第6話 少しずつ慣れてきた気がする

次の層へと足を踏み入れると、空気が一変した。これまでの湿っぽさは薄れ、代わりに冷たい乾燥した風が肌を刺す。足元には砂利が敷き詰められ、硬い石壁が続いている。


「リュシア、この層は何が特徴なんだ?」


「ご主人様、この層は『風刃の回廊』と呼ばれています。風の魔力が強く影響しており、モンスターも俊敏で風を操るものが多いと言われています。」


「なるほど。俊敏な相手ってのは厄介そうだな。」


「はい。そのため、相手の動きを読むことが特に重要になります。ご主人様、どうかご注意を。」


リュシアの説明に耳を傾けながら進む。風が時折渦巻くように吹き抜け、その音が不気味に響く。視界には何も見えないが、何かが潜んでいる気配は確かに感じられる。


数分進むと、遠くに何かが動いたような気がした。砂利を蹴る微かな音が耳に届く。


「リュシア、何かいるな。」


「はい、ご主人様。前方にモンスターの気配を感じます。」


注意を払いながらさらに近づくと、ついにその姿が現れた。細身の体に鋭い羽を持つ鳥のようなモンスターが三体、こちらを睨んでいる。


「やっぱり来たか……どう戦う?」


「ご主人様、これらのモンスターは空中を飛び回りながら風刃を飛ばして攻撃してきます。まずは動きを封じることが重要です。」


「封じるって、どうやればいい?」


「彼らが着地するタイミングを狙ってください。その瞬間は無防備になります。」


リュシアの言葉に従い、俺は武器を構えた。モンスターたちは鋭い鳴き声を上げながら風刃を放ってくる。風圧が顔をかすめ、ヒヤリとするが、冷静さを保って動きを観察する。


一体がふと地面に降り立った瞬間を見逃さず、素早く突撃する。


「これでどうだ!」


武器が正確に命中し、一体目を仕留めることに成功した。残り二体は警戒しつつも、激しく動き回っている。


「ご主人様、良い判断です。この調子で進めましょう。」


「わかった!」


モンスターたちの動きを読みながら、一体ずつ確実に仕留めていく。リュシアも的確なアドバイスでサポートしてくれるおかげで、無駄な動きを減らすことができた。


最後の一体を倒し終えると、息を整えながら周囲を見渡す。


「ふう……なんとか片付いたな。」


「お見事です、ご主人様。しかし、この層の試練はまだ始まったばかりです。」


「わかってるよ。でも、少しずつ慣れてきた気がする。」


俺たちはさらに奥へと進んだ。回廊の中ほどに差し掛かったところで、突然足元が震え始めた。砂利が跳ね、壁から風が吹き付ける。


「リュシア、これは……!」


「ご主人様、ボスモンスターの気配を感じます。おそらく、この層の中心にいるのでしょう。」


警戒を強めながら進むと、ついに巨大な広間に出た。中心には、まるで竜巻そのものが具現化したような巨大なモンスターが待ち構えていた。その身体は半透明で風そのものが形を成している。


「これがボスか……どう戦えばいい?」


「ご主人様、このモンスターは竜巻状の身体を持っているため、直接の攻撃が通りにくいです。しかし、中心部に核が存在します。それを狙えば倒せるはずです。」


「核か……どうやって近づけばいい?」


「風が弱まる瞬間を狙ってください。その間に接近し、一撃で仕留める必要があります。」


リュシアのアドバイスを胸に、俺は風の動きを注意深く観察した。竜巻は激しく渦巻いているが、一瞬だけ動きが緩むタイミングがある。それを見逃さず、突進する。


「今だ!」


竜巻の中心に飛び込み、武器を振り下ろす。だが、核に届く前に強烈な風圧で弾き飛ばされた。


「くそっ、簡単にはいかないか……!」


「ご主人様、大丈夫ですか?」


「なんとか。もう一回だ、次こそ仕留める。」


立ち上がり、再びチャンスを伺う。竜巻が一瞬弱まった瞬間、今度はさらに力を込めて突撃する。


「これで終わりだ!」


武器が核に命中し、竜巻が一気に崩れ落ちた。激しい風が消え去り、静寂が広がる。


「やったか……?」


「はい、ご主人様。見事な戦いでした。」


リュシアが静かに歩み寄り、俺を支える。その穏やかな微笑みに、少しだけ緊張が解けた。


「これでこの層もクリアだな。次に進む準備をしよう。」


「はい、ご主人様。ですが、少し休憩を取られてはいかがでしょうか?」


「そうだな、少しだけ休むとするか。」


俺たちは回廊の片隅で腰を下ろし、次に進むエネルギーを蓄えた。

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