4-7:しらないハンカチ

 その日お風呂に入ろうとしたら、洗濯物を入れるかごの中に、見たことがないハンカチが入っていた。

 白地に赤い糸で、お花の刺繍がしてある。上品で大人っぽいデザインのハンカチだった。朱莉はそのハンカチを握りしめて、洗面所を出る。

「ねえ、ママ。このハンカチって、ママの?」

 リビングのソファで、飼い猫のマフィンをなでていたママは、小首をかしげて「ママのじゃないわよ」と言った。

「莉麻のじゃない? それより朱莉、下着姿でうろうろしないの。お行儀が悪いでしょう」

「……うん」

 朱莉は洗面所に戻って、そして、かごの中に思い切りハンカチを投げ入れた。

 朱莉は、このハンカチ、持っていない。


 ――朱莉が持っていないものを、なんで莉麻が持っているの?


 莉麻と朱莉は、おそろいのものしか持っていないはずだ。ずっと、そうだった。

 だから、おかしい、こんなのは。

 朱莉が知らない莉麻のものがあるなんて、絶対に、変。


 朱莉は身体を丸めて、お風呂に潜った。頭の先までお湯に浸かってしまうと、世界から音が消えて、ただお湯のあたたかさだけが感じられた。

 生まれてくる前、ママのお腹にいたころは、こんな感じだったのだろうか。

 けれどここには、莉麻はいない。

 ママのお腹にいたころから一緒だったはずの莉麻が、最近なんだか、とても遠い。

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