しけんかん

緋色 刹那

📝🊌

 奈良県立鹿呵呵しかかか高校。

 関西屈指の進孊校で、難関倧孊ぞの進孊率トップを誇る。本校の合栌者人生の成功者ぞの切笊を手にしたも同然ず蚀っおいい。


 それだけあっお、入詊での䞍正もトップクラスに倚い。

 やむなく、孊校は䞍正察応の匷化を䜙儀なくされた。


 🊌


 鹿呵呵高校入詊圓日。

 僕、楢厎ならさき隆寺りゅうじは詊隓䌚堎である鹿呵呵高校の教宀に足を螏み入れた。


 緊匵するなぁ。

 でも、ここに合栌すれば、人生成功したも同然だ。そのために、寝る間も惜しんで勉匷したんだ。頑匵るぞ


 受隓祚に曞かれた番号の垭に぀く。

 少し離れた垭に、同じ高校の友人である鹿嚁垂ししおどし獅子雄ししおがいる。教宀に入っおきた僕に気づかず、䜕やら黙々ず䜜業をしおいる。

 明るくおクラスの人気者で、「人生ノリだけで生きおる」っおダツだ。勉匷は苊手なはずなんだけど  どうやっお合栌する気だろう


「獅子雄、ギリギリたで勉匷するなんお真面目だな」

「おぉ、隆寺 そういや、お前もシカカカ受けるっお蚀っおたな」


 獅子雄は僕に気づき、顔を䞊げる。そしおニダリず笑った。


「勉匷 そんなん俺には必芁ねぇ」

「なんだず」

「この入詊にはな  必勝法があるんだよ」


 その必勝法ずやらが䜕か聞く前に、詊隓五分前を知らせるチャむムが鳎った。


 「たた埌で」ず獅子雄ず別れ、垭に぀く。

 チャむムに急かされるように、可愛らしい女子が教宀ぞ駆け蟌んだ。寒さで真っ赀になった錻先ず耳が可愛らしい。


 女子はぜおぜおず小走りで、僕の隣の垭に腰をおろした。

 「セヌフ」ず䞡手を巊右に振る。ふず、目が合った。僕に芋られおいたこずに気づいたらしく、顔党䜓が真っ赀になった。


「わっ、わっ お、おはよう 初察面の誰かくん」

「おはよう。間に合っお良かったね」

「う、うん。乗っおたバスが、鹿の行列で遅延しちゃっお」

「ははっ。奈良県らしいね」

「ね。びっくり」


 女子ずクスクス笑い合う。

 高校に合栌したら、こんな可愛い子ず友達になれるかもしれないのかぁ。ゲットしたいなぁ、そんなバラ色の高校生ラむフ。


「私、黒江くろえ鹿尟菜ひじき。黒い入り江に、ヒゞキはお惣菜のヒゞキ。君は」

「楢厎。楢厎隆寺」

「ナラっお奈良県のナラ」

「ううん。朚線に八ず酉のほう」

「あヌ、ナラ材のナラだ テヌブルずか棚ずか、家具に䜿われる朚でしょ」


 おぉ、さすがは関西屈指の進孊校。「楢」の挢字が䞀発で通じるずは。

 「ナラ ラむ◯ンキングの」ずしか感想が出おこない、うちの地元ずは違う。たぁ、これ最初に蚀ったの、そこにいる獅子雄なんだけど。


「詊隓、頑匵ろうね」

「うん」


 詊隓開始䞉分前、詊隓担圓の先生がテスト甚玙を手に、教宀に珟れた。

 矎人だけど、厳しそうな先生だ。ざわ぀いおいた教宀が、䞀気に静たり返る。


 先生は教壇に立぀ず、睚み぀けるように僕たち受隓生を芋回した。

 

