪いのかもしれないと、心配で堪らなくなった。だからと言って、何か行動するわけでもなく、悶々と悪い想像だけが積み重なって行く。
そのうちに、学校内で姿を見付ける機会があった。それでようやく、登校のルーティンが変わったらしいと理解した。
この頃の千颯は、言い様の無い不安と焦燥感に苛まれている。
(俺、何かした!? いいや、なんもしてない。ってか、これまでそんなしっかり関わっては来なかったけど)
気付けばそこにいて、話し掛けることができて、答えが返るのが普通だった。
けれどそれは当然のことではなかったと思い知ったのは、つい最近になってだ。
朝早い教室内は人の姿も疎らだ。共にばか騒ぎしている友人らが登校するのはもっと後だ。だが千颯は、いつものバスに合わせたこの時間に来ることをやめる気はない。
一人、教室に居る時間を寂しく思ったことはないが、ここ最近は何か空虚な気持ちに囚われる。
「瀬名くん、何か探し物? ちょっと話があるんだけど」
いつの間にかフワリと距離を詰めてきたのは、近頃頻繁に千颯に話し掛けてくる同じクラスの女生徒だった。
(確か名前は……小林? 古林? 小早川……そうそう、早川さんだっけ)
気付かれないように、そっと首を傾げつつ「早川さん?」と応えれば、眉を寄せる微妙な反応が返ってきた。
「この前から相談してる、私の、友達のことなんだけど」
「ん? あれ、相談だったの? 面白い話してんなぁと思って聞いてたよ」
「え。……親身に聞いてくれてたじゃない」
「俺の幼馴染みに、話を聞いてくれるのが上手いコがいてさ。アイツのお陰かもな」
「つっ……」
最近話せていない花緒里を思い浮かべて、僅かに表情を曇らせた千颯に、早川が言葉を詰まらせる。
だが、グッと唇を引き結んで、次の瞬間には笑顔を浮かべた彼女は、縋るような真っ直ぐな瞳を千颯に向ける。
「その、友達のことで……相談があるの。また放課後、付き合ってくれる?」
「部活の後になるけど」
「私も同じくらいの帰りになるから、良いの」
「ふぅん? わかったよ」
了承の返事を受けた早川は、緊張の糸が解けた様に安堵の笑みを浮かべると「じゃあ、放課後ね」と口早に告げて離れていく。
「お前……解ってないだろ」
苦々しさと、呆れが入り交じった表情で近付いてきたのは、いつものばか騒ぎ仲間の一人の西田だ。
「おは、ニッシー。ん? なにが?」
「おは、チハ。で、おま……、ホントに友達の話だと思ってんの?」
「違うの?」
「全く眼中に無いのな」
友人は、コントの様に大仰に、肩を竦めて溜め息を吐いてみせる。
「それに、アイツの名前は花沢な」
「えっ!?」
「本当に興味がないんだなぁ……。なら、お兄さんがちょっとお節介を言ってやろう。今日、花沢からの相談に乗りに行けば、ハヤは告白されるぞ。間違いない」
「はぁ!? そんな気無いぞ」
「あぁ、俺も今初めて知ったよ。けど俺らはそう思って見てたからな。お前も気があると思ってたんだ」
「だから、最近みんな朝が遅くなってたのか!? 早川……花沢が俺に近付くから!」
「いや、それは、ちょっとはあるが、たまたまだ。何故ならあいつらも、そこでこっそり眺めてたからな」
西田が言えば「ばらすなよ」「お前本気で鈍感すぎぃ」などと多様な文句を口々にした、いつもの仲間が教室に入ってくる。
「大体のやつらはそう思って見てたぞ」
断言する西田に、千颯はふと引っ掛かりを覚えた。
(大体って……じゃあ、花緒里は!?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます