第6話 謎は全て解けた!

 そう考え始めると、何か、今までの総ての話が振り出しに戻り、何処かこの2点に重大な関係があるのではなかろうか?と、そういう疑問が強く強く沸いて来たのである。


 12月の初め、私は親戚に不幸があったと言う事にして、急遽、田辺君が勤務していたという東京の私立大学病院を尋ねて見る事にした。


 その、東京でも大手の私立大学病院の人事課長に、直接、面会を申し込んだのである。


「いやあ、竹本治さん、わざわざ遠いところから、ご苦労様です。で、今日は一体何の要で、こんな病院までおいでになったのです?」


「それがですね、私の勤務している社会法人の福祉施設の経営の都合もありまして、まあ、早い話がリストラの件で、理事長から特命を受けましてね。


 で、誰をどうするかも含めて、現在、検討中なのですが、その中に田辺君の名前も挙がっておりましてね、私としましては、直属の部下ですし仕事も真面目なので、何とか救っやりたいという事で、この病院に田辺君が勤務していたという話を聞きまして、少しでもその当時の手柄話の一つでもあれば、それを土産に田辺君を助けてやれないかな、と、まあ、これがここまで出向いてきたホントの話なのです」と、私は、咄嗟に思い付いた口から出任せの訪問理由を長々と告げた。


「そうですか?それは大変に部下思いの事で頭が下がります。ただ、私も、人事課長になったのは2年前ですし、何しろ、常時300人を超えるスタッフを抱えている大病院ですから、田辺君と言われましても、ちょっと記憶が有りませんが……。


 ああ君、10年ほど前からの人事関係資料を、倉庫から取り出して来てくれないか」と、近くにいた女子職員に指図してくれた。そして、彼女が取り出してきた資料を見ながら、


「田辺、田辺、確か田辺正紀君でしたね、えーと、どこに記録があるのかな?」


 と、結構、真剣に過去の資料を調べてくれていた、その時である。


「待てよ、田辺正紀?もしかして、あの人間離れした顔をした田辺、映画のフランケンシュタインに似ている田辺じゃないですか?」


「まあ、自分の部下の事をそこまでボロクソには言えませんが、確かに似ていますかね。で、田辺君の事、何か思い出されましたか?」


「い、い、いや、何も思い出せません。ま、誠に失礼ですが、今日のところは、これでお帰り願えないでしょうか?」と、明らかにその態度が急変したのである。しかし、その顔がフランケンシュタインに似ている等、正に田辺君の特徴そのままを言い当てているのだ。そんな、知らない筈が無いではないか。


「何と言われましても、こ、これ以上はお答えできません。敢えて一言、申し添えるならば、リストラの対象にされたほうが無難でしょう」と、それだけ言い残して、そそくさと人事課長は、別の部屋へと行ってしまった。


 さっきの資料には何か重大な事実が記載されていたのではないか。そういう疑問は残るものの、それ以上の追求は無理だと感じた。


 私は、大学病院関係者のほうは諦めて、病院の玄関から出てきた明らかに精神神経科への通院患者と思われそうな数人の患者らしき人に声を掛けてみた。なかなか私の思うような情報は得られ無かったが、その中の30代中頃の女性から、貴重な証言を得る事が出来たのである。


「いやあ、こんな大きな病院に来ると、何処が入り口かもわからんもんでね。さっきのところが入り口なんですか?」と、私は、田舎弁で話し掛けてみた。


「ええ」


「私も、鬱病をはじめ色んな症状を併発しましてね、で、病院を転々として、今日はとうとう田舎からこの病院までやってきたんですけど、この病院の評判い良いんですかね?」と、自らも患者であるとして相手の返事を誘い出してみた。


「最近は、結構良いみたいですよ。私も今日で通院しなくても良くなったんです」と、それなりの返事が返ってきた。これはいける、と、そう感じた私は、


「それはおめでとうございます。私なんか、なかなか名医に出会えなくてもう10年来の病院通いです。でも、今の話でしたら、この私立大学病院で以前に何か変わった事があったんですか?」と水を向けてみた。


「そうですね、これは単なる噂話なのですけど、私がこの病院に通い始めた丁度今から7~8年ほど前、入院中の患者が何人も変死したという話を聞いた事があったんです。でも、その犯人だと噂された職員を解雇したらピタリと変死が止んだという噂ですよ。


 何でもその職員、この病院の美人の看護師さんに結婚を申し込んで断れたので、その腹いせに何人もの患者を殺したんではないかとの話でしたけど、勿論、この事は看護師さん達の立ち話からそれとなく聞いたので、ホントかどうかはわかりませんけどもね。


 でも、今は確かに良い病院ですよ」と、明るく返事をしてくれた。


 こ、これは、正に、寝耳に水の話である!


