4-3:僕は、みんなを好きでいたい
少しずつ、町の空気がおかしくなっていく。
今までも、十分に居心地は悪かった。哲宏たちが僕を変に持ち上げたせいで、『普通じゃない猫』として注目されることはあった。
けれど、今はその比じゃない。
曲がり角を過ぎ、その先で小学生の子供たちと遭遇する。
「あ」と声が漏れるのを聞く。猫を見て喜ぶような声じゃない。
今のは、不安とか嫌悪から来る声。大きな蛇でも見つけた後のような、僕を嫌っている奴が出す声だ。
「あの猫、アイツだよね?」
男の子の一人が言い、四人組がその場で固まる。
そのすぐ後に、小石が飛んできた。
「死ね! 死ね! クソ猫!」
僕に対し、近くに落ちていた小石が次々投げられる。
なんだよ、と思いながら、すぐに踵を返す。幸い追っては来なかったけれど、土のついたものをぶつけられスカーフまで汚れてしまった。
町の中を駆けて行き、人気の少ない路地に入って行く。猫殺しおばさんが住んでいた辺りに行くと、まだ悪霊と化した猫たちが蠢いていた。
そんな中に一匹だけ、普通の猫の幽霊がいる。
なんだよ、と半透明な奴をじっと見る。
どこかで車にでも轢かれたか。猫殺しおばさんの被害者じゃないから、まだ普通の幽霊でいられるのか。
そんな風にして、静かに観察していた。
数秒後、僕は両目を見開く。
少し離れた場所に、『そいつ』の死骸が転がっていた。
全身茶色の猫。どう見ても車にはねられた死にかたじゃない。棒か何かで何度も叩いて殺されたような痕跡だった。
「そういうことかよ」
頭の中が熱くなりそうだった。
すぐに死体のあった場所から離れ、路地から出ようとする。
ショコラのせいだ。
あいつが、猫に取り憑いては人に呪いをかけて回るから。だから猫は不気味だって考える人間が増えて、『こんなこと』をする奴まで出始めた。
ぼんやりと、黒い影が見える気がした。
(これが人間なんだよ)
もう、体の中にあいつはいない。
それでも、ショコラの声が聞こえる気がした。
これがきっと、ショコラの見てきた世界。
幽霊を探知できる猫として、心霊番組に出演した。その先で悪霊を見つけてしまい、その場にいた大勢が死ぬ事態を作った。
事態を理解できない人間は、ショコラが呪いをかけたんだと疑った。おばあちゃんもショコラを持て余した。
その先で、人間たちの手で殺された。
ほんの少しでも不安を抱けば、誰かとか何かのせいにして、一斉に襲い掛かる。おばあちゃんが詐欺師として責められたのだって、それと同じことだ。
人間というのは、やはりそういうものなのか。
「スカーフ、汚れちゃってるな」
リビングの隅に座り込んでいると、アツヤが僕の変化に気づく。「ユー、サチ、ちょっとおいで」と声を上げ、僕の方へ来るよう呼び掛けていた。
「誰かに、意地悪でもされたのかな。今、猫を見ると攻撃したがる奴がいるから。だからパルメザンも、あんまり外に行かない方がいいのかもな」
そんなことを言いながら、僕の首からスカーフを外す。「ちょっと待ってな」と言い、丁寧に両手で持って、台所の方へと歩いていった。
「ユーたちもさ、学校で変なことを言われるかもしれないけど、気にするなよ」
アツヤは洗面器に水を入れ、洗剤を使って丁寧にスカーフを手洗いしてくれる。汚れが落ちた後には洗濯バサミで挟み、リビングに干してくれた。
「パルちゃん、お風呂にしよう」
ユーちゃんたちが僕を連れていき、ぬるくしたお湯で体を洗ってくれる。その後はゆっくりとドライヤー。
この家に来てからは、ずっと大事にされている。
おばあちゃんの時と、何も変わらない。
僕は、この子たちのことが好きだ。
だから、一緒にしたくない。猫を殺すような奴らもいる。変に僕を怖がる奴もいる。
みんながみんな、悪い奴ってわけじゃないんだ。
だからずっと、この子たちを好きでいたい。
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