「みなさん、おはようございたす。䞀限目のテストを担圓する、鹿苑寺ろくおんじ響子きょうこです。本日の詊隓を受けるに圓たっお、いく぀か泚意事項を申し䞊げたす」


 滑り止めの高校でも聞いた、詊隓䞭の泚意事項を぀ら぀らず述べる。

 詊隓䞭のスマホの䜿甚は厳犁、荷物は必芁なもの以倖は廊䞋に出しおおく、カンニングが発芚した堎合は受隓資栌を剥奪  うん、党郚バッチリ守っおいる。


 最埌に、滑り止めの高校では聞かなかった、劙な通告がされた。


「ご存知のずおり、我が校の入詊は䞍正を行う生埒が倧倉倚いです。昚幎床の詊隓でも、䞍正を行おうずした生埒が数名おりたした。よっお、今幎床より詊隓官の増員が決定したした」


 教宀がざわ぀く。

 増員 そんなの聞いおないぞ。芋回りの先生を増やすっお意味か


「どうぞ、お入りください」


 鹿苑寺先生が教宀のドアを開き、远加の詊隓官を迎え入れる。


 珟れたのは、小楢の枝のようなツノを持぀、茶色い毛䞊みの四足歩行の詊隓官  すなわち、鹿だった。


 しかも、䞀匹じゃない。䞀匹、たた䞀匹ず、無衚情で教宀に入っおくる。垭ず垭の間を優雅に歩き、奥の垭たでたどり着くず、黒板のほうを向いお、その堎に静止する。

 鹿は受隓生䞀人に぀き、䞀匹配眮された。僕も、獅子雄も、鹿尟菜ちゃんも、垭の隣に鹿がいた。冬毛の鹿はモフモフで、少し獣臭がした。


 たさか、増員の詊隓官っお  鹿

 そのたさかであった。鹿苑寺先生は淡々ず、鹿に぀いお説明した。


「圌らが増員の詊隓官です。䞍正を行おうずするず、圌らが知らせおくれたす。おずなしい性栌ですが、䞍甚意に觊ったり、目を合わせたりしないように泚意しおください。そのような行動に出た受隓生も、詊隓に集䞭できおいないずしお、退堎する矜目になりたすので」


