6年も好きだったんだよ。

すあま

第1話

「いってきます!」

帰りは教科書を入れてくる予定の今は軽いカバンを背負い、家の中にいる母親に向かって玄関で叫ぶと行ってらっしゃい、という声が聞こえてきた。その声を確認してから玄関のドアを開け、外に出る。

1年も通うと通学路はすっかりと通いなれた道となる。爽やかな春の風を感じながら学校へと向かう。15分ほど歩みを進めると、見慣れた校門が見えてきて同じ制服を着た生徒たちが目立ち始めた。

昇降口の前にはクラス表が貼りだされていて、学年関係なく人だかりができている。その後方から背伸びをして覗き込む。

(えーっと…。私の名前は…、あった!2年3組ね。)

名前があることを確認し、新しい下駄箱にスニーカーを入れ上履きに履き替える。2年生の教室は2階のため、階段を上り教室の前に着く。

どんなクラスになるのかワクワクと躍る心をセーラー服の下に抱えながら、教室に入る。室内はすでに到着していた生徒の声で満ちていた。皆同じように高揚した気分のようで、話し声が明るい。黒板に貼ってあった大きなプリントで自分の席を確認してから座る。今年も窓際の席だ。もう花びらは散ってしまったけど、校内にある大きな桜の木がよく見える。

カバンからペンケースやクリアファイルを取り出していると、隣の席に座る男子生徒から声をかけられた。

「今年も同じクラスか、村上むらかみ。よろしくな。」

「こっちこそ。また1年間よろしく、はら。」

去年も同じクラスで何回か同じ班になったこともあり、そこそこ話す仲の原が隣の席で安心した。さすがに一度も話したことのない人と隣の席は緊張する。

原の周りにはいつものように人だかりができていて、男子が集まっていた。原は誰から見ても人気者だと思う。学年トップの成績をいつも保ち、1年生の時は学級委員の仕事もこなしていた。だからこそ、しっかりとモテることもこの1年間でよくわかった。

カバンをロッカーにしまおうと教室後方のロッカーへ向かうと、教室のドアから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がしてカバンを抱えたまま振り返る。

「みなみ!ちょっといい?」

私の耳は正常だったようで、同じ美術部の河本鈴かわもとりんがドアのそばにたたずんで私を呼んでいた。すぐさまカバンをロッカーにつっこみ、鈴のもとに駆け寄る。

「鈴。どうしたの?」

「今日お弁当持ってきた?」

「持ってきた、部活あるんでしょ?」

「それが先生の都合でなくなったみたい。今部長が言いに来た。」

「あっ、そうなんだ。せっかくだし、どこかの教室借りて食べてから帰ろうか。」

「うん、そうしよう!」

そう言って鈴は自分のクラスである1組に戻っていった。廊下は立ち話をする人であふれていた。


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