 この私立大学病院の入院患者の連続変死と、私の施設で10人もの入所者が次々と死亡した事とは、明らかに何らかの因果関係があるのではないか?


私は、根本的に推理を変更せざるを得ないのではないか?実は、あの田辺こそ、本当の真犯人なのではないのか?


 一体、何が、「シンクロニシティ」だ。今までの総ての怪事件は、総て田辺の仕組んだ壮大な、魔術のトリックの演出の一環だったのではないのか?


 そうだ、冷静に冷静に考えてみれば、一番最初の近所のお嫁さんの全裸自殺事件といい、あるいは、近所の原さんと言う女子大生の両親惨殺事件は、薬学の知識のある田辺なら、精神を撹乱する何らかの薬物を利用する事によって、決して不可能な事では無いではないか?


 あるいは、心理学専攻の田辺の事である、その特殊な薬剤と、後催眠(ごさいみん)暗示による犯罪誘導を、同時に、行ったかもしれないではないか?


 いや、この私の推理も全く出鱈目ではないのだ。いつか田辺が私に語ってくれた大学の卒論の題名は確か『エリクソニアン催眠誘導法による催眠分析法の効果について』だった筈であり、田辺自身、催眠誘導法のプロを自称していた程なのだ。


 ちなみに田辺に言わせると、エリクソニアン催眠とは、天才的心理療法家「ミルトン・H・エリクソン」が開発した催眠療法であり、非常に高度な技術を要するもので誰にでも行えるものでは無い、と自慢していた程だ。


 私は、直ぐに郷里の自宅に戻る事にした。 ついでに、マニアの間では有名な東京のモデルガンショップに立ち寄り、護身用にスタンガンを購入した。ボウガンも欲しかったが、日本では今では銃刀法違反になってしまったが、使い方によっては三十八口径の実銃並みの威力が有る事は、マニアの間では、実は、常識なのである。


 結局、私の推理が正しければ、実は、諸悪の根元は田辺だったと言う事になる。そして田辺が本当に真犯人であるとれば、私はその狂気の連続猟奇殺人犯と対峙しなければならなくなる。


 田辺は身長175センチ、体重70キロはありそうな体格だ。体の小さな私には、これぐらいの武器は、当然必要に思えたのだ。冒頭にも言ったように、私は、懐中電灯一つ持って裏庭の納屋を見に行く勇気など持ちあせていないのだ。私は、体の小さい事がコンプレックスとなっており、モデルガンやエアガン、あるいはボウガンには、小さい時から、相当に興味があったのである。


 と言って、あの小説やビデオ類の焼却後は、全く何事も起きていない事もまた事実である。とすれば、田辺は、更に極秘に、新たな大事件を計画しているのではなかろうか?


 私は、ともかく郷里の一人娘と妻に携帯でメールを送り、特に田辺には厳重に注意するように連絡するとともに、帰りの北陸新幹線の中で今までの一連の事件の謎を自分なりに説いてみる事とした。その北陸新幹線の中で、一口ビールを飲むと気分が落ち着き、この一年間の出来事がDVDの早送り再生のように思い起こされて来たのであった。


 殺された石嶌聖美を筆頭に、近所の一家惨殺の女子大生にしろ、あの全裸自殺したお嫁さんにしろ、今になって思い出してみると、総て人並み以上の美人達であった。


 ……と言う事は、田辺の最後の狙いは、もしかしたら、私の施設の松浦宏美ではなかろうか?


 要するに、田辺は、自分の顔が「フランケンシュタイン」に似ており大変に醜い分だけ「美人」に対して異常な敵対心を持っていたに違いないのだ。

 そして私の施設に少しでも関係のあった美人達を、次々と殺していったのだ。今年の新年から、私の施設入所者に異常な死亡が相次いだのは、多分、その予行練習だったのだろう。


 これが、私の出した結論だったのだ。


 私は、探偵漫画の『金田一(きんだいち)少年の事件簿』の主人公(金田一一少年)の有名なセリフを思い起こし、


「謎は全て解けた!」と、北陸新幹線の中で大声を上げたため、近くの乗客から奇異な目で見られた程である。


だが、ようやく郷里の北陸地方に辿り着いた私は、そこでまたもや腰を抜かす程の衝撃的なニュースを、テレビニュースで知ったのある。


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