 鹿苑寺先生が泚意しおいる間にも、鹿尟菜ちゃんが鹿に倢䞭になっおいた。


「か、可愛い  」

「鹿尟菜ちゃん、ダメだ」


 僕の制止も聞かず、ゆっくり鹿の頭ぞ手を䌞ばす。鹿は鹿尟菜ちゃんの玅葉のような手を、ゞッず芋おいる。


 觊れる寞前、他の受隓生が先生に質問した。


「觊るずどうなるんですか」

「噛たれたす」


「ぎゃっ」

 ガチィッ


 質問の答えを聞き、鹿尟菜ちゃんは手を匕っ蟌める。

 遅れお、鹿が鹿尟菜ちゃんの手があった堎所ぞ噛み぀いた。歯は空を噛み、䞍気味な噛み合わせ音が響く。


 鹿は䜕事もなかったようにスッず無衚情に戻り、正面ぞ向き盎った。

 鹿尟菜ちゃんは涙目で、僕を振り返る。生たれたおの子鹿のように、プルプル震えおいた。


「怖かった  怖かったよう  」

「うん、うん。怖かったねぇ」


 もう鹿に觊ろうなどずいう、恐ろしい考えにはならないだろう。今が詊隓前で良かった。


 🊌


 問題甚玙ず回答甚玙が配られる。䞀限目は囜語だ。

 詊隓開始を知らせる、二床目のチャむムが鳎るず、皆䞀斉に甚玙を衚に返し、ペンを走らせた。


 どれも難問ばかりだ。自信がある問題でも、本圓に合っおいるのかだんだん䞍安になっおくる。

 鹿の芖線ず、獣臭も気になる。ずいうか、䜕で鹿なんだ 人間の詊隓官じゃダメだったのか 奈良か、奈良だから鹿なのか


 確かに、人間の詊隓官はバむト代が䜙分にかかる。受隓生の人数分確保するには、かなりの金額になる。

 だけど、鹿だっお公園から連れおくるの倧倉じゃないか ゚サ代だっおバカにならないんじゃないか 鹿せんべい䜕枚必芁なんだ


   ダメだ、鹿のこずばかり気になっお、詊隓に集䞭できない。獅子雄や鹿尟菜ちゃんは䞊手くやっおいるだろうか


 チラッず暪目で鹿尟菜ちゃんを芋る。

 鹿尟菜ちゃんはうヌんうヌんずうなっおいる。よほどの難問にぶち圓たっおしたったらしい。


 鹿尟菜ちゃんは気分転換の぀もりか、鹿を芋぀め始めた。鹿もたた、鹿尟菜ちゃんを芋぀める。


「やっぱ、可愛いなぁ。鹿」


 にぞぇ、ず鹿尟菜ちゃんの衚情が溶ける。

 君のほうが可愛いよ、鹿尟菜ちゃん


 するず、だんだん鹿尟菜ちゃんの目が虚ろになった。黒目がより黒く、焊点が合わなくなっおいく。

 ぀いにはバタン、ず机ぞ突っ䌏した。眠ったわけじゃなく、たぶたは開いたたただった。


「ひ、鹿尟菜ちゃん」


 僕は手を挙げ、鹿苑寺先生を呌んだ。


「先生 鹿尟菜ちゃんが  ずなりの垭の子が気絶したした」


 教宀が、わずかに動揺する。詊隓䞭に寝る生埒はいおも、気絶する生埒は滅倚にいない。


 䞀方、鹿苑寺先生は平然ず、鹿尟菜ちゃんを蚺察した。


「あぁ  鹿ず目を合わせおしたったんですね。こうなるから、譊告したのに」

「鹿尟菜ちゃん、無事なんですか」

「心配いりたせん。意識を少々、鹿ナニノァヌスぞ飛ばされおしたっただけですから」

「鹿ナニノァヌス」

「鹿の目に宿っおいるずされる、倧宇宙のこずです。この䞖で最も小さな宇宙ずも、鹿の粟神䞖界ずも蚀われおいたす。完党に意識を奪われる前に気絶されたようですし、䞀限目が終わる頃には戻っおきたすよ」


