理想の全肯定メイドと現代ダンジョン攻略〜どんな時も甘やかしてくれる完璧で究極のメイドが、頼れる相棒として共に戦い、全てを無条件に褒めてくれる。甘やかされ、認められながら、やがて最強に至るハクスラ生活〜
第9話 今日は少し……甘えても、よろしいでしょうか
第9話 今日は少し……甘えても、よろしいでしょうか
夕方。ギルドで報酬を受け取った後、少し買い物をしてから宿へ戻った。俺たちの部屋は二階にあり、窓からはリスタウンの街並みが見下ろせる。夕焼けが赤く染まり、遠くのビルや建物が幻想的に霞んでいる。
「ご主人様、シャワーの準備が整いました。よろしければ、先にどうぞ。下水道の汚れをすぐに落としてしまいましょう」
アメリアが小さく会釈しながら告げる。俺は「ああ、助かるよ」と応じて立ち上がる。正直、汚い場所を歩き回ったせいで服も泥だらけだし、匂いも気になる。
「ありがとう。じゃあ、先に浴びてくる」
「はい、私はその間に装備品や服を洗濯しますので、脱いだものをこちらへ置いてください」
こういう時の手際の良さが、まさにメイドだと感心する。俺はアメリアに言われた通り、脱いだ服をまとめ、タオル一枚でバスルームへ向かった。
シャワーを浴びながら、今日のクエストを思い返す。スラッジラットという雑魚モンスターとはいえ、想像以上に汚い環境での戦闘は独特の疲労をもたらした。それでもアメリアが隣で笑顔をくれたから、俺はうまく対処できたのだろう。
(アメリアって、母のように優しくて、姉みたいに頼れて、でも恋人や妻みたいに甘やかしてもくれる……ホント、いろんな要素が混ざって、俺を全肯定してくれる究極のメイドだよな)
そう考えると、自然と笑みがこぼれる。前世の自分が知ったら驚くだろう――こんなに温かくて優しい存在がいつも傍にいるなんて夢みたいだ、と。
シャワーを終え、さっぱりした気分で部屋に戻ると、アメリアがベッドの端に座っていた。手には俺の服を収めた洗面器を抱え、にこやかに振り返る。
「ご主人様、おかえりなさいませ。ちょうど下洗いが終わりましたので、これから干してまいりますね。ああ、そうだ、よろしければ私が髪を乾かして差し上げましょうか?」
「髪を……? い、いいの? そこまでやってもらったら申し訳ない気もするけど」
「申し訳なくなんて、全くありませんわ。こうしてご主人様をケアすることが、私にとって最大の喜びです。さあ、こちらへどうぞ」
アメリアはドライヤーを手に取り、俺をベッドに腰掛けさせる。濡れた髪へタオルをあて、優しい力加減で水分を吸い取ってくれる。
「ん……気持ちいい……」
「ふふ、ご主人様、少しうとうとされているかもしれませんね。お疲れでしょうから、リラックスなさってくださいませ」
まるで美容院で髪を洗ってもらう時のように、ふんわりとした安心感が押し寄せる。アメリアの手つきは慣れているのか、実にスムーズだ。次第にドライヤーの温風があたたかく感じられて、頭がぽかぽかしてくる。
「……ありがとう、ほんとに。こんなの、前の世界じゃ考えられなかった」
「いえ、これくらい当然のことです。ご主人様がほっとしてくださるなら、私はそれだけで十分満たされます」
アメリアの声が柔らかく耳に届く。静かな空間の中で、俺はうつらうつらしそうになりながら、彼女の存在に心を委ねていた。すると、ふいにアメリアが髪を整え終え、そっと後ろから俺の肩を包み込むように抱きしめてきた。
「……っ、アメリア?」
「はい……ご主人様。今日は少し……甘えても、よろしいでしょうか」
アメリアの声はどこか熱を帯びていて、いつもより控えめに震えている。俺は思わず胸が高鳴り、ゆっくりと振り向いて彼女の瞳を見つめた。
「もちろん。……甘えるっていうか、俺はいつも甘やかされっぱなしだけどな」
「いいえ、私はもっと積極的にご主人様と触れ合いたいと思う時があるのです。夜は一緒に寝させていただいていますけれど、日中はクエストや準備でお忙しそうですし……」
珍しく言葉を詰まらせるアメリア。それが愛しく、可愛らしくて、俺はそっと彼女の手に触れる。
「そっか……そういうときは遠慮なく言ってよ。アメリアが望むなら、いつだって一緒にいたいよ」
「ありがとうございます。ご主人様は、やはりお優しい……」
そのままアメリアは俺の肩に顔をうずめ、抱きつくような格好になった。黒髪がさらりと流れ、首筋に彼女の体温が伝わる。俺は軽くどきりとしながら、アメリアの背をそっと撫でる。
「(……こうして抱き合うだけで、まるで全身が癒やされる。アメリアの匂いと温もりが心地いい……)」
「ご主人様……ずっと、こうしていてもいいですか?」
「ああ……俺も嫌じゃない。むしろ、すごく落ち着く」
言葉を交わすたび、胸がじんわり熱くなる。もう日も暮れてきたし、今日はクエストを終えたばかり。少しの間、こうして甘い時間に浸ってもいいだろう。
アメリアは俺の首元に頰を寄せ、まるで恋人のように、あるいは子供をあやす母のように、さらに姉が弟を慈しむように――あらゆる優しさと慈しみを合わせもった仕草で、穏やかに息をつく。
「ご主人様……大好きです。こうやって抱きしめさせていただけるだけで、私の心は満たされます」
「俺も、アメリアがいてくれると、本当に安心する。……ありがとう」
会話はそれだけで十分だった。夜の帳がゆっくりと降りる中、二人はしばし言葉もなく互いの体温を分かち合う。こんなに深い安らぎを得られるなんて、前世じゃ考えられなかった。
しばらくしてアメリアがはっと顔を上げ、「あ……ごめんなさい、私ったら……洗濯物を干しに行かないと」と言い出す。
「いいよ、後で一緒に行く。アメリアが洗い物してくれるのもありがたいけど、俺だって手伝いたいから」
「まあ……ご主人様がそうおっしゃるなら、ぜひお願いいたします。二人で作業するのも楽しそうですね」
アメリアが笑顔を見せると、俺も自然と笑みがこぼれる。こうして小さな幸せをかみしめる毎日――それこそが、転生して手に入れた最大の宝物かもしれない。
その夜も、二人で洗濯物を干してから夕食を取り、部屋でマッサージを受け、最後は同じベッドに寄り添って眠る。アメリアの柔らかい香りと腕の中に抱きしめられながら、俺は深い眠りに落ちた。
「ご主人様、おやすみなさいませ……。明日もきっと素晴らしい一日になりますわ」
その優しい囁きを聞きながら、俺の意識は幸せな闇へ溶け込んでいく。ダンジョン攻略という非日常をこなしながらも、こういう何気ない時間が俺にとって最高の安らぎだ。
――まだまだ、俺たちの冒険は続く。けれど、このひとときは何者にも邪魔されたくない。甘くて静かな夜を味わいながら、俺は眠りの中で明日を夢見た。
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