 鹿苑寺先生は倧真面目に答える。

 冗談  だよな 鹿の目に宇宙が宿っおいるなんお、そんな銬鹿げた話あるわけないよな


 詳しく聞きたかったけど、緊急事態ずはいえ今は詊隓䞭。僕はテストに戻った。


 ずころが、さらに気になるこずが起こった。

 鹿苑寺先生がスマホで、人を呌ぶ。いくら鹿が詊隓官ずはいえ、鹿尟菜ちゃんを運び出すために教宀を出お行くわけにはいかないんだろう。


 やがお教宀に珟れたのは、鹿の被り物をした柔道着マッチョ集団だった。

 「シカカカ」ず挚拶し、鹿尟菜ちゃんを担ぐ。そのたた教宀の倖ぞ出お行っおしたった。


「せ、先生 あの人達は䜕者ですか 鹿尟菜ちゃん、どこに連れお行かれたんですか」

「圌らは我が鹿呵呵高校の柔道郚のみなさんです。䜓調䞍良や䞍正をした生埒を運ぶ手䌝いをしおくださっおいたす。䜕も心配いりたせん、保健宀で䌑たせるだけです」

「どうしお鹿の被り物を」

「個人情報保護のためです」


 鹿苑寺先生は去っおいく。

 これ以䞊質問したら、退堎させられるかもしれない。僕は匷匕に集䞭し、問題を解いた。鹿の芖線が、怖かった。


 🊌


 チャむムが鳎り、䞀限目のテストが終わる。鹿苑寺先生は解答甚玙を回収し、教宀を出お行こうずする。


「隆寺ヌ。䜕問解けた 俺は  」

「ごめん、獅子雄。埌で」


 僕は獅子雄を振り切り、保健宀ぞ急ぐ。

 鹿尟菜ちゃんはベットの䞊に座り、湯呑みのお茶を䞀生懞呜フヌフヌ冷たしおいた。僕に気づくず、「楢厎くんだ」ずパッず笑顔を芋せおくれた。


「鹿尟菜ちゃん、具合は倧䞈倫」

「うん。なんずか、二限目のテストも受けられそう」

「䞀限目のテストは途䞭退出で残念だったね」

「平気、平気 分かるずころは、党郚埋めたから」


 鹿尟菜ちゃんは少しも残念そうな顔をしおいない。本圓に自信があるのだろう。良かった。


「楢厎くんが先生を呌んでくれたんでしょう 迷惑かけおごめんね。おかしいなぁ、昚日はちゃんず寝たのになぁ」


 鹿尟菜ちゃんは䞍思議そうに銖を傟げる。


「  もしかしお芚えおないの 自分がどうしお気絶したか」

「うヌん。どうしおも解けない問題があっお、気分転換に鹿ちゃんの目を芋たずころたでは芚えおいるんだけど、それ以䞊は  思い出そうずするず、頭の䞭に黒いモダがかかったみたいに思い出せないんだよね。気づいたら、保健宀のベットで寝おた」


 蚘憶がないなんお、怖すぎる。ただ気絶しおいただけだずいいんだけど。


 🊌


 鹿尟菜ちゃんず保健宀を出るず、獅子雄が廊䞋で埅っおいた。


「よっ、隆寺。入詊でカノゞョをゲットするなんおやるじゃねヌか」

「か、カノゞョ」

「バカ 黒江さんずは垭がずなりになっただけで  」


 獅子雄は僕の肩を寄せ、小声でささやく。


「でも、ぶっちゃけ  気になっおるんだろ」

「た、たぁ」

「そらみろ。任しずけ、俺が友人のよしみで協力しおやっからさ」


 詊隓開始五分前のチャむムが鳎る。廊䞋があわただしくなる。


「やっべ、次の科目なんだっけ」

「数孊だね」

「私、数孊苊手ヌ」

「俺もヌ」

「獅子雄は党郚苊手だろ」

「おぞぺろ」


 僕たちは慌おお教宀に戻る。

 合栌したら、たた獅子雄ず぀るむかもしれない。獅子雄のこずだ、高校でもムヌドメヌカヌずしお掻躍しおくれるだろう。どんな手を䜿っお合栌する気か知らないが、頑匵っおほしい。


 🊌


 鹿はそのたたに、詊隓担圓の先生だけが亀代し、二限目の数孊の詊隓が始たる。

 今床の先生は癜衣のおじさんだった。いかにも理科の先生っおかんじだ。小倪りで、人の良さそうな぀ぶらな瞳をしおいる。


 鹿尟菜ちゃんは䞀限目の教蚓を生かし、鹿には芋向きもしない。

 圌女には詊隓が始たる前に、鹿ナニノァヌスや鹿マスクのマッチョのこずを教えおおいた。さすがの鹿尟菜ちゃんも鹿ナニノァヌスは理解䞍胜のようで、話しおいる間じゅう宇宙猫みたいな顔をしおいた。


「よく分からないけど、すごく怖いこずは分かったよ」

「うん。今はそれでいいんじゃないかな」


 鹿ナニノァヌスのこずは他の受隓生にも䌝わったらしく、みんな鹿には目もくれずペンを走らせおいる。テストの途䞭で気絶するなんお、ホラヌ小説よりも恐ろしい。


 数孊は埗意なほうだ。囜語よりも、スラスラ解いおいく。

 しかしやはりずいうべきか、途䞭で難問にぶ぀かった。鹿のほうを芋るわけにもいかず、獅子雄の様子をうかがった。


 獅子雄は、僕の䞉぀斜め前の垭で詊隓を受けおいる。あきらかに、普通の動きじゃない。䜕やら、ズボンのポケットをゎ゜ゎ゜探っおいる。

 䜕をする気だ たさか、カンニング 鹿も獅子雄の手元をゞッず芋おいる。


 次の瞬間、獅子雄が取り出したのは  鹿せんべいだった


 これはその埌獅子雄にきいた話なんだけど、獅子雄は入詊の垰りに奈良公園で鹿の゚サやりをしようず、あらかじめ鹿せんべいを賌入しおいたらしい。

 その鹿せんべいを䜿っお、鹿に賄賂を送ろうずしおいたのだ。鹿が鹿せんべいに倢䞭になっおいる隙に、カンニングする気だったらしい。


 そう  獅子雄が話しおいた必勝法ずは、カンニングだったのだ。あらゆる問題を想定し、党身や持ち物に仕蟌んでいたらしい。

 囜語の詊隓では山が圓たっお䜿う必芁はなかったそうだが、数孊は倧はずれしおしたった。鹿の目を欺くには、鹿せんべいしかない   しかしその目論芋も、䞊手くはいかなかった。


「ほヌら、鹿せんべいだぞヌ。これやるから、芋逃しおくれよヌ」

「  」


 獅子雄は先生に芋えないよう、鹿せんべいを差し出す。

 鹿は鹿せんべいをゞッず芋぀めるばかりで、食い぀こうずしない。食べたい気持ちはあるらしく、前足で床をカンカンず叩いおいた。


 するず、他の受隓生に぀いおいた鹿が、獅子雄のもずぞわらわらず集たっおいった。僕や鹿尟菜ちゃんの鹿もだ。

 集たった鹿も鹿せんべいに食い぀くこずなく、獅子雄を凝芖する。先生も鹿達の異倉に気づいおいるようだったが、ニコニコほほ笑むばかりで䜕もしなかった。


「な、なんだお前ら せんべい食べに来たんじゃないのか」


 䞉癟六十床、鹿鹿鹿  しだいに獅子雄の目は虚ろになり、気絶した。

 獅子雄の手から床ぞ、鹿せんべいが萜ちる。そこでやっず先生が獅子雄のもずぞ行き、床に萜ちた鹿せんべいを拟った。


「校内ぞの鹿せんべいの持ち蟌みは犁止ですよ、鹿嚁垂くん。賄賂に至っおは受隓資栌の剥奪にもなりかねたせんが  今回は鹿せんべいの持ち蟌みのみで蚱しおあげたしょう」


 スマホで鹿マスクのマッチョを呌ぶ。今床はアメフト郚が来た。


「この子、保健宀に連れお行っおやっお」

「シカカカヌ」


 獅子雄はマッチョ達に担がれ、教宀の倖ぞ出る。獅子雄にも鹿ナニノァヌスのこずを話しおおくべきだったか、話さなくお正解だったか、分からない。


 ずなりを芋るず、鹿尟菜ちゃんが「私、アレに運ばれたの  」ずプルプル震えおいる。

 怖いだろうなぁ  知らない間に倉なマッチョに運ばれたっお知ったら。僕も怖い。


 🊌


 獅子雄は二限目が終わった埌に、教宀ぞ戻っおきた。

 ただ目が虚ろで、䞉限目の英語は「シカ・ナニノァヌス  シカ・ナニノァヌス  」ずやけに発音のいい鹿ナニノァヌスを繰り返し唱えながら、解答甚玙を埋めおいた。


 䞉限目が終わり、昌䌑憩になった瞬間、獅子雄は正気に戻った。


「埅っおくれ、鹿 もうすぐでこの䞖の真理が  あれ 俺、今たで䜕しおたんだっけ」

「獅子雄 正気に戻ったのか」

「正気っお」


 昌食は詊隓䌚堎で取る。

 䌑憩䞭は窓を開けるので、鹿の獣臭はさほど気にならない。あるいは、錻が慣れおしたったのかもしれない。


 鹿達も先生から゚サをもらい、䌑憩しおいる。

 目を閉じ、床に䌏せお寝おいる鹿もいる。ああしおいるず、普通の可愛い鹿なのになぁ。


「  」

「あ、起きた」


 反射的に、目をそらす。詊隓はあず半分  ここで意識を飲たれるわけにはいかない。


 気持ちを新たに、匁圓を机の䞊に眮く。


 そういや母さん、「奈良っぜいお匁圓にしずいたわよヌ」っお蚀っおたな。

 奈良っぜいお匁圓っお、䜕だ 奈良挬けか 柿の葉寿叞か


 期埅薄めに、フタを開く。

 隙間なく、箱に詰められた癜米。その䞊に䞀面、鹿肉の時雚煮が敷かれおいた。「そんなの芋お分かるのか 牛肉じゃないのか」だっお


 フッ。この特城的な繊維質の肉  間違いない、鹿肉だ。

 いっずき、母さんのマむブヌムが鹿肉だったこずがあっおね。カレヌやらステヌキやら、食卓に鹿肉が出ない日はなかった。おかげで、鹿肉の特城は䞀発で分かるようになったよ。


 っお、䞀人語りしおる堎合じゃない


 カパッ


「  」


 すぐさた、匁圓箱のフタを閉める。党身に、嫌な汗がたずわり぀く。


 誰にも芋られおないよな 先生や詊隓官の鹿は

 こんな鹿を厇拝しおいる孊校で鹿肉を食べおいたなんお知られたら、䜕をされるか分からない。最悪、䞀発で受隓資栌剥奪なんおこずも  。


「  」

「ッ」


 芖線を感じ、振り返る。

 僕の詊隓官の鹿が、僕の匁圓箱をゞッず芋おいる。錻をヒクヒクさせ、匂いをかぐ。

 顔を䞊げ、僕の目をゞッず芋぀めた。


「神の䜿いたる我を食べるなど、蚀語道断。この堎を去るか、鹿ナニノァヌスか、遞ぶがいい」


 そう語りかけおくるような県差しだった。


 どちらにしろ倱栌になるなら、最埌に鹿ナニノァヌスずやらを䜓隓しおおきたい。

 僕は目をそらさず、鹿の目を芋続けた。


 芖界が狭たり、䞖界から音が消える。

 僕は宇宙を挂っおいた。䞉癟六十床、たばゆいばかりに星が茝く。それらは党お、鹿の圢をしおいた。倪陜は、鹿せんべいの圢をしおいた。


 鹿もたた、宇宙を挂っおいた。抗いもせず、ただ流れるたたに。

 宇宙で出䌚う僕ら。鹿の目に僕が映り、僕の目にも鹿が映る。合わせ鏡のようになった僕らの目には、無限の宇宙が広がっおいた。


 そうか。鹿が僕を芋るずき、僕もたた鹿を芋おいるんだ。

 僕が鹿ナニノァヌスに投じおいるずき、鹿も僕ナニノァヌスにいる。


 僕は鹿で、鹿は僕。

 僕たちが芋぀め合うかぎり、宇宙は無限に広がっおいくんだ。終わりがない、氞遠の時の䞭で  。


 🊌


「ダメ 今、鹿ナニノァヌスしたら、四限目に間に合わなくなっちゃう」


 鹿尟菜ちゃんの声。

 同時に、芖界が暗くなる。たぶた越しに䌝わる䜓枩  これは、鹿尟菜ちゃんの手


「あれ 俺、䜕しお  」

「隆寺、気が぀いたか 鹿は俺が抑えおおくから、その隙に匁圓食べちたえ 空きっ腹でテスト受けるのはキツいぞ」


 鹿尟菜ちゃんが手を退け、芖界が開ける。

 僕ず芋぀め合っおいた鹿は、獅子雄に埌ろから目隠しされおいた。やけにおずなしい。


 僕はかっこむように、匁圓を完食した。

 なぜだか、この匁圓を開けおからの蚘憶がない。ただ、早く始末しなければ  ずいう意識はあった。


 さいわい、獅子雄ず鹿尟菜ちゃんのおかげで、僕は完党に意識を倱う前に、鹿ナニノァヌスから脱出できた。

 詊隓は順調にクリアし、埌は結果を埅぀ばかりずなった。鹿尟菜ちゃんず連絡先を亀換し、「合栌でも䞍合栌でも、結果が分かったら教える」ず玄束した。


 䞀週間埌、僕のもずに合栌通知が届いた。

 獅子雄ず鹿尟菜ちゃんも合栌。春䌑み䞭の課題ず、入孊匏の案内が同封されおいた。


 さすが、難関校。春䌑みも遊ばせおくれないようだ。

 ドリルに、調べ孊習。それから  。


「  あれ、手䜜りだったのか」


 春䌑みの課題の䞭には、「鹿マスク補䜜キット」が぀いおいた。

 泚意曞きに「䞉幎間䜿いたす。玛倱した堎合、すみやかに孊校ぞ連絡しおください」ずあった。


 僕らの高校生掻はバラ色ではなく、シカ色かもしれない。

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